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イベント制限で問われる「ファンクラブ」の真意、コロナ禍で考える“満足度”とは

  • オフィシャルファンクラブ「ENTRANCE」を開設したEXIT

    オフィシャルファンクラブ「ENTRANCE」を開設したEXIT

 会員になることで、アーティストにまつわるさまざまな特典やサービスを受けることができる「ファンクラブ」。その入会の動機として考えられるのが、コンサートチケットを優先購入できたり、会員限定ライブに参加できたりするなど、リアルイベントに関する特典を得られることだ。ライブが思うように開催できなくなった中、アーティストや運営、そしてファンは「ファンクラブの価値」にどのように向き合っているのだろうか。

ライブなくても“継続”、ファンであることの「証」を示す

 新型コロナウイルスの影響で、平常通りにライブが開催できない状況が続いている。12月以降、政府が改めてイベントの人数規制などのガイドラインを発表する予定だが、まだまだ先は見えていない。コンサートや握手会といった「会いに行ける」イベントを主な収入源としているアーティストは、いまだ苦境から抜け出せていないのが現状だ。

 一方で、気になるのがファンクラブの動向だ。「ライブのチケット購入が優先される」権利を得るために会員になる人が大多数だとすれば、退会者は続出しているのだろうか?

 約200ものアーティストのファンクラブ、ファンサイトを運営し、数多くの有料会員数を抱えるFanplusの佐藤元代表取締役によると、「やはり新規入会者数は減っている」とのこと。ただし、「アーティストにもよるが会員数は横ばい」。つまり、当初想定していたほど大きく会員数を減らしているアーティストは、それほど多くないらしい。

「もちろん中には会員数を減らしてしまったアーティストもいます。ただ、この状況で今まで以上に『ファンとの繋がり』を意識して行動しているアーティストは、堅調に会員を維持しています。一方でファンも『アーティストが大変な状況だからこそ、応援したい』という思いから、会員を続ける人は多いようです」(佐藤氏、以下同)

 ファンクラブに入会しているファンに話を聞いてみても、「今後のライブ開催状況で継続を検討する」という声もあったものの、熱心なファンは「会員であることは、ファンの“証”でもある」、「アーティスト本人も大変な状況なので、今だからこそ会員を継続したい」、「応援したい」と、継続の意思を示すポジティブな声が散見された。

「会えないからこそ深まるファンとの絆」コロナ禍での変化とは?

  • 「NICE ACTION」特設サイトページ

    「NICE ACTION」特設サイトページ

 Fanplusでは現在、200以上のファンクラブ、ファンサイトを運営している。その多くが音楽アーティストだが、この7月にはEXITがファンクラブを立ち上げるなど、ジャンルも広がっている。タレントや芸人、俳優までもが、ファンとの信頼関係を築きたいと考えている状況だ。

 そんななか、ユニークな試みで注目を集めたのが、サカナクションが展開している「NICE ACTION」プロジェクトである。

 ステイホーム期間、インスタグラムやYouTubeでのライブ配信、過去のライブ映像の配信などを、今まで以上に積極的に“無料”で提供してきたが、このようなアクションを行うサカナクションに対して、ファンが「いいな」と感じたら一口100円から寄付できるというものだ。その収入は、「チームサカナクションという自分たちのライブのスタッフにお渡しする」と、サカナクション・山口一郎が8月1日放送の『新・情報7daysニュースキャスター』(TBS系)で語っている。

 なお「NICE ACTION」はサカナクションのファンクラブ「NF member」内に新設された機能の1つで、山口の提案でFanplusがシステムを実装したものである。

「無料コンテンツに対して後から課金する仕組みですから、それでサービスが成立するのか、正直わかりませんでした。しかし実装してみたら、ファンの反応が非常に良かったんです。考えてみれば、たとえば素晴らしいライブを堪能すると、チケット代以上の満足を感じて、アーティストに還元したくなる。その気持ちはとてもよくわかりますし、その“金額”も、人それぞれで違っていいはずなんですよね」

 ウェブ上でのファンクラブ事業を立ち上げて10年。その間、充実させてきたサービスや機能は、「いつもファンやアーティストから教えられてきた」と佐藤氏は振り返る。「NICE ACTION」もまた、希望があれば他アーティストにも提供していく意向だという。

好きを可視化して繋がる「ファンクラブ」は、より強固に浸透する

 コロナ禍以前、ライブイベント市場は年々過去最高を更新(2019年度は3665億円で前年同期比106.3%)しており、ライブはレジャー感覚で親しまれるものとなっていた。ライブの敷居が低くなった今、佐藤氏の証言からもライブにまつわる特典のみを動機にファンクラブに入会していた会員は、この状況下でおそらく退会も検討しただろう。

 コロナ禍でライブに行けなくなったファンにとって、アーティストに対する「心の距離感」に改めて向き合うきっかけとなったはずだ。

 当然ながらファンクラブは有料である。その収入はアーティストの活動に充てられ、ゆくゆくはファンにも還元される。こうした構造を前提として、会員になることでアーティスト本人に思いを伝えたい。あるいは「自分はこのアーティストのファンである」というステイタスを感じていたい。そうした「好き」の思いを可視化したものが本来のファンクラブのあり方である。

 だからこそ、その純粋な思いをファンクラブには適切な形で受け止めてもらいたい。そうすればアーティストとファンの絆は、このコロナ禍を境により強固なものになっていくのではないだろうか。
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