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売り場からベンダーへ? 変わりゆくドラッグストア業界、“潜在ニーズ”に応える「マツキヨPB」ヒットの舞台裏

 スーパーやコンビニではすっかり定着し、各社ブランディングや差別化の手立てとして重視されているプライベートブランド(PB)商品。近年ではドラッグストア業界でも浸透し、群雄割拠の様相を呈している。中でも、’90年代から商品開発に取り組み、最近ではパーソナライズヘアケアブランドまで発足したマツキヨココカラ&カンパニーのPBは、品質の高さが各方面で評され、年々注目度を上げている。ますます競争激化するドラッグストア業界においても、今後PB合戦が繰り広げられていくのだろうか。

マツキヨPBが、ココカラファインとの統合の決め手に? 各方面で評される高品質

 1990年代以前のPBは、メーカーが開発する“NB商品の廉価版”というイメージが強く、主に「価格訴求」が中心だった。それが2000年代に入ると、セブン‐イレブンの『セブンプレミアム』など、品質、安全性を担保した「品質訴求」型のPBも登場し、市場を賑わせてきた。

 1990年代からPB商品の開発をスタートさせているマツモトキヨシ(以下、マツキヨ)も、当初は価格訴求が中心だったが、時代の流れに沿って、2006年には「高付加価値」も意識した『MKカスタマー』を発足させ、早々に本格的なPB展開に着手していた。
「2015年にはリブランディングし、品質の機能的な側面だけでなく『情緒価値』を訴求した『matsukiyo』ブランドが誕生しました。 “日本の暮らしを楽しくする”とのビジョンを掲げて、医薬品、化粧品、日用品、食品など幅広く展開しています」(マツキヨココカラ&カンパニーの商品開発を担うマネジメント商品統括本部・櫻井壱典さん/以下同)

 また、同社社員の管理栄養士や薬剤師などが監修し、より専門性の高い商品を扱う『matsukiyo LAB』ブランド、さらに高付加価値の頂点に位置する「独立型ブランド」を展開。こうしたPB商品とは別に、メーカーとの共同開発商品を「オリジナル商品」と定義し、現在、PB商品とオリジナル商品を合わせて、約1800の商品を販売している。
 シャンプー『アルジェラン』、スキンケア商品『ザ・レチノタイム』『レシピオ』、医薬品『ヒルメナイド』、エナジードリンク『エクストロング』など、これまで同社から輩出されたヒット商品は数多い。美容雑誌で高級NB商品を抑えて1位を獲得するなど、ユーザーや業界全体から高い評価を得ている。

 2021年にはココカラファインと経営統合し、マツキヨココカラ&カンパニーとして新スタートしたが、「ココカラファインがマツモトキヨシのPB商品に魅力を感じて『ぜひ扱いたい』と言ってくれた。それが統合を決める要素の一つになりました」と広報担当は明かす。PB商品が経営統合の要素の一つになるのはドラッグストア業界では稀なケースだそうだが、これはマツキヨPBの品質がいかに高く評価されているかを示す一つのエピソードと言えるだろう。

「NBとカニバる商品は作らない」ビッグデータから炙り出す独自のマーケティング戦略

 コンビニやスーパー、ECどこでも生活用品が買える今、流通各社の競争はますます激化。商品の差別化や、ストアブランドイメージ向上にもつながるPBの重要度は年々高まっている。マツキヨの場合、約10年前のPB売上比率は約8%だったが、2015年のリブランディング以降、その比率は右肩上がりで上昇。22年3月期には12.5%、直近の23年3月期には13.1%にまで増加している。

「その間、品目数は微増で、劇的に増えているわけではありません。なぜなら数を目標にすると、一つひとつの商品作りが雑になることもあります。それは本質ではない。品目数が上がるのは結果論であり、あくまで品質の追求を第一に考えています」
 昨今、ユーザーのニーズはますます細分化されているが、それに対応するにはPB商品の持つ「フットワークの軽さ」が力を発揮するという。

「NBは商品認知のために広告に巨大投資をするので、なかなか失敗できないところがあります。当社はオウンドメディアも持っていますので、コストが抑えられます。またミニマムロットにして、場合によっては店舗数も絞りながらテスト的に販売することもできます」

 たとえば、NBが参入するにはオーガニックシャンプーの市場規模はまだ小さかった際に、コアヒットを呼んだPB成功例が初代『アルジェラン』だ。ターゲットは広く、ロット数を多くせざるを得ないNBに対し、膨大な顧客データから潜在的ニーズを割り出し、時には挑戦的な商品開発もスピーディにできるのがPBならではの強みだ。
 その開発には、当然メーカーの協力が欠かせない。メーカー側からすれば、PBの売上が伸びるほど、NBの売上が落ちる不安や、ノウハウが流出してしまう恐れもありそうだが、マツキヨココカラと組みたいと手を挙げる企業が多くあるという。その理由は大きく2つある。

 一つは、アプリ会員、カード会員、LINE、店舗、ECなど、マツキヨが90年以上の歴史で培ってきた1億3300万もの消費者との接点から得られるビッグデータ分析だ。全国の店舗から各商品の見込み客・売上が予測できるのは、メーカー側にとっても大きな利点となる。
「メーカー様は、自社の商品が他社のどの商品と一緒に買われているのかを知ることはできませんが、うちのデータだとそれが分かります。また、タイ王国や台湾、香港など、アジア地域55店舗のデータもあり、インバウンド分析も可能です。そこは我々の持っている強みであり、メーカーさんからも魅力を感じてもらっているのだと思います」

 もう一つの理由は、マツキヨココカラがNBのユーザーを奪うようなマーケティングをしていないからだ。

「NB商品とのカニバリが大きくなるような商品作りを避けるように意識しています。あくまでNB商品で捉えられていないニーズをビッグデータから割り出し、そのコアニーズに向けてPB商品を開発しています。そうしないと、NBのユーザーがPBにスライドしただけでは、売り場全体の売上アップにはなりませんから。NBとは異なる新たな価値をPBで生み出すことで、ユーザー、メーカー、売り場3者にとって、良い商品作りに繋がると考えています」

PB初のパーソナライズヘアケアブランドがヒット「客層は想定通り、売上は想定以上」

 正しくこの考え方で、いま新たなヒットを生んでいるのが、同社初のパーソナライズヘアケアブランド『MQURE』だ。髪質やライフスタイルなど12項目の診断を実施した結果、自分に合ったシャンプーやトリートメントが届くという画期的な商品で、4月の発売以来、好調な売れ行きを見せている。

 同商品は都内を中心とした一部のリアル店舗でも展開しており、実際に商品や香りを手に取りながら、その場でオンライン診断、購入までをスタッフがサポートすることもできる。オンライン診断+EC販売のみの商品だが、店舗経由で購入すると、販促を行った各店舗の売上に計上される。これは小売業界でまだ少ない試みである。
「ECで購入するか店舗で購入するかはお客様が選ぶことなので、両者のバランスについては特に考えていません。店舗とオンラインの垣根を超えていきたいと考えています」

 約35万通りの開発実績から厳選した処方を用いた『MQURE』には、自社のビッグデータやダイレクトマーケティングも活用している。

「『こういうお客様が購入するだろう』というターゲット層をビックデータから導き出し、その層に適したプロモーションを展開しています。ターゲットは3つ。『MQURE Scalp Care&Moist』は肌への意識が高い層、『MQURE Deep Moist&Repair』はSNSなど情報に敏感で、情報感度が高い層、『MQURE for U』は美容に対する追求度合いが高い層のお客様を狙っています」
 実際に購入したお客様の特徴を見ると「ほぼ想定通り」のターゲット像であり、売上は想定の2.5倍ほどの好調ぶりをキープしているという。昭和7年に『松本薬舗』として創業して以来、昨年90周年を迎えたマツキヨ。今では薬のみを買いにドラッグストアに行く人は少ないだろうが、来店目的たり得る“PB”の可能性は業界全体の成長にも大きく影響していきそうだ。

「グループ全体の売上高は、2026年3月末に1.5兆円を目標にしています。現在、ドラッグストアの市場規模は約8.5兆円と言われていますが、2026年には他市場からのシェア獲得で15兆円まで伸びると想定しており、その10%のシェアを目指しております。その中で、PB売上比率の目標は15%。アジアNo.1の『美と健康』に特化した店を目指すべく、そのカギとなるPB商品開発に今後もますます注力していきたいです」


(取材・文=水野幸則)

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