『君の名は。』初動売上63.8万枚、東宝・古澤佳寛Pが語る「売れると確信していた」“映画からパッケージ”への戦略
想定外の映画ヒットによるパッケージへの影響とは
「この結果によってパッケージ戦略は大きく変わってきました。通常では、映画公開中はパッケージ商品の情報は出さないルールがあるんです。本来なら公開から半年ほどでビデオ化しますので、『君の名は。』は当初の予定では2月末の発売になるはずでした。ところが、フタを開けたら40週近く劇場上映が続き、なかなか情報解禁ができない。発売日が決まらないため、展開スケジュールが組めないというジレンマがありました」
「通常のサイクルよりも長い準備期間ができたので、何度も映画館に足を運んでくださった多くのファンに満足してもらえるようなコンテンツを作り込む時間がありました。そのひとつが9時間の特典映像です。通常は発売までの制作時間の関係で難しいのですが、キャストのほか主題歌を担当したRADWIMPS、新海誠監督にもかなり協力していただき、メイキングやコメンタリーなど充実したコンテンツが制作できました」
歴史的な大ヒット映画のパッケージ化。前述の通り、販売時期や商品内容に変更があったほか、当然のことながら販売数への見立ても大きく変わってきた。「公開前は興収10〜15億円という大まかな目標があったのですが、結果的には250億円という数字になりました。当然パッケージ販売数への期待値とプレッシャーは上がりました」と古澤氏は述べる。
一方で「いまは本当にパッケージが売れない時代」と心情を吐露する。「具体的な数字を出すと、例えば実写映画で10億円を超えるヒット作でも、セルだと1万枚を下回るのは当たり前。動員に対してセルは1%以下なんてことが多い。それでも、アニメは比較的、売れる方なのですが、やはり10万枚というのが大きなハードルです」と現状を説明する。
“売れる”と確信できた根拠とは?収益最大化のための施策も
「『言の葉の庭』は23館の小規模公開だったのですが、初動で興収1.3億円で、動員としては約10万人。でも、封切りと同時にパッケージを発売する戦略を打ち、パッケージが4万5000本ほど売れたんです。単純計算で2人に1人が購入したということ。もともと新海監督の作品は、ストーリーもさることながら背景美術の美しさや、光の使い方がすばらしく、音楽と映像の合わせ方のテクニックも秀逸。“手もとに置きたい作品”という心理が働くのだと思います」
また、コレクターズエディションには、4Kの最高規格「Ultra HD(UHD)」盤が入っているが、こちらの受注も20万枚に近いという。「UHDのデッキ自体がまだ10万台ほどしか普及していないと聞いていたので驚きました。いつかハードを買ったときのために、または『君の名は。』にあわせてハードも購入するという人もいるかもしれません」。その“コンテンツの力”は、ソフトによってハードをも普及させるまでのものであることを物語っている。
『君の名は。』には、1万2000円の「UHD」コレクターズエディションから、3800円のスタンダートエディションまで4つの種別がある。「当初は、50〜60万枚ほどの予想もありましたが、おかげさまで4つを合計して初回で120万枚を出荷できました。目標は150万枚。さらに、この先の新海作品のテレビ放映や新作公開などによる動きもありますから、将来的にはロングテイルで200万枚を目指したい。それだけの力のある作品です」と大きな目標を掲げる。
(文:磯部正和)
(コンフィデンス8月7日号掲載)
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