新しいaikoと王道のaiko――新曲「青空」&サブスク全曲解禁が導く「恋」と「日常」
新曲でも健在な、歌詞おけるaikoの文学性
まず触れておきたいのは、新曲でも健在な、歌詞おけるaikoの文学性だ。曲の冒頭で、楽曲本編とは独立したプロローグかのように歌われる詞だけで、聴き手はのっけからこの歌の気配を察知し、思わず耳と心が次の展開へと引き込まれていく。歌詞カードにしてわずか2行のフレーズで、ここまでの世界を聴き手に想像させる詞は、まさにaikoならではだろう。
しかも、《あぁ知ってしまった》と《あぁ知ってしまったんだ》で同じメロディの形にしないことで、冒頭のフレーズが軽く流れてしまわず、聴き手をグッと強く掴むものとなっている。しかしここではまだ、曲の気配とタイトルの「青空」はつながらない。
誰もが抱く言葉にできない感覚や感情を最短距離で表現
それにも関わらず、aikoが歌う、この感覚、あるいは感情に、思わず「ああ、わかる…!」と多くの人が頷くだろう。誰もが抱く、しかしながら言葉にできない感覚や感情を、彼女が生み出す言葉が、最短距離で表現してくれるのだ。
一方で、aiko特有の切なさを匂わせる表現も随所に入れ込まれており、曲が進むにつれて、聴き手の想像力をどんどん膨らませていく。しかもそれは、女性と男性、あるいは年齢、もっと言えば個々の聴き手のバックボーンによって、十人十色、歌詞から思い描くシーンは変わってくるだろう。だけれども、多くのリスナーがaikoの歌に共感する。そうやって一人ひとりに、誰とも違うその人なりのaikoの歌が深く刻み込まれていく。
そして、ここではあえて説明を控えるが、タイトルの「青空」というワードは、サビでハッとさせられる形によって着地し、さらに最後の最後、まさにエピローグ部分で、プロローグで匂わせた曲の気配と、「青空」という情景を結びつける展開を生み出し、曲を締めくくっている。しかも、「青空」と、このワードから抱くイメージからは相反する感情との融合させ方には、思わず唸ってしまった。ぜひとも曲を聴きながら、そして歌詞を追いながら、この曲の醍醐味を味わって欲しい。
アレンジャー・トオミヨウが歌詞の切なさと青空のコントラストを見事に融合
今回の「青空」では、aikoが書いた詞とメロディをファンク感のあるゆったりとしたビートに乗せ、イントロや間奏で80年代フレーバーを効かせたシンプルなシンセ・フレーズを入れることで、歌詞の切なさとまぶしい青空のコントラストをJ-POPとして見事に融合させている。しかも、ファンク感が突出し過ぎることなく、あくまでもaikoの歌とメロディを活かす境界線ギリギリでとどめているあたりは、さすがのアレンジ力だ。
そうしたバッキングに対して、あまり感情をあらわにせず、どちらかというと、ややフラットなテンションで歌うaikoのボーカルが、「青空」の世界が作り上げられた創作ではなく、私たちの身近な日常の一場面であると感じさせてくれている。
新曲と同時にサブスプリクション・サービスでの全楽曲の配信を開始
aiko作品の最大の特長は、ほぼすべてがラブ・ソングであるにも関わらず、その時々、つまり曲ごとによって、実にさまざまな表現をもって、初恋、片思い、そして失恋を歌っていることだ。もちろん、その中にはどれひとつとして重なるストーリーはない。しかし、その根本に宿る世界観は“ひとつ”だと言っていいだろう。
「花火」や「カブトムシ」、「アンドロメダ」、「ボーイフレンド」といったaikoの代表曲と一緒に新曲「青空」を聴くと、改めて新曲のユニークさ、素晴らしさ、そして、新しいaikoと王道のaikoに気がつくだろう。
(文/布施雄一郎)