渋谷陽一氏が語る、20回目を迎えた“聴き手が作る”フェス「ROCK IN JAPAN」
ステージに立つアーティストは観客が決める
渋谷陽一雑多なようで、実は厳選した情報を限られたページの中で掲載できるのが雑誌の長所で、それはフェスの組み立て方と非常に共通しています。そして聴き手(=読者、参加者)はそこで思いがけない音楽体験をするわけですね。それまでチェックしていなかったけれど、こんな面白いパフォーマンスをするアーティストがいるんだと。またそういう体験をたくさんしてもらうためにもタイムテーブルの組み方、雑誌で言えば台割などもすごく考えるわけです。
──アーティストも「憧れのあの雑誌の表紙に載りたい」と目標ができる。メディアにはアーティストの成長を促す役割もあると思います。
渋谷陽一「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」で言えば、「いつかGRASS STAGEのステージに立つことがモチベーションだ」と公言してくれるアーティストも増えました。一昨年、GRASS STAGEのトリを務めたB’zの稲葉さんが、一面の大地に集まった7万人を眺めて「こんな景色が見られるのか!」と感嘆の声を漏らしたんですよ。東京ドームを埋められるアーティストでさえ見られない光景がGRASS STAGEにはあるんです。ただ、そこに立つアーティストを決めるのは僕らじゃない。「このアーティストはGRASS STAGEにふさわしい」と参加者のみんなが認めれば、自然なメカニズムとしてそうなるわけで。やはりどこまで行っても、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」は聴き手が作るフェスなんです。
渋谷陽一いや、僕はあるときから「もはやこのフェスは俺のものじゃないな」と思うようになりましたね。どう考えてもこれは参加者のものだと、そんなサンクチュアリな雰囲気が会場に漂っていて、そのとき初めて、アーティストにとってのヒット曲とはどんなものかがわかった気がしました。サザンの桑田くんがライブである曲をやったときに、最前列のお客さんが泣いていたと。それを見て「お前は俺よりこの曲が好きなんだな」と思ったという。ようは歌っているのは自分だけど、もはやこの曲は彼のものになったという感覚があったと言うんですね。それにすごく近い感覚で、初期の頃は自分がこのフェスをなんとかしなければと一生懸命動いていました。だけど、今の自分を動かしているのはお客さんのオーラ。僕が変な方向に行きそうになると、お客さんが「そっちじゃないでしょ」と軌道修正してくれますから。このフェスがそこまで来られたことを本当に幸福に思います。
──渋谷さんの次なる“ヒット曲”にも期待したいところです。
渋谷陽一ヒットするかわからないけど、“新曲”は出していかなきゃいけないですからね。それと「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」は比較的早かったけれど、ヒットに時間がかかる曲もある。そうした“既存曲”のアップデートも含めて、挑戦を続けいきたいと思っています。
(文/児玉澄子)
渋谷陽一氏/ロッキング・オン代表取締役社長
1951年生まれ、東京都出身。高校在学中からロック誌に寄稿し、大学在学中の72年に洋楽ロック批評・投稿誌『ロッキング・オン』創刊。85年に邦楽批評誌『ロッキング・オン・ジャパン』を創刊後、映画批評・インタビュー誌『カット』や総合誌『サイト』などの創刊を手がける。2000年にはロックフェス『ロック・イン・ジャパン』を初開催し、以降国営ひたち海浜公園で毎年開催。このほか、『カウントダウン・ジャパン』、『ジャパン・ジャム』、『まんパク』など、多数のフェスを展開する。また、NHK-FM『ワールドロックナウ』ではラジオDJを務めるなど、精力的に活動中。
1951年生まれ、東京都出身。高校在学中からロック誌に寄稿し、大学在学中の72年に洋楽ロック批評・投稿誌『ロッキング・オン』創刊。85年に邦楽批評誌『ロッキング・オン・ジャパン』を創刊後、映画批評・インタビュー誌『カット』や総合誌『サイト』などの創刊を手がける。2000年にはロックフェス『ロック・イン・ジャパン』を初開催し、以降国営ひたち海浜公園で毎年開催。このほか、『カウントダウン・ジャパン』、『ジャパン・ジャム』、『まんパク』など、多数のフェスを展開する。また、NHK-FM『ワールドロックナウ』ではラジオDJを務めるなど、精力的に活動中。
「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル 2019」
公式サイト:http://rijfes.jp/(外部サイト)