『おっさんずラブ』『コンフィデンスマンJP』など、春ドラマを盛り上げた5人の劇伴作曲家
物語の構造を上手に補完した『モンテ・クリスト伯』の劇伴
登場人物と対応する劇伴で印象的だったのが、兼松衆氏によるTBS『あなたには帰る家がある』だ。主人公夫婦を彩るのは、1つが管楽器、1つは鍵盤メインの軽快な音楽。これらが主旋律を変奏しながら交互に現れるのが特色。この掛け合いが「かみ合っているようですれ違う」微妙な夫婦関係とやり取りを巧みに表現しながら、〈ドロドロの不倫劇〉に絶妙なテンポとコミカルさを与えていた。対して、不倫相手となるもう一方の夫婦を象徴するのは、管楽器が不気味な重ぐるしい曲。不穏な低音といびつな音階は、「この家に問題がある」ことを物語序盤から直感的に伝えて上手かった。
これらと別に、曲調によるコミカルな《作品の印象》の演出が優れていたのが、河野伸氏によるEX『おっさんずラブ』だ。この劇伴での注目はタンゴとワルツの2つの舞曲の使い方だろう。タンゴの情熱的で官能的なメロディーは、部長の主人公に対するまっすぐで過剰なまでの愛情をビビッドに表す反面、音楽の印象にそぐわない「可憐な乙女」の隠れた一面を引き立て、絶妙なおかしさを醸し出していた。その一方でワルツは、上司と部下のボーイズラブという物語を、抵抗なく“笑って楽しむ”雰囲気をうまく生み出してラブコメの精度を高めていた。
作品を楽しむ雰囲気を作り出したfox capture plan
また、どの作品にも増して華麗な音色が際立ち、それが作品の舞台にマッチして《音楽自体の味わい》も深かったのが、日テレ『崖っぷちホテル』だ。物語の勘どころで「クラシックらしいクラシック」音楽を志向する、松本晃彦氏の楽曲は音楽本来のシンプルな美しさにあふれ、それがストレートな感動を促すと同時に、次回も反復して味わいたいと感じさせる「清々しい作品世界」を徹底して追求して惹き込まれた。
ドラマに関するニュースは、とかくキャスト、脚本、主題歌に話題が集中しがちだが、劇伴がさらに注目され、ドラマの楽しみ方がもっと広がってくれたらと願う。