VERBAL、激動の音楽業界で企業家としての手腕を発揮 日本人アーティストの海外進出の可能性と問題点

 昨年、約15年ぶりに再結成を果たしたm-floのメンバーであり、プロデューサーの顔も持ちながら「LDH JAPAN」の国際事業を管轄する執行役員、アパレルブランド「AMBUSH(R)」のCEOでもあるVERBAL氏。アフロジャックを筆頭に海外のアーティストやDJともつながりがあり、アメリカ、アジア、ヨーロッパでの活動も多いVERBAL氏に、日本のアーティストによる海外進出の可能性と問題点や、激変する音楽業界でA&Rやマネージメントに求められることについて聞いた。

海外での活動はまだまだ開拓の余地がある

――m-floは今年メジャーデビュー20周年。7月に新作「mortal portal e.p.」がリリースされます。制作はグアムで行われたそうですね。
VERBAL 今年の年始に☆Taku、LISAと3人で合宿しました。日本にいると何かと忙しいし、他のことに気を取られてしまうので、それをシャットアウトできる環境を作ろうと。「STRSTRK」は、☆Takuの部屋からトラックが聴こえてきて、「それ何? すごくカッコいいじゃん!」というところから制作が始まりました。デビュー前のデモ制作の状況に近いところもありましたね。

――m-floの音楽は最新のダンスミュージックとリンクしながら発展してきましたが、そのスタンスは今も変わらないですか?
VERBAL m-floは時期によってフェーズが変化しているし、向かっている方向は同じでも、メンバーごとに少しずつスタンスが違います。デビュー前後の頃でいうと、☆Takuは「日本の音楽業界に旋風を巻き起こしたい」という意図があったと思うし、LISAには「ソロ活動に向けたステップにしたい」という気持ちがあった。僕は「カッコいいラップがしたい」というだけでした(笑)。時間が経つにつれて、それぞれに意識が変わってきました。今はトレンドを取り入れるというよりも、「m-floサウンドとは何か?」ということを考えています。デビュー当初の楽曲がいまだに愛されている理由を模索しながら、今の自分たちがカッコいいと思える音楽を追求する。☆Takuと一緒にEDM系のフェスに出るときは、トレンドを気にしながらプレイしますが、今はまず良い曲、良いアルバムを作ることが大事かなと。

――制作の段階では「どういう層のリスナーに届けるか?」ということも意識していない?
VERBAL 再始動したときは「ファンのために」という気持ちが大きかったです。LISAがいる3人のm-flo を待ってくれていた方も多いので。今は世界に向けた活動が現実化しているので、さらに進めていきたいと思っています。きっかけは、昨年7月にロサンゼルスで行われた『Anime Expo』に出演したことです。マイクロソフト・シアターに約4000人の観客が集まってくれたのですが、9割以上が現地の方でした。今年もハワイの『Kawaii Kon』、シカゴの『Anime Central』に出演して、どちらも観客のエネルギーを如実に感じました。海外での活動はまだまだ開拓の余地があります。特にこの手のイベントに足を運ぶ人はそもそもアニメを筆頭に日本の文化が大好きな方々が集っているので、まさに僕達のことを待っていた層にダイレクトにリーチできます。

――海外での活動を活性化させるために必要なことは?
VERBAL これはm-floに限らず、どのアーティストも同じだと思いますが、日本での活動スタイル、ライブ制作の進め方、音楽業界のしきたりのようなものを持ち込んでも100%失敗するでしょう。ここ数年、海外のイベントにDJとして参加することも増えていますが、日本でイベントに出るときの“あうんの呼吸”みたいなものはまったく通用しない。「どんな機材を使って、マイクは何本必要で」ということはもちろん、「楽屋の温度は25度で、飲み物の種類は…」ということまで指定するのが当たり前。日本ではどんなイベントもある程度環境が整っていますが、海外は信じられないようなことが起きますからね。以前、シンガボールで行われるフェスに出る予定だったんですが、中止になったことがあって。スヌープ・ドッグ、ジャスティン・ビーバーも出演する大型フェスが前日にドタキャンになるということもありました(笑)。

海外アーティストとのコラボは、本人と直でつながっていることが大切

――アーティストの海外進出を支えるスタッフの育成も不可欠ですね。
VERBAL まず、英語を話す文化がないのがネックですよね。英語が話せて、音楽業界のイロハを知り、海外進出に意欲があって、音楽やカルチャーに詳しい…条件を重ねていくと、どんどん絞られます。ただ、個人的には必ずしも英語が話せなくてもいいと思います。大事なのは音楽、カルチャーへの愛とパッションかなと。

――VERBALさんはLDH JAPANの国際事業を促進する為に執行役員、そしてプロデューサーという肩書もあります。具体的にはどんな業務を行っていますか?
VERBAL 基本的にはクリエイティブ・ストラテジーです。一筋縄ではいかない海外事業をLDHのビジネスに結びつける。その戦略を立てるのが、自分の役割だと思っています。ポイントは、アーティストや各企業と直でつながっていること。例えば、J.バルヴィンとコラボレーションする場合、まずユニバーサル ミュージック ジャパンに話をして、本国のユニバーサルに連絡してもらい、J.バルヴィンのマネージャーにつないでもらって…のようなことをやっていたら、いつまで経っても実現しない。直でアーティストとつながっていれば、LDHの国際部スタッフにつなげていき、僕は戦略や座組みを組んだり、調整役となります。マネージメントを通すと、アーティスト本人が乗り気でも、ギャランティが少ないという理由で受け付けない可能性もあります。逆にいうと、直接やりとりできない場合は、そのプロジェクトはやめたほうがいい。周りのスタッフが「絶対実現させたい」と盛り上がっていても、直でつながれないときは「やめましょう」とはっきり言います。

――上手くいった例も多いですよね。2018年にはスヌープ・ドッグをフィーチャーしたPKCZ(R)の「BOW DOWN feat. CRAZYBOY from EXILE TRIBE」をはじめ、海外のビッグアーティストとのコラボレーションが次々と実現しています。
VERBAL その筆頭はアフロジャックです。2017年に設立したLDH EuropeのCEOに就任してもらったのですが、常にコンタクトが取れる状態で、楽曲制作や収支報告のやりとりもスムーズにできる。CEO就任がゴールではなくて、大事なのはその後ですからね。

――アフロジャックとの密な関係を築いているのも、VERBALさんの力が大きいと思います。
VERBAL 今はインスタでDMできる時代だし、思いの強さがあれば大丈夫だと思っています。あとは営業力。僕は大学を卒業した後、営業の仕事をしていたことがあって、成績優秀だったんですよ(笑)。打たれ強いというか、断られても落ち込まないし、すぐに諦めない。まだ詳しいことは言えないんですが、現在、アメリカの有名なアーティストと楽曲のやり取りをしていて。この前、自分が送ったメールの数を数えたら、36回だったんです。しかも向こうから反応があったのは3回だけで、あとはスルー(笑)。あきらめずにコンタクトを取って、ようやく話が進み始めたところです。実際に会いに行くこともありますね。ロスアンジェルスまで出向いて、確認を取って、1泊で帰ってきたり。LDH会長のEXILE HIROさんがよく「勝つまでやれば負けない」と言うんですが、そういう心構えも大事なんです。

提供元: コンフィデンス

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