ORICON NEWS
イベント制限で問われる「ファンクラブ」の真意、コロナ禍で考える“満足度”とは
ライブなくても“継続”、ファンであることの「証」を示す
一方で、気になるのがファンクラブの動向だ。「ライブのチケット購入が優先される」権利を得るために会員になる人が大多数だとすれば、退会者は続出しているのだろうか?
約200ものアーティストのファンクラブ、ファンサイトを運営し、数多くの有料会員数を抱えるFanplusの佐藤元代表取締役によると、「やはり新規入会者数は減っている」とのこと。ただし、「アーティストにもよるが会員数は横ばい」。つまり、当初想定していたほど大きく会員数を減らしているアーティストは、それほど多くないらしい。
「もちろん中には会員数を減らしてしまったアーティストもいます。ただ、この状況で今まで以上に『ファンとの繋がり』を意識して行動しているアーティストは、堅調に会員を維持しています。一方でファンも『アーティストが大変な状況だからこそ、応援したい』という思いから、会員を続ける人は多いようです」(佐藤氏、以下同)
ファンクラブに入会しているファンに話を聞いてみても、「今後のライブ開催状況で継続を検討する」という声もあったものの、熱心なファンは「会員であることは、ファンの“証”でもある」、「アーティスト本人も大変な状況なので、今だからこそ会員を継続したい」、「応援したい」と、継続の意思を示すポジティブな声が散見された。
「会えないからこそ深まるファンとの絆」コロナ禍での変化とは?
そんななか、ユニークな試みで注目を集めたのが、サカナクションが展開している「NICE ACTION」プロジェクトである。
ステイホーム期間、インスタグラムやYouTubeでのライブ配信、過去のライブ映像の配信などを、今まで以上に積極的に“無料”で提供してきたが、このようなアクションを行うサカナクションに対して、ファンが「いいな」と感じたら一口100円から寄付できるというものだ。その収入は、「チームサカナクションという自分たちのライブのスタッフにお渡しする」と、サカナクション・山口一郎が8月1日放送の『新・情報7daysニュースキャスター』(TBS系)で語っている。
なお「NICE ACTION」はサカナクションのファンクラブ「NF member」内に新設された機能の1つで、山口の提案でFanplusがシステムを実装したものである。
「無料コンテンツに対して後から課金する仕組みですから、それでサービスが成立するのか、正直わかりませんでした。しかし実装してみたら、ファンの反応が非常に良かったんです。考えてみれば、たとえば素晴らしいライブを堪能すると、チケット代以上の満足を感じて、アーティストに還元したくなる。その気持ちはとてもよくわかりますし、その“金額”も、人それぞれで違っていいはずなんですよね」
ウェブ上でのファンクラブ事業を立ち上げて10年。その間、充実させてきたサービスや機能は、「いつもファンやアーティストから教えられてきた」と佐藤氏は振り返る。「NICE ACTION」もまた、希望があれば他アーティストにも提供していく意向だという。
好きを可視化して繋がる「ファンクラブ」は、より強固に浸透する
コロナ禍でライブに行けなくなったファンにとって、アーティストに対する「心の距離感」に改めて向き合うきっかけとなったはずだ。
当然ながらファンクラブは有料である。その収入はアーティストの活動に充てられ、ゆくゆくはファンにも還元される。こうした構造を前提として、会員になることでアーティスト本人に思いを伝えたい。あるいは「自分はこのアーティストのファンである」というステイタスを感じていたい。そうした「好き」の思いを可視化したものが本来のファンクラブのあり方である。
だからこそ、その純粋な思いをファンクラブには適切な形で受け止めてもらいたい。そうすればアーティストとファンの絆は、このコロナ禍を境により強固なものになっていくのではないだろうか。