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タワレコ、「推し活グッズ」に舵を切り早10年…変遷する渋谷文化と推し活への潮流を紐解く
推し活に馴染みのない10年前に、ファンのニーズに応えた社員考案の「銀テープフォルダ」がブームの始まり
「当時は“推し活”という言葉が浸透していなかったのですが、男性アイドルグループを始めとするファンベースに向けた取り組みを、店舗事業全体として、CD販売促進を目的に強化していました。その頃、ファンはコンサートの銀テープを保管するために100円ショップのアイテムなどを工夫して自分でホルダーを作っていました。その情報をキャッチしてすぐに商品開発をスタートしました。
また、メンバーのカラーを意識した雑貨を販売する店舗もあり、それを上手く組み合わせたら、新たなニーズを掘り起こせると考え、グッズの種類を広げていきました。当時、弊社では『推し色グッズ』と呼んでいましたが、ファンが欲しいと思っているものの商品化を進めました」(長谷川さん)
「日常生活の中で推し活をする層が広がるのと同時に、熟成している印象があります。それに応えるように、市場の商品バリエーションやプロモーションが多様化し、同時に競合企業も増えてきている状況です。弊社では、商品ではなくファン目線を起点として、いかに共感し支持を得られるのか。それを継続していくことで、時代の変化に応えています」(蓮田さん)
スタッフがファンと同じ目線でグッズ制作、熱量が伝わる“手書きポップ”で築いたファンとの信頼関係
推し活の対象も、かつてはアイドルがほとんどだったが、いまではキャラクターにも広がり、需要の拡大に即してグッズ開発が進んだ。現在タワーレコードの「推し活グッズ」は400種類を超え、ここ数年は毎年20品目ほどのペースで増え続けている。昨年売上は前年比150%。コロナ禍を除くこの10年で右肩上がりの成長を続け、発売当初から300%以上の伸びになっているという。
商品開発で大切にしていることは、「推す人と同じ目線で『あるといい』が、アイデアの基本になります。既存の雑貨と比較して、使いやすく、ひとひねりある便利グッズなどのアイデア商品を開発することを心掛けています」と蓮田さんは語る。
「推しがいるスタッフが多いので、ファン目線に添った気の利いたものが、他社よりもあるのだと思います。一見、同じようなグッズでも、ファンやアーティストに対してフレンドリーな要素を盛り込み、クオリティを追求しているのがタワーレコードの強みです」(長谷川さん)
スタッフは全員音楽好き、その気持ちが手書きポップに表れ、熱量がファンに伝わり信頼へとつながる。それがタワーレコードのブランド力にもなっている。
「ファン目線で、ファンが喜んでくれることを積極的に店頭で表現して、発信する。そんな社風があります。それが推し活と親和性が高く、良い方向に作用していると思います」(長谷川さん)
どんなトレンドにも対応した売り場づくりと時代のニーズを捉えたレコメンド施策が強み
一方、ももいろクローバーZやでんぱ組.incといったコアなファン層を持つアイドルのほか、K-POPグループも、時代の流れの中でいち早く推していた。そこには、渋谷というカルチャーを発信する街で、タワーレコードが担ってきた役割がある。そんな話を振ると長谷川さんは「渋谷は昔から、最先端のトレンドとサブカルチャーが同居する街でした」と振り返る。
「もともと洋楽やJインディーズを中心に、それを好きなスタッフがレコメンドして、お客様がそれに応えてくれる。音楽ジャンルやカテゴライズが変わりながらも、変わらない芯としてやってきました。その中で、時代のトレンドやニーズを感じ取り、いわゆる推し活のような形の店頭の取り組みをしてきました。
そうした中、ターニングポイントになったのは、K-POPだと思います。その時の取り組みが、世の中全体の推し活ブームとマッチして爆発的に支持されたと考えています。私たちはあらゆるジャンルの音楽ファンに向け、常にさまざまな取り組み行っていますが、時代の移り変わりに敏感に反応し続けたひとつの結果として嬉しく思っています」(長谷川さん)
「モノ消費からコト消費にマーケットが変わっていく中、ライブやイベント、展示などを来店し、楽しんでいただく。推し活はそこに密接にリンクします。それがセットになり、結果としてパッケージが売れるという流れに変わっています。そのスタイルの変化を意識しています」(長谷川さん)
「アイドルやK-POPだけでなく、クラシックなど、あらゆるジャンルを取り揃えた規模感のある店舗の特徴を活かした豊富な品揃えの中に、渋谷の街そのものや、お客様が求めるものがありました。そこに、音楽に精通したスタッフがいる。どんなトレンドにも対応して売り場を変え、時代のニーズを捉えたレコメンド店頭施策を実施する。それが強みになってきました。
いま渋谷は“推し活の街”とも言われていますが、昔と変わらずファッションの街であり、サブカルチャーの街であり、ごった煮の街の文化でもあると思うんです。その中からさまざまなトレンドが生まれ、お客様のニーズに応えながら、半歩先を提案してきました。それが続いて、渋谷カルチャーの発信拠点のひとつになっていったと考えています」
「海外に目を向けると欧米では、パッケージ(CDやBlu-ray Disc)を販売する店舗は殆どありません。タワーレコード渋谷店は、世界最大数のパッケージがあふれる場所として海外の音楽ファンにもご注目いただけるようになりました」(長谷川さん)
(文/武井保之)
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