女優専門事務所に強運の異端、唐田えりかの転機
演技への苦手意識が芽生えるなかで出会った作品
「ずっとつらくて、毎日泣いていました。演技を楽しいと思えない、自分には向いていない。女優を“やらなくてはいけない”になってしまっていて、勝手に自分で自分を苦しめていたんです。18歳で上京して20歳までがんばって、そこで向いていないと思ったら辞めると、母と約束していました」
「どういう作品、役柄かも知らされないオーディションでした。プロデューサーさんと濱口監督と世間話をしているときに、演技を楽しいと思えないことも正直に伝えていて。手応えもまったくありませんでした。でも、オーディションが終わってから台本をいただいて、こういう作品だと知ってから、絶対に出演したいと思ったんです。受かったと聞いたときには、運命のようなものを感じました」
これまでの芝居への向き合い方を覆された現場
「『なにも考えなくていいから。ただ共演者に頼ってください。みんなの演技をしっかり観てください』と言われて、これまでのようにいろいろ考え過ぎることがなくなって、いい意味で無の状態で現場にいることができました。みなさんの演技を観て感じたことが、自然に出てきました。そういう感覚は初めてで、演技ってこういうことだと教わった作品になりました。濱口監督は、本番で初めて感情を入れて演じさせて、その場で生まれる空気を大切にする方です。撮影はほぼ順撮りだったんですけど、すべてがつながっていて、なにも考えることなく、感じながら演じていました。私にとって初めて楽にいられた現場。それまでの苦手意識を吹っ切ることができました」
「東出さんは現場中も台本をずっと繰り返し読んでいて。セリフは覚えているのに、『読むたびに新しい発見があるし、この作品のことをずっと考えていたいから』とおっしゃっていました。その姿勢や台本の読み方から、改めて自分を振り返ることができました」
期待と不安が入り交じるなかの挑戦
運と引きの強さも加わって(?)躍進を続け、この先のさらなる飛躍を予感させる新鋭・唐田。演技が楽しく感じられるようになったいま、次への期待と不安が入り交じるなか、これからの挑戦を語る。
「作品を観るたびに放心状態にさせられる河瀬直美監督の作品に興味があります。あと、『アイスと雨音』を観て感動して、映画終わりに松居大悟監督のサイン会に並んで『一緒にお仕事したいです』って直接お伝えしてきました(笑)。私、運だけは昔から強いんです。姉に今回のカンヌ行きを話したときに「運だけでここまできたか。あとは実力だな」って言われました(笑)」
(文:編集部・武井保之)
『寝ても覚めても』
監督:濱口竜介
出演:東出昌大 唐田えりか 瀬戸康史 山下リオ 伊藤沙莉 渡辺大知(黒猫チェルシー)/仲本工事/田中美佐子
9月1日(土)全国公開 【公式サイト】(外部サイト)
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