より強く、しなやかに
アストンマーティンの擁するFRスポーツ「ヴァンテージ」が、より高性能な「ヴァンテージS」に進化。よりたくましいエンジンを獲得し、卓越したコーナリング性能に磨きをかけつつ、“優しさ”も身につけた最新モデルの走りを報告する。
ラインナップ随一の“ファイター”だった
「ヴァンテージはファイターですからね」。ニコニコ笑いながらそう話してくれたのは、4代目ヴァンテージのビークルダイナミクスをつくり上げたマット・ベッカーさん。2017年の晩秋、日本国内で現行ヴァンテージがお披露目された直後にインタビューしたときのことだった。
ベッカーさんは、かつてロータスで車両のシャシー開発を担当していた人物。ハンドリングを軸とした“走りの味”のスペシャリストだ。2015年に、当時のCEOだったアンディ・パーマーさんに誘われてアストンマーティンへ移籍し、車両特性エンジニアリングのチーフエンジニアに就任。既存のモデルの改良や、開発が進んでいた「DB11」の味つけに関与した後、ゼロから新型ヴァンテージを手がけたのだった。
そのときは発表直後で未試乗だったのだが、ベッカーさんのロータス時代の作品はもちろんすべて体験していたし、ただでさえハンドリングのよかった3代目ヴァンテージをベースに、彼が究極的なハンドリングマシンへと仕立て上げた「GT12」や「GT8」には骨抜きにされた経験がある。ベッカーさんが“ファイター”と称する新しいヴァンテージのダイナミクスに、超がつくぐらい期待が膨らんだのも当然のことだった。やたらと胸が躍ったのだ。
今になってなぜそんなことを思い出したのかといえば、最新のヴァンテージSに乗り込んで走りだした途端、「あれ?」と感じたからだ。そのクエスチョンマークは、都内の一般道から高速道路にかけて穏やかに移動している間中、大きくなったり小さくなったりしながら、頭のなかに居残っていた。
“S”のつくアストンマーティンには、既存のモデルより高いパフォーマンスが与えられるのが通例だ。このヴァンテージSも、メルセデスAMG由来の4リッターV8ツインターボエンジンは、パワーが+12PSの680PSへと引き上げられ、トルクは800N・mというピーク値こそ変わらないものの、発生回転数が750rpm引き下げられ、2000rpmから5000rpmの間で最大トルクを発生し続ける図太いトルクバンドを持つようになった。
325km/hという最高速に変わりはないが、まぁ日本では数字以上の意味を持たない性能だ。一方、0-100km/h加速が0.1秒短縮されて3.4秒となったことは、ちょっとばかり大きいかも、と思った。中間加速、つまりコーナーからの脱出速度やその後の伸びが向上しているだろうと予想できるからだ。...