• ORICON MUSIC(オリコンミュージック)
  • ドラマ&映画(by オリコンニュース)
  • アニメ&ゲーム(by オリコンニュース)
  • eltha(エルザ by オリコンニュース)
(更新: ORICON NEWS

エンタメ界は共創の時代へ、エイベックス執行役員・加藤信介氏

――2年目ですぐに東京に戻られた?
 そうですね。東京に戻ってきてからは、販売促進を6年間やりました。担当アーティストのCDや音楽配信の販売戦略を立てて、各所に指示を出す部署です。ただ、いくら販売戦略を立てても、アーティストや音源、戦略が良くないと、どんなに頑張っても売れません。だからここでも、自分の領域を制限せずに、アーティストのマスタープランを勝手に書いて提案したり、このレーベルはこうあるべき、みたいな部分まで提案したり、越境しまくりました。いち販促担当がアーティストの「根っこ」の部分まで口を出す。たぶん、周りはすごく嫌だったと思います。僕はそこまでやらないと気が済まなかった。だって本質はそこにあるから。

 でも、提案する以上は誰よりもそのアーティストに愛情を持って、寝る間も惜しんで調べて、考えて、自分のなかでどんな質問が来ても対応ができるくらい煮詰めて提案していました。そうじゃないと越境して意見を言うべきではないと思っていたし、それが出来ていたから、多少生意気だったと思うんですけど、仕事で関わるみなさんが僕を信頼してくれたんだと思います。あと、いくつかのアーティストは僕の越境で売った自負があります。

――販売促進を経て、マネジメント部署に異動された?
 28歳の時に課長になって、約2年間、販売促進の部署をとりまとめていました。そのタイミングでの異動だったので最初は驚きましたね。マネジメントの課長職としての異動だったのですが、僕の下に15〜20アーティスト、マネージャーも20人くらいいました。ほぼ僕よりも年上で、全員がマネジメント経験者。正直「マネジメント経験が全くない僕がこの部署でいきなり課長職をするのは無理だな」と思ったんです。だから、まずは当時の上司と相談して、課長職のまま、1年間現場マネージャーをやりました。

 そのあとは組織を取りまとめたり、自分で新しいアーティストの発掘やマネジメントして、多くのアーティストと関わって来ました。もともと、営業や販促部門で考えていた「根っこ」の部分を考える仕事なので、マネジメントの仕事は面白かったですし、楽しかったですよ。あと、マネジメントは「船頭」だと思うんです。アーティストと二人三脚で根本のプランを考えて、関係者を巻き込んでいく。船頭として、色んな人を引っ張っていかなければいけない。一つの会社の社長みたいなものですよね。この経験もすごく大きかったですね。

――その後社長室に異動され、2017年に最年少でグループ執行役員になられた。
 マネジメント部署にいた時期に、各グループ会社から選ばれた16名の若手が、会社の問題点を自由に議論して経営層に提言したり、経営層と社員とのハブになったりする「円卓の騎士の会」と言うプロジェクトが立ち上がったんです。そこに僕も呼ばれて、色々と議論をしたり研修に行ったりしていたんですけど、当時の経営ボードメンバーが構造改革に向けた議論を行い始めた2015年末くらいに、その円卓の騎士の会の中から僕を含めた3名が、構造改革のサブメンバーとしてアサインされることになって。そのあたりから、松浦(勝人氏=エイベックス株式会社・代表取締役会長CEO)を含めた、経営ボードメンバーとの議論に参加する機会が出来ました。それがきっかけかは分かりませんが、2016年8月に社長室に異動になり、そこから約半年間、松浦と常に一緒に会議に出て、構造改革を並走させてもらいました。

 構造改革プロジェクトも社長室も、今までとは全く違う領域の仕事で、自分のキャリアもとてつもないピボットだったんですけど、正直、未来のために会社の根幹からもう一度考えるという構造改革と、全社の案件に横断的に関われる社長室の仕事はめちゃくちゃ楽しかったです。

――最年少の執行役員となり、プレッシャーは感じましたか?
 もちろん、プレッシャーはありましたよ。今回に限らず、今までの異動においても全て感じていたと思います。多分僕はもともと人よりも、視野が狭いタイプで、放っておくと自分のことは近視眼的になりがち。でも、運がいいのか頑張っていると誰かが次のチャレンジの機会をアサインしてくれたり、自分で次のステップが見えてくるもので。そうすると鳥取にいるときに感じた「東京」へのイメージと一緒で、想像している世界と、自分がそこに立って感じることは全く違って。その場所に立つとまず当たり前ですけどその場所がリアルになって、やらなきゃいけないことが明確に見えてくるし、さらに高い次の課題が見えてくる。慣れて安定した状態よりも、この繰り返しによって常に適度なプレッシャーがある状態が僕は心地良いんだと思います。今回もまさにそうで、執行役員になったからこそ、より、「足元」と「次の課題」がクリアになった気がします。

エンタメ業界は「変化中」

――入社して10年以上の中で、エンタメ業界は大きく変化しましたね?
 大きな変化というか、今も「変化中」だと思います。僕らの世代は、変化の「過渡期」にずっといる。でも1つ明確なのは、これからのエンタメの未来は「ポジティブ」だということです。2030年、音楽市場はグローバルで6兆円から11兆円規模になると言われていて、新しいエンタメ、価値提供の方法もたくさん出てくると思います。エンタメ業界が、1.0から2.0に変わっていく。「コンテンツ」「アーティスト」「人」がもっと価値を生む時代になると思っています。これからまさに「新しいエンタメ業界」になるという「転換期」の「終焉」、その後半戦の真っただ中にいれるのは、やりがいもあるし、楽しいと思いますよ。

加藤信介氏(C)MusicVoice

加藤信介氏(C)MusicVoice

――仕事をしている中で、加藤さんを突き動かしているものはありますか?
 自分自身がその時に興味を持ったことや掴んだキッカケを、流れのままに楽しむタイプなので長い目で「何かに突き動かされて」というのがあまりないんですよ。明確に人生の目標を決めるのは素晴らしいことだと思うんですけど、僕はそうじゃない。目の前に起きたことや、次のステップが見えたときに、それを取るために、全力で取り組む。役割を与えられて、それに向かって全力で頑張る。で、そこからまた次の興味を見つける。そういうスタイルなのだと思います。と言うか、基本は超普通人間なんだと思うんです。

 一つ一つ自分で経験して見て、経験して理解したら次が見えてくる。でも普通なら普通であることを自認した上で、自分の特性をうまく生かして行くべきだなと。以前は結構悩んだこともあったんですけど、今は潔くこのスタンスです(笑)。だからこれから先どうなっていくのか、自分自身も分からないですが、そういうキャリアの積み重ね方があってもいいのかなと思うんです。それが僕なのかなと。

 でも、「これから何をしたいか」という文脈で話すと、1つ言っておきたいのが、これから先、ポジティブなエンタメ業界の中で、それぞれが派閥を作ったり、領域を奪いあったり、囲いこんだりするのは、本当にナンセンスだと思っています。言語化するのは難しいのですが、僕らの世代は、それぞれがそれぞれの領域を奪い合うというのではなく、みんなで共に作っていく、共創していくんだと思うんです。そこに大企業、スタートアップ、フリーランスは関係なくて、それぞれが持っている価値を認め合い、みんなでエンタメ業界を盛り上げて、ユーザーに対して新しい価値を提供する。目的は一緒だから、そのためにみんなで共創して価値を作っていくというのが、本当に大事だと思っています。エンタメ業界に限らず、会社の枠組みもより緩いものになって、社内・社外関わらずよりプロジェクトベースになっていくでしょう。

 むしろ元々いろんな人が混ざり合って一つのプロジェクトを回すことが当たり前に行われていたエンタメ業界はこの変化も早いはず。そうすると、今までになかったような共創から新しい価値がどんどん生まれていきます。だから僕個人としても、これからは例えば1社の中だけに自分の価値発揮を制限することを当たり前に考えるのではなくて、エイベックスにいながらスタートアップにCOOやアドバイザー的な役割で貢献するでもいいし、何か業界横串のプロジェクトを運営するでもいい。そんな柔軟なスタンスで新しい価値創出の仕方や、新しい働き方を率先して体現していって、エンタメ業界への価値貢献と会社への価値貢献を同時に実現できれば楽しいなと思っています。

 ◇

 過去を思い出しながら、すごく正直に、そして丁寧に言葉を選んで、1時間のインタビューに答えてくれた。グループ執行役員として、誰も想像出来ない「重圧」があるのかもしれない。笑顔で話しながら、時折見せる真剣な眼差しは、決まって会社のことを話しているときだった。最後に話してくれた『エンタメ界の未来』は、エンタメ業界で働く身として深く心に突き刺さった。ただ純粋に、この業界を盛り上げて新しい価値を届けていきたい。今までよりもさらに、この記事を多くの人に届けたいと思った瞬間だった。

あなたにおすすめの記事

 を検索