『下町ロケット』と『ドラゴンボール』の意外な共通点 ドラマを観ない中年男性にもウケるワケ
『少年ジャンプ』の三大要素である「友情・努力・勝利」の図式と共通
佃社長をはじめ、殿村や立花ら世代を超えて仲間と助け合い、力を合わせて強敵を倒すように、1つずつ問題をクリアし乗り越えていくストーリー展開は、どこか『少年ジャンプ』の三大要素である「友情・努力・勝利」と自然と重なる。普段はあまりドラマを観ないものの、子供の頃に『少年ジャンプ』を読み育ってきた30〜40代の世代にとっては、まるで『ドラゴンボール』を読むような感覚で観られることが、自然と“こういう人いるよね”“わかる”と自分の状況にも合わせやすく、すんなりと受け入れられるものになっているのかもしれない。ネットでも「自分もドラマのなかに入って、佃製作所の一員になったつもりで観てしまう」「仕事とは何かと考えさせられる」など意見があがっている。
『ドラゴンボール』は、さまざまな困難や強敵と対峙し、成長しながら、7つ集めると願いが叶う『ドラゴンボール』を集めていくというのが基本的なストーリー。次々とより強力な敵が現れ、時には敗北を経験しながら、努力し仲間を増やして立ち向かっていく。なんと言っても、一度どん底に落とされてからの大逆転劇が実に爽快だ。『下町ロケット』にも、そうした一発逆転の痛快さがある。例えば1期で、最初は佃製作所をばかにして融資を渋った白水銀行の柳井哲二(春風亭昇太)らが、手の平を返して自ら融資を申し出たところを殿村がバッサリ。その瞬間、誰もが思わず「ざまあみろ」とつぶやいたはず。『ガウディ編』で、篠井英介が演じたPMEAの審査員・滝川信二が、癒着の証拠を突きつけられた時のうろたえぶりといったらなかった。今作『ゴースト編』でも、2話で行われたコンペで大森バルブが圧倒的に優勢だったにも関わらず、心のこもった製品づくりが認められた瞬間、きっと多くの人が心でガッツポーズを取っただろう。
キャラクターの立ち位置も、絶妙にマッチ
『下町ロケット』が『ドラゴンボール』的であるのは、ストーリー構成のことだけではない。キャラクターの立ち位置も、絶妙にマッチしていて面白い。『ドラゴンボール』では、ピッコロや人造人間18号など、かつては目の前に立ちはだかっていた強敵が仲間に加わっていく流れがある。
例えば木下ほうかが演じる帝国重工の宇宙航空部本部長水原重治は、1期では佃製作所の作るロケットバルブを否定し、何かと物言いと付けていたが、『ゴースト編』では「佃のバルブがなければロケットは飛ばない」と、佃社長に絶大な信頼を寄せる。
ヒール役も欠かせない存在で、池畑慎之介が演じる企業弁護士・中川京一は、陰湿さで言ったらフリーザそのもの。佃のライバル会社であるダイダロスの社長・重田登志行(古舘伊知郎)は、佃の顧客を次々と自分のものにして台頭する点で、敵を吸収しながら強くなる強敵セルさながらだ。さらに竹内涼真が演じる若きエンジニア・立花洋介は悟飯であり、土屋太鳳が演じる佃社長の娘・利菜は悟空の孫娘・パンといった存在。徳重聡が演じて話題の軽部は、清濁持ち合わせたキャラクターという部分でベジータ的な存在に相当すると言える。
『ドラゴンボール』的なキャラ設定やストーリー構成は、池井戸潤氏の作品にも共通する
愚直なまでに真っ直ぐで熱い主人公像と、それを支える個性豊かな仲間たち。徹底的なまでの悪役の存在は、主人公像をより引き立ててくれる。そして、たびたび訪れる窮地を一発逆転の発想で乗り切る痛快さ。こうした『ドラゴンボール』的なキャラクター設定やストーリー構成は、『下町ロケット』に限らず、『半沢直樹』や『陸王』など、これまでの池井戸潤氏の作品にも共通して言えることだ。前述の長谷川氏は、「『下町ロケット』の新シーズンは“仲間を増やして敵(悪)を倒していく”感が増しているので、そんな(『ドラゴンボール』的な)楽しみ方もアリかもしれません」と前作との違いを語る。阿部寛が演じる佃航平の七転八起の活躍が、悟空の活躍にワクワクしたあの頃を思い出させ、毎週『ジャンプ』を欠かさず買っていた頃のように、毎週欠かさず『下町ロケット』が観たくなる。中年男性の心を掴んで離さない
(文/榑林史章)