宮沢和史、30周年コンサートで映し出された“人に寄り添う”音楽人生の旅 ライブハウスさながらに揺れたオーチャードホール
THE BOOMの初期ナンバーでコンサートの幕が開ける
宮沢独特の歌い回しや声量も当時のままだ。とはいえ、30年を重ねた体に全力のポゴダンスはさすがにハードだったようで、水を一口。そして「お互い歳ですからね(笑)」と早くも汗だくになっている客席の同世代たちを見渡して冗談を飛ばす。30年という歳月は長く、決して楽しいことばかりではない。この日、宮沢は「今だから言うけど」と喘息で入院していたこともあったことを明かしている。
ちなみに長年マイクを握ってきた宮沢の指には、“マイクまめ”とも言うべきシコリがあったという。それが2年前に柔らかくなったときに「歌手として終わったんだなと思った」。ところが最近、再び硬くなりつつあることが「また歌えってことなのかなと」と、なんだかうれしそうだ。「人生何回もスタートしていい。30年を振り返って、みなさんと一緒にまた一歩を踏み出せる。そんな日だと確信して、今日ここに来ました」という言葉はこのコンサートにかける宮沢の思いであると同時に、同世代ファンにとっては「まだまだ人生楽しもう」というエールとしても響いたはずだ。
藤巻亮太、ハナレグミ、コブクロが祝福のコラボ
台風19号は山梨にも大きな被害をもたらした。この日のコンサートに駆けつける予定だった宮沢の同郷の同級生たちのなかにも、中央自動車道の復旧が遅れて来れなかった人が多かったという。故郷の景色を歌詞に込めることも多い藤巻が「山梨はこれからがいい季節。ぜひ観光に来てほしい」と客席に呼びかけると、「山梨はもちろん、長野、福島……日本中が元気をなくしている。僕らは僕らのできる音楽で元気を届けられれば」と、音楽を通したチャリティ活動をライフワークとする宮沢らしいメッセージが投げかけられた。
さらに年齢が違う2人ながら、ともに高2のときに衝撃を受けたというボブ・マーリーの「No Woman,No Cry」をカバー。プロとして長らく音楽活動をしてきた2人が、“ただのロックキッズ”に戻ったキラキラした時間だった。
そしてコブクロとのステージでは、コブクロのデビュー曲「Yell」とTHE BOOMの「風になりたい」を熱唱。この3人のステージもまた、黒田俊介の“身長ネタ”など笑いが絶えなかった。コブクロのメジャーデビューは2001年だが、それより以前にTHE BOOMのオープニングアクトに呼ばれたことが「とにかくうれしかった」と小渕健太郎が懐かしそうに語ると、「Yellは本当にいい曲だよね。あとでまたカラオケで歌います」と宮沢。キャリアは違えど、互いにミュージシャンとして深くリスペクトする同士の特別なコラボレーションの時間だった。
宮沢和史の根本に常にあったレベル・ミュージック
かつて朗読会でコラボレーションしたことのある2人は、社会批評性やメッセージの色濃い宮沢のソロ楽曲「ゲバラとエビータのためのタンゴ」を2019年版にアップデートした詩を2人で朗読。緊迫感のあるその掛け合いに、宮沢が現代の社会に対してどのような視線を持っているのかがうかがえた。幅広い民族音楽を取り入れた独特の音楽性を自らのものにしてきた宮沢だが、その根本に常にあるのはレベル・ミュージックなのだと改めて感じられた瞬間だった。
このコンサート中にも「あれから20数年。本当に平和になったのかと問いただしてみると、何も変わっていないという思いもある。いろんな意見があっていいと思うけど、意見は持って欲しい。僕はコンサートでできるだけこういう話をしていきたいと思っています」と宮沢は沖縄への思いを語った。
3年5ヶ月ぶりのソロアルバム『留まらざること 川の如く』のリリース、そしてこの30周年コンサートを新たな起点として、宮沢がこれからどんな音楽とメッセージを発信していくのかが楽しみだ。
(文/児玉澄子)