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(更新: ORICON NEWS

線虫がん検査『N-NOSE』、「精度は公開済みの内容と変わらない」直近の報道に言及

HIROTSUバイオサイエンス 水島俊介氏

HIROTSUバイオサイエンス 水島俊介氏

 線虫という小さな生物の力を活用し、少量の尿でがんのリスク判定ができる検査キット『N-NOSE(エヌノーズ)』。自宅で安価に手軽に検査が行えることからその手法が注目されたが、一部報道をきっかけに検査の精度に対する賛否ある議論が交わされている。日本におけるがん受診率の低さ、がんに対する先入観、治療者のメンタル面でのケア不足など、がん自体にも様々な課題が見受けられるが、はたして『N-NOSE』はがんとの向き合い方を解決しうる一翼となるのか。ORICON NEWSではその普及に努めるHIROTSUバイオサイエンスの執行役員 水島俊介氏に取材。がん早期発見の取り組みにかける想い、直近の報道における見解を聞いた。

「がんが早期発見できる世界を作り、人々の健康と未来の安心を守りたい」

 線虫とは、犬よりも多い嗅覚受容体遺伝子を持った長さわずか1mm程度の微細な生物。その名を冠した『線虫の鼻(Nematode NOSE)』を意味する『N-NOSE』誕生のきっかけは、生物学者の広津崇亮氏が、ある条件下において、線虫が人の尿中から微細ながん細胞の匂いを検知して、がんに罹患している人とそうでない人を高精度で嗅ぎ分けることを発見したことだった。大学の助教を辞して起業した同氏は、2020年1月、実用化に成功。その取り組みの原動力となったのは、「がんが早期発見できる世界を作り、人々の健康と未来の安心を守りたい」という思いだった。

「がんは、あらゆる病気のなかでも死亡率が高く、命を守るためには早期発見・早期治療が重要といわれています。にもかかわらず、日本のがん検診受診率は国際的にも低く、OECD加盟国30か国の中でも最低レベルと言われています。内閣府の調査によると、その理由は、忙しくてなかなか時間がとれない、健康に自信があり必要性を感じない、費用がかかり経済的負担になる、検査に伴う苦痛に不安があるなど様々ですが、根本は、がんだけでなく病気全般に対して、良くも悪くも日本人は医師任せになってしまっていると感じます。日本では誰もが気軽に高水準な医療にアクセスできる。そのため、自分の身は自分で守らなければならないという危機感が育まれなかったのだと考えます」(株式会社HIROTSUバイオサイエンス 執行役員 水島俊介氏/以下同)

難しいとされていた“高精度”と“安価”を両立し、23年度の利用者は50万人を超過

 そんな現状を打破するために生まれた『N-NOSE』は、自宅で少量の尿を採取し提出することで、全身15種類のがん(胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮がん、すい臓がん、肝臓がん、前立腺がん、食道がん、卵巣がん、胆管がん、胆のうがん、膀胱がん、腎臓がん、口腔・咽頭がん)のリスク判定を行う。ハイリスクと判定された人に、その後の病院での検診受診を促す一次スクリーニング検査だ。

 サービス開始当初は、病院での受検のほか、ウェブで購入し、特定の提出拠点へ持ち込む方法だったが、昨年からは薬局にも取り扱いを広げ購入・提出の拠点を拡大。より身近となり、安価であることも大きな利点となって、利用者が増加していった。今年は利用者が50万人を超過、法人での導入企業も1000社から1800社(2023年10月末)に増加と拡大の勢いを増している。

 入社当時を振り返る水島氏は、「入社前にこの技術を知った時、本当なのかと、半信半疑なところはありました。嘘だろうって(笑)」と話す。「線虫という生物を使えば安くて全身の早期がんを簡単に判定できるって、そんなのドラえもんの世界じゃないか、と。広津CEOと話をして、論文を読み、検査のプロセスを理解する中で腹落ちしました。2022年に着任してから、僕がやるべきことをやり抜こうと、この1年走り続けました。お客様にどうやったらわかりやすく興味を持ってもらえ、理解を深めてもらえるか。広告やサービスページ、手順書など、PRやマーケティングに重点を置いて取り組んできました」

 “線虫くん”というキャラクターが効果的に使われたCMも、水島氏が同社にジョインしてから展開されたもの。施策が功を奏して認知も広まり、ビジネスモデルを広げ、利用者も増加している現状があるが、根本には同社の「革新的なテクノロジーがある」と水島氏。

「これまでがん検査は機械が当たり前でしたが、機械では高精度と安価の両立は難しい課題でした。それに比べ、線虫は飼育コストが安いため、検査料金を抑えることができます。安価で手軽に受けられ、発見が難しいとされているステージIのがんにも反応する。世界初の革新的なテクノロジーと、そのような全く新しいコンセプトを市場に理解してもらうためのコミュニケーション、そしてビジネスモデルがマッチした結果、今があります」

がん=死のイメージ、向き合い方の問題点は「がんに対する情報量の違い」

 いくら革新的なテクノロジーがあっても、日本人におけるがんとの向き合い方には“根深い課題”もある。がん=死ぬというイメージで支配され、「リスク判定が出たら怖い」「がんのリスクを想像しただけで足がすくむ」と考える人も一定数いる。その問題点について、水島氏はこう指摘する。

「リスク判定を受けてパニックになってしまう方と、冷静なアクションをとれる方にヒアリングしてわかったことは、“がんに対する情報量の違い”でした。がんや既存のがん検査について、知識と理解がある人は、判定を受けた後、次、何をすればいいのかわかります。しかし、まったく知識のない人は、ハイリスクの判定を受けたら、死んでしまうのではないかと考えてしまうんです」

 その問題を解決するために、同社は「N-NOSE安心アフターサービス」を設立。検査結果の解説や次の検査に関する情報提供、医療機関等への相談に向けたアドバイスなど、がんに対する正しい知識を伝えることに注力したという。

「その結果、当初はリスク判定を受けてパニックになる方が一定数いらっしゃり、SNSにもそのような書き込みがけっこうありましたが、今ではほぼゼロになりました。逆に、検査を受けたことで、今の健康を維持するために生活習慣に対する意識が上がった、安心して毎日を過ごせるよう定期的に受けることにした、また、早期発見で治療を受け、回復した人たちから、自分の体験をぜひ話したいというありがたいお声もいただいています」

 がんは早期発見できれば、生存率が大幅に上がるだけでなく、治療の選択肢が増え、職場・日常生活への復帰が早くなり、治療に関わる出費も少なく済む。一次スクリーニングである『N-NOSE』の拡がりによって、そういったがんへの知識もまた、浸透していっているということだろう。

 この世界初の画期的なシステムは、今、海外からも注目を集めている。水島氏は、今年1月に、世界を代表する政治家や実業家が一堂に会し、世界経済や環境問題など幅広いテーマで討議するダボス会議に唯一、日本のスタートアップとして招かれた。6月には中国・天津で開催された「第14回 世界経済フォーラム ニューチャンピオン年次総会2023」(夏季ダボス会議)に出席し、「我々はがんを阻止できるのか?」をテーマにしたセッションに登壇。どちらも大きな反響があり、その需要に応えるかたちで今後は海外展開を拡大していく方針という。

夏季ダボス登壇時の水島俊介氏

夏季ダボス登壇時の水島俊介氏

 昨年、同社では、すい臓がんにだけ反応性が変わる線虫の開発に成功し、次世代型“がん種特定検査”第1号となる『N-NOSE plusすい臓』を発表。この技術を応用し、2026年までには、他14種類のがんについても特定できるよう開発を継続している。犬猫用のがんリスク早期発見サービス『N-NOSE あにまる』の提供も開始するなど、順風満帆に見えた『N-NOSE』。

 しかし、ここにきて精度が実際には公開済みの情報よりも低いのではないかという議論が交わされている。この点について水島氏は「今年9月の一部メディアでの報道が発端となっています。当社は、報道で言及されている誤りについてホームページで指摘しました。『N-NOSE』の精度は多くの査読論文により確認されており、当社の公開情報となんら変わりありません。」とコメント。

 医療費削減や健康寿命を伸ばすために、今、予防医療の重要性が声高に叫ばれている日本。がんにおける様々な課題点をカバーする『N-NOSE』の存在は、今も希望の糸口を担っている日本のテクノロジーであることに変わりはない。“革新的”であるかを判断するのは、私たち消費者自身でもある。様々な情報を検討し、自分にあった検診方法を見つけていく。まさに“情報量を増やす”行動が今、求められている。

PROFILE/水島俊介
新卒でGoogleに入社。その後入社した株式会社レアジョブにて海外子会社3社のCEOとして500名のマネジメントに従事。海外子会社の立ち上げ、買収企業の経営統合、子会社の合併を実行。海外子会社CEO退任後、本社にて海外事業総責任者を経験。2022年 マーケティング部長 兼 海外事業責任者としてHIROTSUバイオサイエンス入社。2022年 執行役員CMO/CGO就任(現任)。

撮影:岡田一也

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