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「歌唱レベルが見抜かれる」ほど進化遂げた音響機器、アーティストに問われる“真の実力”

 プロアマ問わず誰もが音楽を発信・享受できるこの時代。サブスクリプションやYouTubeなど音楽プラットフォームもさまざまで、リスナーの音楽の聴き方も多様化している。プロレベルの音響機材も誕生し、自宅でより高品質な音楽も楽しめるようになった。アーティストにとっても息づかいや歌唱テクニックといったポテンシャルがそのままのレベルで再現されるわけで、ごまかしが通じないともいえるし、真の実力を見せつけることができる時代にもなったともいえる。音響機器の進化により、アーティスト側の細かなテクニックまでもが気づかれる今、音響機器に求められることを、アーティストの視点で迫った。

高い歌唱力でファンを魅了する藍井エイル(撮影)葛西亜理沙

高い歌唱力でファンを魅了する藍井エイル(撮影)葛西亜理沙

ごまかしが利かない『THE FIRST TAKE』、耳の肥えた音楽リスナーが納得

 さまざまな音楽プラットフォームが生活に浸透し、より手軽に音楽に接する環境が整っている現在。一部の音楽ファンの間では、リスニング環境を整備し、より高級志向の音響機器をチョイスする傾向が加速している状況もある。音質にこだわり抜いた機器が続々と誕生する背景には、明確な市場ニーズが存在する。ユーザーの耳も肥えてきており、アーティストの実力がさらに問われるようにもなったといえるだろう。

 例えば、さまざまなジャンルのアーティストが“挑戦”し、圧倒的な実力を見せつけた動画チャンネル『THE FIRST TAKE』。ここで使用されている高性能の音響機材に関心を持った視聴者も多かったことだろう。

 エモーショナルな表現力に定評のあるアニソン系人気シンガー・藍井エイルも『THE FIRST TAKE』に挑戦したひとりである。

「実際にやってみると、正直すごい緊張しました。高性能の音響機材と撮影機材に囲まれて、うわあと思ってふと見たら、ピアノを弾いてくださるRyosuke Shigenagaさんが私以上にガチガチに緊張してらして、ちょっと肩の力が抜けたという(笑)。精一杯集中して、丁寧に歌えました」

卓越した歌唱テクニックが「誰にも気づかれないこともあった」、後悔することも

 ユーザーがどんな状況下で聴いても、楽曲の表現が100%伝わること…それがプロとしての本懐だろう。2011年にデビューした藍井は、日本武道館の舞台も踏んだ実力派アーティスト。普段の楽曲制作の段階から、さまざまな再生環境でのリスニングを想定した作り込みを行っているという。

「制作時は、スタジオの最高の再生環境で大きな音で聴いていますが、たとえ小さなイヤホンで聴いても、違和感なく伝えたい部分、聴かせたい瞬間を感じとってもらえるよう工夫します。けっこうデフォルメして歌わないと表現に気づいてもらえなくて、もっとやっておけばよかったと反省したことも…。誰にも気づかれないまま終わるのはもったいないので、大げさな表現をあえて加えるなどして、やりすぎない程度に“迫力がある”ように聴こえる表現を意識しています」

 こうしたテクニックは、これまで何作もの楽曲をリリースしながら研鑽を積んできた成果だという。

「音の入りと終わりは意識して大事にしていますね。あとは、たとえばフレーズの途中で0.1秒だけ“がなる”ようにして、低音を一瞬だけ絞り出すように歌うと、耳元に迫り寄る静かな迫力が演出できるんです。全体のバランスを考えながら、かなり細部にこだわってます。聴く側の機材や環境がどんどんよくなっていったとしても、絶対の自信があります。むしろ、そういう仕掛けや表現がしっかり伝わるなら、とてもうれしいことです」

「伝えたい音で聴いてほしい」アーティストの想い

 音楽の聴き方が多様化する中で、より高性能・高品質な再生環境を求めるユーザーの絶対数は、海外市場も含めて増加を続けている。個々人が使用する音響機器の性能が上がれば、当然ユーザーの耳も肥えてくるはずだ。

 藍井のこうしたテクニックも、今まで以上により高い精度で伝わるようになってきた。現在、ソニーが手がける『Just ear』ブランドからは、藍井とのコラボモデルが期間限定で発売。究極のパーソナルオーディオとも呼ばれるもので、ユーザー1人ひとりの耳の型を採り、それぞれの特徴に最適な形状にテイラーメイドするイヤホンだ。

 非常に高い装着性に加え、個人の音の好みをヒアリングしながら音響の調整が入念に行われてパーソナライズされる。まさに“職人気質”の塊のような製品であり、いまだ進化を止めない日本の技術力の証ともいえる。

 この「好みの音響の調整」の部分を、藍井エイル仕様にプリセットしたものが今回のコラボモデル。アーティストの音へのこだわりをより実感できるだけでなく、お気に入りのアーティストの“音の聴こえ方”を疑似体験できる。

「細かな表現がもっとダイレクトに伝わることは本当にうれしいですね。何度もリテイクしながらこだわって作った音楽ですから、できればより良質な再生環境で聴いてほしい。伝えたい音で聴いてほしい、といっても、私の音の聴こえ方がみなさんにバレちゃうのは、ちょっと気恥ずかしい複雑な気持ちもありますけどね(笑)」

 ファンが求める究極の音楽の聴き方は、アーティストが「この音を届けたい」とイメージする音楽に限りなく近いかたちで聴くことだろう。アーティストの音楽への熱量をしっかりと受け止め、そんなファンの想いを叶えたい。進化を続ける日本の機器メーカーからは、そんな気概も感じることができる。それを如何に活用していくかは、アーティストの力量次第。本物だけが生き残る…機材の進化は、アーティストの“真価”が問われることでもあるのだ。

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