トップランナーの“覚悟”を感じた、松任谷由実“タイムマシーンツアー”
45年のキャリアのさまざまな時代を縦横無尽に駆け巡る緻密な構成
その余韻を断ち切るように、ステージには黒い革ジャンを羽織ったダンサーたちが登場した。「WANDERERS」では、観客も一緒になってこぶしを振り上げ、会場は一気にヒートアップしていく。やがてステージにイエローの照明が差し込み、ピアノの音色が草原の爽やかな香りを運んできた。白いドレスで歌う「ダンデライオン 〜遅咲きのたんぽぽ」の切なくも優しい調べが切ない。
「守ってあげたい」「Hello,my friend」を聴いて押し寄せてくる大きな感情のうねりをなだめているうちに、季節は冬に変わっていた。紗幕に映し出された雨はいつしか雪に変わり、「かんらん車」の哀愁を帯びたメロディーが心に沁みる。「輪舞曲」で一転、ステージは華やかな空間へと変わる。緩急のつけ方が絶妙で、ドラマチックに物語は進んでいく。それにしても、なんという情報量の多さ。タイムマシーンから振り落とされないように、しがみついているのがやっとだ。ステージに目をやると、オリエンタルな和装姿のユーミンが登場していた。その周囲をダンサーとバンドメンバーが輪になって踊り続け、「夕涼み」ではギンガムチェックのドレスが舞う。
圧巻だった「春よ、来い」の壮大な世界観
光の木漏れ日が降り注ぐなか、「春よ、来い」のイントロが流れてきた。教科書にも掲載されている同曲を聴くたびに、何かで読んだ「私の歌だけが詠み人知らずとして残っていくことが理想」というユーミンの言葉を思い出す。会場に現れた『THE DANCING SUN TOUR』(94〜95年)のドラゴンは、いつしか紗幕に映し出された雲海をゆったりと泳ぎ始め、曲のエンディングで彼方へと消えていった。この日本の情緒と、どこかアジア的な要素が交じり合った楽曲の壮大な世界観は、演出によって何倍にも増幅されていた。この没入感たるや! この光景は今も鮮やかに脳裏に浮かぶ。