ヒットメーカー・野木亜紀子が語る仕事観とドラマ界への想い「いつかSFを書きたい」
PD・演出家・脚本家が絶妙な関係性 を築けてこそ良質な作品が生まれる
野木 とてもありがたいことですよね。『アンナチュラル』は、優れた演出家チーム、スタッフ、素敵なキャストの皆さんに恵まれて、それぞれが本当に一生懸命頑張った結果、とても良い形で完成品をお届けすることができたと思っています。取材など大変なことの連続でしたが、こんなふうに賞をいただけたことも非常に嬉しいですね。登場人物のキャラクターがそれぞれに際立っていたので、そういった点からも長く皆さんに愛していただけているのではないかと思います。
――『アンナチュラル』は、法医解剖医が集まる架空の「不自然死究明研究所(UDIラボ)」を舞台に、“アンナチュラル・デス”を遂げた死体の死の真相を突き詰めていく法医学ミステリー。普段聞き慣れない用語を含め、描き方が難しい部分も多かったのではないでしょうか。
野木 確かにバランスを保つのは難しかったですね。“ながら見”でも理解できてしまうような簡単な作りにしてしまうと物足りないですし、かと言って難しい内容にしすぎてしまうのも脱落者を生んでしまうので問題です。今回はプロデューサーの新井順子さん、演出家の塚原あゆ子さんと、とことんケンカしながら完成まで作り上げていったので、その絶妙なバランスを追求することができました。もう、誰も遠慮しない感じでしたね(笑)。
――作品づくりにおいて、プロデューサー、演出家、脚本家の関係性というのは、非常に重要ということですね。
野木 ドラマも映画の現場もそうですが、かねてからその3人のバランスってすごく重要だと思っていて。全員ものわかりが良いと不親切だったり、どこかつまらないものになったりしてしまうことがあるし、1人だけ声が大きい人がいて皆がそれに追随していくと、偏りが強くなる。ですから、三者三様に異なる持ち味を持ったメンバーが集って、同じ権限の下で対等に意見が言い合える関係性が、作品づくりの上で一番幸せかつ良い関係なのではないかと思います。今回は、そんなやかましい女3人を、植田博樹プロデューサーが半歩後ろから支えてくれた、そんな布陣でした。
良質な作品を作っていくためには“幸せなサイクル”が必要
野木 はい。脚本自体は17年の1月なかばから構想を立て始めて、結果1年ほど携わっていました。進行的には(早撮り以外のケースと)あまり変わらず、結局はいつも追い込まれていくんですけど(笑)、オンエアと同時進行ではないという点については、完成品を観ていないという不安はありながら、何も気にせず作ることができていました。ただ、早撮りの怖いところは、直しが効かないこと。今回のような事件を扱う物語は、放送のタイミングで類似する事件が起こってしまうケースがゼロではありません。該当箇所だけ放送しないなんていうことになったら話がつながりませんし、そういう意味では早撮りも難しいですよね。
――野木さんのお仕事の仕方としては、早撮りとそうでないケースとどちらがやりやすいですか。
野木 どちらも最後は追い詰められていくので(笑)、特別どちらがやりやすいということはありませんが、基本は早めに余裕を持って取り組みたいという気持ちは常にあります。やっぱり、“撮って出し”みたいなものって本当は良くないし、どこの局の人たちもそう思っているんじゃないかな。
――ドラマの関係者の方からは、最近、脚本のアップから映像化までのサイクルがどんどん短くなっているという話をよく耳にします。時代的に難しい部分もあるのかもしれませんが、余裕を持って作品を作ることができる“幸せなサイクル”が確立できると良いですよね。
野木 本当にそう思います。執筆と撮影との追いかけっこになると、俳優さんのスケジュールの兼ね合いや天候などの状況に合わせて脚本を変えていかなくてはならなくなるので、その量が増えれば増えるほどイメージとかけ離れていって、誰も幸せにならない。でも難しいですよね。今は俳優さんもたくさんの作品を掛け持ちしていますし、人気者を集めれば集めるほどスケジュール調整が困難です。そういったことは常々ですが、良い作品を作っていくためにも幸せなサイクルが生まれることを願います。