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『おっさんずラブ』『コンフィデンスマンJP』など、春ドラマを盛り上げた5人の劇伴作曲家

 4月クールのドラマが概ね最終回を迎えた。4月期は世間的にも大きな話題を集めたドラマが目立ったが、作品を陰で支えるドラマ音楽の分野で注目すべき作品はどれだったのか。ポップカルチャー研究者の柿谷浩一氏(早稲田大学総合人文科学研究センター招聘研究員)に、劇伴という視点で「今期ドラマベスト5」を振り返ってもらった。

物語の構造を上手に補完した『モンテ・クリスト伯』の劇伴

  • 『モンテ・クリスト伯 華麗なる復讐』の主題歌として6月20日にリリースされた、DEAN FUJIOKAの2ndシングル「Echo」

    『モンテ・クリスト伯 華麗なる復讐』の主題歌として6月20日にリリースされた、DEAN FUJIOKAの2ndシングル「Echo」

 劇伴は、単に作品の世界観や各シーンを盛り立てるだけでなく、《物語の構造》を補完する役目も大きい。作品内のあらゆる音楽とうまく交錯する形で、それが際立っていたのが、眞鍋昭大氏が手がけたCX『モンテ・クリスト伯 華麗なる復讐』だ。このドラマでは、主要な音楽である主題歌、メインテーマ、挿入歌などすべてが“英詞”になっていて、それが異邦人として転生した主人公像をビビッドに見せていた。また英詞はその意味よりも、歌い手の声にまず意識が向くことから、「男性が歌う主題歌/女性が歌うメインテーマ」が、悲哀や孤独を抱えた“復讐する男”と、復讐相手の“大切な女性”の悲運や苦痛を対比的に表し、劇を立体的に引き立て効果的でもあった。

 登場人物と対応する劇伴で印象的だったのが、兼松衆氏によるTBS『あなたには帰る家がある』だ。主人公夫婦を彩るのは、1つが管楽器、1つは鍵盤メインの軽快な音楽。これらが主旋律を変奏しながら交互に現れるのが特色。この掛け合いが「かみ合っているようですれ違う」微妙な夫婦関係とやり取りを巧みに表現しながら、〈ドロドロの不倫劇〉に絶妙なテンポとコミカルさを与えていた。対して、不倫相手となるもう一方の夫婦を象徴するのは、管楽器が不気味な重ぐるしい曲。不穏な低音といびつな音階は、「この家に問題がある」ことを物語序盤から直感的に伝えて上手かった。

 これらと別に、曲調によるコミカルな《作品の印象》の演出が優れていたのが、河野伸氏によるEX『おっさんずラブ』だ。この劇伴での注目はタンゴとワルツの2つの舞曲の使い方だろう。タンゴの情熱的で官能的なメロディーは、部長の主人公に対するまっすぐで過剰なまでの愛情をビビッドに表す反面、音楽の印象にそぐわない「可憐な乙女」の隠れた一面を引き立て、絶妙なおかしさを醸し出していた。その一方でワルツは、上司と部下のボーイズラブという物語を、抵抗なく“笑って楽しむ”雰囲気をうまく生み出してラブコメの精度を高めていた。

作品を楽しむ雰囲気を作り出したfox capture plan

 その他、際立っていたのは、fox capture planが担当したCX『コンフィデンスマンJP』。特にメインテーマは、往年のベニー・グッドマン楽団の「Sing Sing Sing」を彷彿とさせるビッグバンド風のアレンジで、海外の映画やミュージカルを観ているような気分を与え、視聴者が《作品を楽しむ》雰囲気と流れを大胆に作りだすのに成功していた。

 また、どの作品にも増して華麗な音色が際立ち、それが作品の舞台にマッチして《音楽自体の味わい》も深かったのが、日テレ『崖っぷちホテル』だ。物語の勘どころで「クラシックらしいクラシック」音楽を志向する、松本晃彦氏の楽曲は音楽本来のシンプルな美しさにあふれ、それがストレートな感動を促すと同時に、次回も反復して味わいたいと感じさせる「清々しい作品世界」を徹底して追求して惹き込まれた。

 ドラマに関するニュースは、とかくキャスト、脚本、主題歌に話題が集中しがちだが、劇伴がさらに注目され、ドラマの楽しみ方がもっと広がってくれたらと願う。

18年4月期「音楽」で評価が高かったドラマ BEST 15

提供元: コンフィデンス

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