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【鈴木おさむ×藤田晋 対談】勝ち負けは視聴率でも収支でも無い、配信ドラマが話題をさらう理由

 インターネットテレビ局「AbemaTV」が、4月11日に開局2周年を迎えた。それを記念して制作されたオリジナル連続ドラマ第3弾『会社は学校じゃねぇんだよ』は、企画をAbemaTV代表取締役の藤田晋氏、脚本を放送作家の鈴木おさむ氏が担当。ネットテレビならではのアプローチで、「テレビを観ない」と言われる若者を中心に話題を集めている。本作でタッグを組んだ両氏に、ネット発ドラマだからこそ実現したクリエイティビティーや面白さ、今の民放テレビに対する思いなどを語ってもらった。

制作費を潤沢に投入し意欲的な描写にも挑戦

AbemaTV開局2周年記念ドラマ『会社は学校じゃねぇんだよ』最終回第8話より  (C)AbemaTV

AbemaTV開局2周年記念ドラマ『会社は学校じゃねぇんだよ』最終回第8話より  (C)AbemaTV

──AbemaTV開局2周年記念ドラマ『会社は学校じゃねぇんだよ』は、Twitterでトレンド入りするなど非常に大きな盛り上がりを見せています。6月9日で最終回を迎えますが、改めて本作の企画・制作意図から教えていただけますか?
藤田 このドラマは、僕の著書である『渋谷ではたらく社長の告白』が話のベースになっています。従来のテレビ局が作るドラマで描かれるスタートアップ、ベンチャー起業家の姿というのが、現場にいる僕たちから見るとあまりにリアリティを捉えきれていないことが気になっていて、それもあって今回企画をしました。
鈴木 そもそも、スタートアップを真正面から描いたドラマがなかったんですよ。ベンチャー起業家も結局はトッピングの設定に過ぎなかったり。
藤田 世間が抱くイメージに応えた描写なんでしょうけど、やたら派手なパーティーをやっていたりとか(苦笑)。まぁ、今のテレビ視聴層をターゲットに想定すると、スタートアップを題材にしたドラマでは視聴率も見込めないんでしょうね。
鈴木 でも周りの大学生なんかを見ていても、「起業」という選択肢はもはや当たり前になってますよ。従来のテレビ局からするとミクロな層かもしれないけど、その層に強烈に刺さるドラマが作れるんじゃないかと、藤田さんの企画を聞いて思いました。
  • 『会社は学校じゃねぇんだよ』最終回第8話より  (C)AbemaTV

    『会社は学校じゃねぇんだよ』最終回第8話より  (C)AbemaTV

  • 『会社は学校じゃねぇんだよ』最終回第8話より  (C)AbemaTV

    『会社は学校じゃねぇんだよ』最終回第8話より  (C)AbemaTV

──ドラマと連動したトーク番組で「地上波だったとしたらカットされるシーンも多かった」とおっしゃっていましたが、具体的には?
藤田 例えば、三浦翔平さん演じる主人公が床に落ちたパスタを食べるシーンでは、視聴者がコメント欄に「この後スタッフがおいしくいただきました」って書いていましたね(笑)
鈴木 皮肉ですよね。「食べ物を粗末にするな」というクレームが来るかもしれないから、こういう描写はテレビではできないだろうという。別にアナーキーさを狙ったわけじゃなくて、すべては物語として意味があるからこその描写だったんです。ただ、今のテレビは意味があってもいろんなところに気を使って描けず、結果リアリティが削がれてしまうことがあまりに多い気がします。

──AbemaTV側、あるいは企画した藤田さんから脚本や描写の方向性を提示したことはありましたか?

『会社は学校じゃねぇんだよ』第1話より (C)AbemaTV

『会社は学校じゃねぇんだよ』第1話より (C)AbemaTV

藤田 細かく注文したのは、主題歌(AK-69「Forever Young feat. UVERworld」)の使いどころくらいですね。この曲を聴くとドラマを思い出すという感じにしたかったので。そのほかのクリエイティブ面については、一切NGは出しませんでした。そうすることで、おさむさんや監督が「これができなかったからうまくいかなかった」と言い訳できない状況に追い込んだんです。
鈴木 フフフ。でも映像も映画並みに豪華ですよね。ヘリをバンバン飛ばして空撮していますし、相当お金がかかっているのがわかります。
藤田 AbemaTV第1弾オリジナルドラマ『♯声だけ天使』の総制作費が3億円だったんですが、今回は話数や尺も短くてほぼ同じ制作費ですから、1話あたりはもっとかかってます。とにかく第1弾でネットドラマの低予算なイメージを払拭できたこともあり、クリエイターや俳優も積極的に関わってくれるようになりましたね。

地上波テレビ局の制作能力は高いが、視聴率だけ見ていては衰退していく

──世間の反響も大きかったですが、土曜22時という枠はいかがでしたか?
藤田 いや、特に時間帯へのこだわりはなかったです。実際、リニアタイムよりオンデマンドのほうが視聴数は多かったですし、AbemaTV公式YouTubeでの視聴数も多くて1話は190万回再生を突破しています。

『会社は学校じゃねぇんだよ』第5話より (C)AbemaTV

『会社は学校じゃねぇんだよ』第5話より (C)AbemaTV

『会社は学校じゃねぇんだよ』第5話より (C)AbemaTV

『会社は学校じゃねぇんだよ』第5話より (C)AbemaTV

鈴木 オンデマンドにしても、普通だったらAbemaTVで独占放送するじゃないですか。でも、作っているほうとしては1人でも多くの人に観てもらいたい。YouTubeに出すという判断は、さすがだなと思いました。
  • AbemaTV 代表取締役 藤田晋氏

    AbemaTV 代表取締役 藤田晋氏

藤田 YouTubeはSNSで拡散されやすいですし、面白かったら結果的には次回が真っ先に放送されるAbemaTVに来てくれる。中身に自信があったら、どんどんYouTubeに出すべきだと思います。
鈴木 それは民放のテレビドラマにも言えることですよね。僕がドラマ『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)の脚本を手がけた時、ネットでのバズを実験する意味もあって、キャラの濃い登場人物の「名場面集」みたいなのをテレビ朝日の公式YouTubeに出したんです。そうしたら、結果的にテレビの視聴率にも跳ね返ってきたんですよね。さすがに1話まるごとYouTubeにアップはできなかったですけど。
  • 放送作家 鈴木おさむ氏

    放送作家 鈴木おさむ氏

藤田 やはり、地上波テレビ局の制作能力は高いなと思いますね。実際、AbemaTVのオリジナル番組も大半はテレビ朝日から出向している方たちが作っています。だけど、今はオンデマンドの時代ですから、視聴率にこだわっていると間違いなく衰退していく一方だと思います。特にドラマは、広告以外でマネタイズする仕組みがますます必要になってくるのではないでしょうか。
鈴木 テレビドラマ自体は今すごく元気で、面白い作品がいっぱい出てきているんです。それこそ1月期のドラマだったら『アンナチュラル』とか、今期のドラマだったら『おっさんずラブ』とか、みんなすごい熱狂して観ているじゃないですか。なのに、視聴率だけで評価されてしまうのは、あまりにも時代に合っていないですよ。
──マネタイズはもちろん、視聴率という指標は出演者のモチベーションにも深刻に影響すると聞きます。
鈴木 どんなに頑張って良い芝居をしても正当な評価をしてもらえず、実態のないような視聴率で叩かれたりしますからね。スマホを開けば、それがネットニュースにもバンバン出て……。相当なメンタルじゃなければやっていられないですよね。いろんな意味で、視聴率とは別の新たな指標は必要だと思いますよ。
藤田 幸い『会社は学校〜』のキャストは、みんなノッてますよね。
鈴木 ネットでも評判が良いですからね。それと俳優さんって結構、友だちから「観たよ」「面白かったよ」という知らせが来るのが嬉しいらしいんですよ。本当に観た人からしか来ないですからね。『会社は学校〜』の放送後は、かなりたくさんメッセージが来ていたみたいですよ。

──AbemaTV自体は開局2周年ですが、現時点ではビジネスとしてどのような手応えを感じていますか?
藤田 当初、ウィークリーのアクティブユーザーが1000万を超えたらマスメディアであると定義していましたが、現時点で600万くらいまで来ているので順調ですね。マネタイズの仕組みについてはコンテンツに制限を受けたくないので、広告に依存するつもりはありません。ただ、それ以外ならなんでも良くて、最初からほかのあらゆる事業と連動してどこかで収益をあげればいいという発想でやっています。とにかく良いコンテンツを作って、ネット上に人を集めるのがAbemaTVの役割。その先のビジネスの広げ方は、いくらでも方法があると考えています。
鈴木 ユーザーに満足してもらえる良いモノを作っていれば、企業の価値は上がる。その先にいろんなビジネスが派生できる。経営者としては当然の発想ですよね。
──鈴木さんが今回AbemaTVでドラマを手がけたことで、今後ますます多くのヒットクリエイターの参入が期待できそうです。
鈴木 僕みたいな民放テレビのイメージがある人間が「こっちでも面白いものを作ってるぞ」という空気を出すことの意味は、多少意識しましたね。ドラマ制作者の中にも、『会社は学校〜』の主人公みたいに「俺も面白いもので当てたい!」とギラギラしている人はたくさんいますから。
文/児玉澄子
(『コンフィデンス』 18年6月18日号掲載)
藤田晋(ふじた すすむ)
1973年5月16日生まれ、福井出身。大学卒業後、インテリジェンス(現パーソルキャリア)での1年のサラリーマン経験を経て98年にサイバーエージェントを設立、00年に当時史上最年少の26歳で東証マザーズに上場。「21世紀を代表する会社を創る」をビジョンに掲げ、07年から「アメーバ」をはじめとするメディア事業立ち上げを統括、現在も「アメーバ総合プロデューサー」として陣頭指揮する。現在は、サイバーエージェントのほか、AWA(14年12月就任)、AbemaTV、AbemaNews(ともに15年4月就任)の代表取締役を務める。著書に『渋谷ではたらく社長の告白』、『藤田晋の仕事学』『藤田晋の成長論』など多数。
鈴木おさむ(すずき おさむ)
1972年4月25日生まれ、千葉出身。高校時代に放送作家を志し、19歳で放送作家デビュー。バラエティー番組を中心に多くのヒット番組の構成を担当。映画・ドラマの脚本や舞台の作演出、小説の執筆、楽曲への歌詞提供など、さまざまなシーンで活躍している。最近では、AbemaTV開局2周年記念オリジナル連続ドラマ『会社は学校じゃねぇんだよ』の脚本をつとめたほか、初監督を努めた映画『ラブ×ドック』が5月11日に公開となった。プライベートでは、02年10月に、交際期間0日で森三中の大島美幸と結婚。著書に『ブスの瞳に恋してる』、『美幸』、『名刺ゲーム』など。

提供元: コンフィデンス

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