熱血教師ドラマ『3年A組』、10代にメッセージを届けるために辿り着いた答え
スピード感のあるスリリングなストーリー展開のなかで、幾重にも張り巡らされた伏線とどんでん返しの繰り返し、徐々に明らかにされていく事件の真相と真犯人の謎とともに、毎話繰り広げられる菅田と生徒役の若手俳優たちの1対1の演技合戦が、視聴者をテレビの前に釘付けにした。そんな異色のドラマで、緻密なストーリーを紡ぎ上げた脚本家の武藤将吾氏が、『第15回コンフィデンスアワード・ドラマ賞』脚本賞を受賞。脚本執筆に四苦八苦したという武藤氏に、本作に込めた思い、放送中の視聴者のリアクションからの迷いや悩みなど、その心のうちを明かしてくれた。
熱血教師ものを今の時代に真面目にやりたかった
武藤将吾学園もので今の若い世代に訴えるドラマというオファーを受けたのが始まりです。菅田将暉さんの教師役での主演が決まっていて、あとは自由にと。そこで考えたのが、僕は『スクール☆ウォーズ』や『熱中時代』がすごく好きだったんですけど、学園ドラマをやるのであれば、熱血教師ものをやりたい。今の時代だとそのままでは難しいけど、“入れもの”さえ変えればできると考えました。
――その発想の転換から学園ミステリーという設定へ?
武藤将吾本作の前に、2年ほど特撮をやっていました。しばらく連ドラを執筆していたなかで、自分のなかで閉塞感を感じ始めていて、新しい刺激を求めて特撮の世界へ飛び込んだんです。そこでは、僕が「火星に行く」と書けばキャラクターは行ける、「地球外生命体」と書けばそうなる。そんな世界に身を置いてみたら、勝手に限界を決めていたのは自分自身だと気づきました。本作でも、学園ドラマだからといって、教師が授業でだれかの人生を諭すというような構成に捉われなくても、視点を変えることでいろいろな可能性があるんじゃないか、そういう熱血教師ものが新鮮に見えるやり方もあるんじゃないか、そう考えてスタートしました。生きるか死ぬかのところから始まって、生徒たちが窮地に追い込まれる状況のなか、社会で生きていく為になにが必要なのか、卒業までの10日間で大人になるためには自分の何が足らなかったのか、そういう人間としての根本的なところを真正面から描きたいと思いました。
――特撮のなんでもできる世界を経験していたことで生まれた脚本だったんですね。
武藤将吾学園ドラマとして、教師が犯人で生徒を人質にとって立てこもるという発想もそうです。定番のいちばん遠いところからアプローチをかけたらどうなるかというところでアイデアが浮かんだのは、まさに「何でもあり」の考えがあったからこそ生まれたものでした。
序盤の撮影を見て、後半でフィーチャーする人物を決めた
武藤将吾僕自身が心がけたのは、視聴者がこうくるだろうなと思う一歩手前でその答えを提示すること。それをやると視聴者は次の予想がしづらくなると思ったんです。だから先の展開を楽しみにしてくれるんじゃないかと。その作り方は、昔から変わっていません。一番悩んだのは、全編を通して立て籠もるかどうか。そんなドラマは今までありませんでしたから。学校のなかでそれだけ物語が作れるのか、自分のなかで答えが出るまで時間がかかりました。ただ、本当にできるのかということこそ、僕が勝手に決めていた限界だと思ったので、これもチャレンジとしてやってみようと決意しました。
――第1話のもっていきかたは難しかったのでは?
武藤将吾実は、初回が60分ではなく、あとから90分だとわかって。30分どうするかとなったときに、水増ししても話が間延びするだけなので、第2話のエピソードをもってくることにしました。おかげで物語にスピード感がさらに増しました。ただ、それをしたことで消えてしまった1話分をどこでカバーしようか途中までずっと悩んでました(笑)。
――生徒役の若手俳優の熱演も印象的でした。
武藤将吾第5話くらいまでは、この生徒がメインになるという構想があったんですけど、後半は、あまり決め込まずに、現場を見守っていたプロデューサーの意見を参考にして跳ねそうなキャラクターを選びました。なので、生徒の皆さんは台本を読むまで誰がその回でフィーチャーされるか知らなかったと思います。皆さん、最初のころと後半では顔つきが変わっていて、お互いに切磋琢磨しながら演技でぶつかりあっていたんだと肌で感じました。