宇多田ヒカル、浮かび上がる新たな魅力 10代を魅了する“美しさ”
本作は、日本の音楽シーンの金字塔ともいえる1stアルバム『First Love』(99年3月発売)から約20年を経て、再び宇多田が「First Love=初恋」というテーマと向き合った作品で、収録楽曲12曲のうち、実に7曲がタイアップ曲。それも、「サントリー 南アルプススパークリング」CM曲「Play A Love Song」や、実写映画『DESTINY 鎌倉物語』主題歌「あなた」、TBS系火曜ドラマ『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』イメージソング「初恋」、ゲームソフト『KINGDOM HEARTS V』テーマソング「誓い」、TBS系日曜劇場『ごめん、愛してる』主題歌「Forevermore」といったように、CM、映画、ゲーム、ドラマなど、実に多彩なコンテンツと組みながらも、見事にそれぞれ作品の世界観を表現しつつ、タイアップ曲として仕上げている。
宇多田ヒカルは“アルバムで聴きたいアーティスト”
このような環境変化のなかで、シングルやアルバムの在り方自体も変化し始めており、近年ではシングルはデジタル配信限定で発表し、フィジカルでの発売はアルバムのみというケースも増えている。当然、リスナーの視聴行動も変化してきており、サブスクリプションサービスでは単曲での視聴がメインとなり、“アルバムを聴く”という行為自体も少なくなっている。そうした状況において、継続して高いアルバムセールスを続けている宇多田ヒカルという、“アルバムで聴きたいアーティスト”の存在はより一層際立ってくる。
10代ファンでは“自分がなりたい姿”と重ねる傾向も
そこで10代の『Fantome』購入者を、オリコン・モニターリサーチが独自に導き出した“音楽意識”の指標「Music Compass」(下図参照)上で見ていくと、10代平均と比較し、「ドリーマー」の構成比率がやや多く、音楽を常に聴いている傾向も高い。また、好きな音楽は自分の個性を表現する大きな手段の1つと考えており、周りの人と違った音楽を好む傾向が見られた。さらに楽曲だけでなく、アーティスト本人への関心も高く、アーティストを憧れの存在、自分がなりたい姿と重ねる傾向も見えてきた。こうした音楽意識がより深くアーティストや作品と向き合いたいという意識にも繋がり、アルバムの購入意向に至ったと思われる。
アーティストイメージでは“美しい”が44.6%に
その一方で、「宇多田ヒカルの好きなところ」という設問ではこれまでと変わらず、「声」「歌詞」「メロディー」「歌の上手さ」といった項目が目立っている。つまり、アーティストイメージで、従来までの「センスが良い」「実力がある」といったワードとともに上記のようなワードが伸長したのには、容姿への憧れということではなく、彼女の生み出す“楽曲”に対して、これまで以上に「美しさ」や「可憐さ」を感じ取っているのだと思われる。
また、10代女性層に、ドラマ『花のち晴れ〜』のイメージソングで、アルバム表題曲にもなった「初恋」のイメージを聞いてみると、「ドラマが好きで初めて聴いたが、1度聴いただけでも頭に残るくらい素敵」、「初めて聴いた時、凄く感動して泣いてしまった」「ドラマの途中で流れてくるとより感動する」と、絶賛のコメントが並ぶ。さらには「宇多田ヒカルを聴こうと思ったきっかけがこの曲」というコメントも見られるなど、10代においては、ドラマ×「初恋」がきっかけとなり、新規ファンが広がり、この層が特に、宇多田に対して“美しい”というイメージを持っているということも予想される。
2017年と2018年で変化した宇多田ヒカルのアーティストイメージ
“第3期”宇多田ヒカルに備わった独自の美しさ
宇多田ヒカルといえば鮮烈なデビューから、高い歌唱力やメロディーセンスといった“才能”によって、グイグイとリスナーを惹きつけていく、ある種の力強さが魅力の1つだった。そこから20年が経ち、30代に入った宇多田は、その間、さまざまな経験を重ね、ある種の“美しさ”が備わった。アルバム『初恋』に収録された多彩なタイアップ楽曲にも、彼女だけが持ちえた“美しさ”が通底しているからこそ、1つの作品としても見事にまとまっており、“アルバムで聴きたい”と思わせるのだろう。今回の調査から浮かび上がった“美しい”というワードこそが、“第3期”宇多田ヒカルをもっとも的確に表しているのかもしれない。