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RADWIMPS野田洋次郎ソロプロジェクト・illionインタビュー「11年間やってきて今が一番楽しい」

ある日パタッと何も生み出せなくなることへの恐怖心が強い

  • 『P.Y.L』収録曲「Miracle」では岩井俊二監督とコラボ

    『P.Y.L』収録曲「Miracle」では岩井俊二監督とコラボ

――なるほど。特に現代は、SNSで誰もが評論家となって、音楽や言葉の伝わり方も変わったように思います。その中で、意図しない形で音楽や歌詞が広まっていくこともあるかと思いますが、作り手として、そうした伝わり方については、どのように考えていますか?
野田洋次郎 それを気にし過ぎると、そちらに(意識を)持っていかれるので、気にしないようにしています。でも、今という時代の音を鳴らしているわけですから、どうしても時代とリンクせざるをえないし、それはすごく誇らしいことでもあると思っていて。ただ……そうですね、勘違いや、偽りがたくさんあるという前提で、みんな言葉を発しているのかなというようには感じています。僕自身、こうやって少なからず表に出るということは、架空の自分というものも、どんどん肥大化していっているとも思いますし、それはそれで、すごく不思議な物語のある世界だなと思っています。

――そうした世界に対して、クリエイターとしての本質を見失わずに作品を生み出していくポイントは、何だと考えていますか?
野田洋次郎 そこに関しては、何も考えていません。というか、ただ必死にやっているだけです。僕は、作れるうちに作りたいという、個人的な動機が強いんです。やれるうちにやりたい、残せるうちに残したい、生きている間にどれだけ作れるだろうかっていう。だから、時代性などに関しては、今は特に考えていません。逆に昔の方が、いろんなことを考えていたのかもしれませんけど、今は、(音楽が)生まれたままに、とにかく作っていきたいという欲求に従っています。むしろ、ある日、パタッと何も生み出せなくなる恐怖心の方が強くて、だからこそ、今の方が、純粋に音楽を作れているように思っています。

――その純粋さは、自分が生み出す音楽や言葉に対する自信からくるものなのでしょうか? それとも、また別のものから得た感覚なのでしょうか?
野田洋次郎 どうなんですかね……でも、ちょっと前の自分より、今は自信を持てているんだろうなとは思います。僕はずっと、みんなが「RADWIMPSが好きだよ」とか、「(自分を)好きだよ」と言ってくれる言葉を排除してきた気がしているんです。そう言われても、「いや、だって僕は、これも出来てないし、あれも出来てない。やりたいことにたどり着けてないし」という思考の持ち主だったので。でも、そろそろいい加減、自分が真っ当に獲得したものは、ちゃんと自分で大事にしてあげていいんじゃないかと思えるようになったんです。ネコババしたものではなく、きちんと自分で手にしたものであれば、「好きだよ」と言ってくれる人に対して、真っ直ぐに「ありがとう」と言えるようになりました。こうなるまで、10年という時間は長すぎだとは思いますけど、そういう自分にやっとなれて、その人たちに何を届けられるかという思考が強くなってきたと思います。ただ、それが“自信”なのかどうか……自分が求められなくなるかもしれないという想いは常に持っていますし、求められる間は応えたいなと思っていて……何なんですかね? ちょっと不思議な感覚です。

王道のド真ん中からはちょっと外れたくなる性格

  • 岩井俊二監督による「Miracle」アニメーションMV

    岩井俊二監督による「Miracle」アニメーションMV

――そこまでの危機感を持って創作活動を行っているとは、ちょっと意外でした。
野田洋次郎 そうした想いは常に持っています。一方で、今、いろんな事がリンクしている感覚も、すごくあって。今の自分の巡り合わせや、世の中との関係性もそうだし、さユりさんとか、プロデュースしたいなと思える方々とも奇跡的なマッチングをしているなと思っています。

――そうした流れの中で完成させた『P.Y.L』はもちろん、この作品を経て、11月23日に発売予定のRADWIMPSの新譜も、とても楽しみですね。
野田洋次郎 RADWIMPSの方は、今、録りがほぼ終わって、ミックスをしているとこです。次の作品は、すごくカラフルというか、色であったり、光がはじけ飛んでいるイメージが僕の中にあるんです。それはやっぱり、『君の名は。』という作品が連れていってくれたという部分が強くあって。僕は、王道のド真ん中からはちょっと外れたくなる性格で、そういった部分から今までは逃げてきましたが、『君の名は。』がこじ開けてくれたド真ん中から、自分なりに、どう遊ぼうか、どう泳いでいこうかという要素が詰まった作品になりそうです。そういう意味では、少なくとも、『P.Y.L』とは対極の作品になると思います。ただそれは、意図的にそうした面もあって、RADWIMPSが、どんどん開いていっていると感じたからこそ、illionでは、眠りの中にいけたというか。日々、外で走り回っている子供が、夜はぐっすり眠っているような、その眠りの部分が、『P.Y.L』なんです。

――illionとRADWIMPSは、まさに月と太陽のような関係性にあるわけですね。
野田洋次郎 そうですね。だから、メンバーが『P.Y.L』にどう反応するのかという点も、すごく楽しみですし、今後、どんどん面白くなっていきそうだなと感じています。今は、やりたいことが、次から次へと出てきていて、止まらないんですよ。しかもそれを、無理することなく、そんなに力まずにできているので、本当に楽しくて。11年間やってきて、今が一番楽しいと思えることは、すごく幸せなことだと感じています。だからこそ、いろんなことをやりたいという気持ちに置いていかれないように、それらをきちんと形にしていきたいなと思っています。

(文/布施雄一郎)

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