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「感性による相互理解は言語以上の繋がりを生む」“奏でる”ことで音楽の本質に触れる 山野楽器 山野 政彦×オリコン 小池 恒 対談
「悔いはない」山野楽器 銀座本店でのCD、DVD/Blu-rayの販売終了への感慨
【山野 政彦】正直に申し上げて、コロナ禍以降銀座本店におけるCD販売事業は赤字が続いておりました。しかしながら、例え赤字でもCDをお求めになるお客さまに喜んでいただきたくて、CDの商売を続けてまいりました。それだけでなく、以前、この社長室に竹内まりやさんと山下達郎さんが来訪された折に「お2人が歌う限り、ここでCDを売り続ける」とお話したことがあったんです。その際お2人には「じゃあ私たちも山野さんが銀座でCDを売り続ける限り歌い続けます」と仰っていただきました。その気持ちに応えたくてCD販売を銀座で、できる限り続けていきたいと思ったりもしました。ですが、これ以上は経営上、続けていくべきではないと判断いたしましたので、断腸の思いで銀座本店におけるCD販売をやめる決断をいたしました。その結果、僕たちは社員含め、皆、「できるところまではやった」と胸を張っています。悔いはない。社内からも「もっとやりましょう」の声がないほど、「やりきった」という想いです。
【小池 恒】繰り返しになりますが、そもそも銀座四丁目という立地で、ここまでCDを販売し続けられたのは、とてつもなくすごいこと。おそらくレコード店というくくりで見た場合、坪単価や賃料が最も高いのが山野楽器 銀座本店になる。つまり、最も音楽やCDの売上に貢献してきたとも言えるのです。山野社長から事前に販売終了のお話を伺った際、「とてもすごいことだった、こんなに大きな貢献はない」とお伝えしたことを覚えています。
【山野 政彦】その言葉がとてもうれしく、ホッとしました。これからも双方、音楽業界で仕事をし続けるわけですから、次のフェーズへ進むためのプラスに捉えることができた。また、ユーザーの方々からも音楽パッケージの販売を長く継続してきたことに感謝の言葉を多くいただけました。アーティストの方々からも「あこがれの場所であり思い出の場所」といった言葉をいただきました。多くのアーティストがレコードデビューをした際、銀座本店でイベントを開催していたからでしょう。
【山野政彦】「Ginza Guitar Garden」はワークショップがいつも開催されているような体験型のフロアにしたいです。これからは音楽を聴くだけではなく、自分で奏でる喜びをより多くの方に伝えていきたい。ギターに精通している方だけでなく、これから演奏を始める初心者の方に向けても広く展開したいな、と。楽器を演奏することで教養を得ることができ、それがさまざまな出会いにも繋がっていくと思います。
【小池 恒】専門の楽器店だと敷居が高いですが、「Ginza Guitar Garden」のような試みで、そのようなハードルを取り除いてあげるのはとても正しい向き合い方だと思います。おそらく多くの方が、潜在的に自己表現として楽器を弾きたいと思っていらっしゃるはず。山野さんが仰るように、古代ギリシャ時代から教養としての音楽の演奏や知識は存在していました。それは現代にも生きており、日本の楽器演奏人口が増えることで、文化的に日本がさらに向上していくはずです。
【山野 政彦】感性による相互理解というのは言語でのつながり以上のものがありますから。また、現在もたくさんのメロディがありますが、アレンジ次第で聴かれ方も変わってくる。アレンジにおいても楽器は重要です。毎年開催している「ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト」は学生ビッグバンドの甲子園と言われ続けてきていますので、やめるわけにはいかない。また実際、さまざまな業界で「ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト」に参加した方々にお会いできるのも感慨深いです。
【小池 恒】「ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト」に出演した方々が、その後に音楽業界や放送業界などに歩を進める。エンタテインメントの登竜門としても、すごく重要な場を提供されていると思います。
【山野 政彦】これからも音楽人口を増やしたい。音楽で喜んでもらいたい。そんな時にオリコンさんといろんなことができたらうれしく思います。
【小池 恒】こちらこそ。弊社が正確なデータを出し続け、過去のデータで現状を俯瞰できるよう、山野楽器さんとは今後も協力体制を構築していきたいと思います。お互いに来年還暦になりますので、メモリアルになるようなことができたら嬉しいですね。
(取材・文/衣輪晋一)