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「彼氏に服を全部捨てられた!」昭和よりタチの悪い“自然派”モラハラ男、「ありのままでいて」という恐ろしい洗脳
身近な人が被害者に…理解しがたいパートナーの要求への憤りがきっかけに
「ありのままでいて」と言う古賀だったが、麻里奈のお気に入りの洋服をゴミとして捨ててしまうシーンがあり、読者に衝撃を与えた。原作者である貞ユリナ先生は「自分の持ち物を勝手に捨てられたら、それを選んだ自分自身を否定されたような気持ちになってしまいそうです…」とこのシーンについて語る。
とてもリアルなモラハラ描写がちりばめられているが、描く上で実際の声などリサーチを行なったのだろうか。
「実は、身近な人が被害者の立場になったことがあります。パートナーからの要求は理解し難い理不尽な内容のものばかりでした。その時に感じた彼女を守りたいという思いと彼女のパートナーへの憤りが、作品作りに繋がりました」(貞ユリナ先生)
古賀に「もっと自分らしくいていい」と言われる麻里奈。それまで好きなものを我慢して、周りや仕事に合わせてきた彼女は、この言葉に自分を認めてもらえたような感覚になってしまうが、これこそが古賀の相手を自分の支配下に置くモラハラテクニックだった。
「“ありのままで”と言われてしまうと、今まで当たり前のように頑張ってこなしてきた自分を頑張らないように制御しないといけないので、とても難しいですね。古賀の場合は、パートナーにも自分の好きなことを仕事にする生き方を望んでいます。会社員を辞めさせることが恋愛関係(奴隷関係?)スタートのために不可欠なため、疲弊した麻里奈に耳障りのいい言葉で引き込んだことが、後で読者に伝わるようにしました」(貞ユリナ先生)
“モラハラ×ナチュラリスト”の新鮮さ 徐々に侵食されていく様子を作画でも表現
「ナチュラリストについては、全てではないですが、実体験が含まれています。衣食住にこだわりを持った人々と交流する機会があり、素敵な暮らしに感動する一方で、その境地に達していない私は居心地の悪さを感じてしまいました。“ナチュラル=良い”というイメージなのに脅威を感じてしまう不思議さがアイデアとなりました」(貞ユリナ先生)
「パッと聞いた時には“ナチュラリスト”が“モラハラ”を…? と思ったのですが、話を読んで自分の思い通りに相手をコントロールしていくその構造に『正直怖いな』と思いました。でも、麻里奈のように、好きな人と一緒にいたいからその人が好きな物を手に取ることも、少なからず共感できる女性も多いのではと思いました」
モラハラシーンを表現する際に気を付けたことは、「ちょっとした眉や目の表情の変化と、機嫌が良い時と悪くなった時の麻里奈と古賀両方の顔の落差」。
「全体的に、いつも描いている少女漫画の原稿よりもトーンを少なめに、ベタやグラデトーンを多めに置くことで“モラハラ”という段々とエスカレートしていく物語全体の雰囲気を出せる様にしました」(桜井ゆき先生)
ストーリー展開も登場人物の感情も、アップダウンが激しい同作品。キャラクターを描く上で心がけたことは。
「麻里奈は最初はメイクやネイルでキラキラ女子でしたが、徐々にネイルはやめ爪も短くなっていき、まつ毛の太さや本数も変えています。古賀に洗脳されればさせられるほどに本来の自分も失っていく様子を、本当に細かなところですが表現をしています。女性のライバル的な位置として登場するはるかは、少しねっとりした雰囲気を醸し出すように麻里奈を見る目や眉、手の動きなどを少々オーバー気味に作画しています。そのように個々の小さな動きや身につけているものなどで、“モラハラ”により徐々に侵食されていく様子を心がけました」(桜井ゆき先生)
令和は“昭和のモラハラ男”よりもタチが悪い?
「妻や彼女さえも“自分の装飾品”の一部であり、自分の好みを押し付けてくる点では(昭和のモラハラ男と)同じかもしれませんね。古賀は、ただ言うことを聞かせるだけでなく、ライフスタイルや信念を教え込ませて“自発的”な成長を求めます。言葉と態度で洗脳して理想の姿に仕立てようとしてくるので、昭和のモラハラ男よりタチが悪いような気もします」(貞ユリナ先生)
「古賀にはモデルがいるので、実際に聞いた話をヒントに制作しました。古賀の怒りのスイッチを“ナチュラル”と結びつけることで、『そんなことで怒る?』と滑稽に感じる程の理不尽さを表現しました。桜井ゆき先生のおかげで、言葉では伝わりづらい緊迫した空気や麻里奈の絶望が表現されていて嬉しかったです」
最後に貞先生、桜井先生に今後の見どころを聞いた。
「古賀の理想を叶えることができない自分を責め続けていた麻里奈が、あるきっかけで覚醒していきます。古賀に立ち向かうことで自分を取り戻していく麻里奈を応援していただけると嬉しいです」(貞ユリナ先生)
「麻里奈がこれからどういう決断をし、どんな人生を歩んで行くのか是非最後までご覧いただきたいです。人生は、人の巡り合わせによって色々な方向へと転んでいくと思います。この作品を読んで、人への言葉のかけ方や行動を優しくしようと思ってもらえたら幸いです」(桜井ゆき先生)