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『のど自慢』超えの高視聴率、民放が真似できない『うたコン』成功の秘密と課題
生放送、生演奏、客入れ…「民放ではお金がいくらあっても足りない」
番組開始当時、NHKは「日本の音楽シーンの中心となる番組を目指す」と宣言、初回視聴率は10.4%を記録(ビデオリサーチ調べ)。現在も毎週ほぼ10%前後を維持しており、『のど自慢』を超えて音楽番組ランキング首位を獲得することが多い。この人気の理由は何だろうか。民放の某音楽番組制作者に話を聞くと、「生放送であること、基本的に生演奏、NHKホールだから客入れであること。この3点が大きい」という回答が返ってきた。
「生放送や生演奏がいいのは、音楽は何よりライブ感が大事だから。まず生演奏とカラオケで比べると音の迫力が全然違うため、演者のノリ方がまったく違う。さらに、そこに客入れがあると、ライブ感に拍車がかかる。演者のノリはさらに上昇するし、お客のリアクションもあるため、演者にとってもっとも良い状況で歌える。あと私が観て思うのは、“あんなにたくさんのバンドは入れられないなぁ”ということ。例えば、ビッグイベントである『FNS歌謡祭』(フジテレビ系)よりも演奏者や楽器の数が多い。レギュラーの毎週の放送であれをやられたら…。民放ではお金がいくらあっても足りない」(某音楽番組制作者)
もはや“ミニ紅白”、「ダンシング・ヒーロー」ブームのきっかけに
ほか、「見上げてごらん夜の星を」をゆずと氷川きよしら出演者全員が、「恋のダイヤル6700」をクリス・ハートとAKB48が歌うなど、ジャンルを超えた組み合わせも続々。また、E-girlsが故・西城秀樹さんの「Y.M.C.A」を、柏木由紀が松田聖子の「天使のウィンク」を、布施明がスピッツの「空も飛べるはず」を歌うなど、新旧歌手によるカバーも盛んだ。
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かつてはレコード会社から嫌われたコラボやカバー、変化のきっかけは徳永英明
「きっかけの一つを作ったのが、徳永英明さん。カバーアルバムの大ヒットで、レコード会社に“こういう売り方があるんだ”と思わせた。番組でいえば、『FNS歌謡祭』や『僕らの音楽』(フジテレビ系)の功績も大きい。それまではレコード会社も“他人の歌を歌ってもプロモーションにならない”と嫌っていたのですが、“この歌手、実は歌が本当に上手いんだ”とか“こういう曲も歌えるんだ”など、印象をいい方向に変えられることがわかってきたのです」(同)
高視聴率に導いた、前身番組のノウハウと視聴習慣とは?
「生放送・生演奏では朝からリハーサルがあるため、演者のスケジュールを丸一日抑えなければならない。これを毎週やれるのは、23年間続いた前身の『歌謡コンサート』のノウハウあってこそ。さらに『歌謡コンサート』の視聴者層は60代以上でしたが、その層は“視聴習慣”がいまだ強い。日テレの今の強さもそうですが、変わらない枠で視聴者に“視聴習慣”を作るのが、視聴率的に強いやり方なのです」(同)
高齢視聴者の縛りから抜け出せるか? 成功の鍵は制作陣の世代交代
「民放は商売なので視聴率も考えますが、基本的には番組の質やグレードを上げて、若い人たちにバズってほしいという気持ちの方が強い。『うたコン』もそうした戦略を取ろうとしていますが、逆に高齢者の“視聴習慣”に縛られている。時代が移り変わり、20年後も同じ状況かといえばそうではないことが問題点。ちなみにTBSは音楽番組でもハロウィン音楽祭などの企画ものにチャレンジし、視聴率が取れるようになってきた。これはおそらく世代交代に成功し、制作が若返ったおかげ。私たちも私たちなりに質の良い番組を作っていきたいと奮闘中です」(同)
「とはいえ」と同制作者は続ける。「『うたコン』は、“こんな生演奏をやってるんだ、すごい!”と業界の人なら誰もが思う番組。狭いスタジオで、カラオケでちまちまやるのではなく、どーんとショーとして見せてくれるのが良い。“これぞ歌番組!”という歌謡ショーのど真ん中。本当はみんな羨ましく、あんな番組を作りたいのです」
様々な状況、しがらみや制約はあれど、音楽番組制作者たちはポジティブに、未来に目を向けて制作している。“誰もが歌える国民的ソングがなくなった”などと言われる昨今。『うたコン』のような業界でも太鼓判を押される歌謡ショーが増え、音楽業界がさらに盛り上がることを望みたい。
(文・衣輪晋一/メディア研究家)