【鈴木おさむ×藤田晋 対談】勝ち負けは視聴率でも収支でも無い、配信ドラマが話題をさらう理由
制作費を潤沢に投入し意欲的な描写にも挑戦
鈴木 そもそも、スタートアップを真正面から描いたドラマがなかったんですよ。ベンチャー起業家も結局はトッピングの設定に過ぎなかったり。
藤田 世間が抱くイメージに応えた描写なんでしょうけど、やたら派手なパーティーをやっていたりとか(苦笑)。まぁ、今のテレビ視聴層をターゲットに想定すると、スタートアップを題材にしたドラマでは視聴率も見込めないんでしょうね。
鈴木 でも周りの大学生なんかを見ていても、「起業」という選択肢はもはや当たり前になってますよ。従来のテレビ局からするとミクロな層かもしれないけど、その層に強烈に刺さるドラマが作れるんじゃないかと、藤田さんの企画を聞いて思いました。
鈴木 皮肉ですよね。「食べ物を粗末にするな」というクレームが来るかもしれないから、こういう描写はテレビではできないだろうという。別にアナーキーさを狙ったわけじゃなくて、すべては物語として意味があるからこその描写だったんです。ただ、今のテレビは意味があってもいろんなところに気を使って描けず、結果リアリティが削がれてしまうことがあまりに多い気がします。
──AbemaTV側、あるいは企画した藤田さんから脚本や描写の方向性を提示したことはありましたか?
鈴木 フフフ。でも映像も映画並みに豪華ですよね。ヘリをバンバン飛ばして空撮していますし、相当お金がかかっているのがわかります。
藤田 AbemaTV第1弾オリジナルドラマ『♯声だけ天使』の総制作費が3億円だったんですが、今回は話数や尺も短くてほぼ同じ制作費ですから、1話あたりはもっとかかってます。とにかく第1弾でネットドラマの低予算なイメージを払拭できたこともあり、クリエイターや俳優も積極的に関わってくれるようになりましたね。
地上波テレビ局の制作能力は高いが、視聴率だけ見ていては衰退していく
藤田 いや、特に時間帯へのこだわりはなかったです。実際、リニアタイムよりオンデマンドのほうが視聴数は多かったですし、AbemaTV公式YouTubeでの視聴数も多くて1話は190万回再生を突破しています。
鈴木 それは民放のテレビドラマにも言えることですよね。僕がドラマ『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)の脚本を手がけた時、ネットでのバズを実験する意味もあって、キャラの濃い登場人物の「名場面集」みたいなのをテレビ朝日の公式YouTubeに出したんです。そうしたら、結果的にテレビの視聴率にも跳ね返ってきたんですよね。さすがに1話まるごとYouTubeにアップはできなかったですけど。
鈴木 テレビドラマ自体は今すごく元気で、面白い作品がいっぱい出てきているんです。それこそ1月期のドラマだったら『アンナチュラル』とか、今期のドラマだったら『おっさんずラブ』とか、みんなすごい熱狂して観ているじゃないですか。なのに、視聴率だけで評価されてしまうのは、あまりにも時代に合っていないですよ。
鈴木 どんなに頑張って良い芝居をしても正当な評価をしてもらえず、実態のないような視聴率で叩かれたりしますからね。スマホを開けば、それがネットニュースにもバンバン出て……。相当なメンタルじゃなければやっていられないですよね。いろんな意味で、視聴率とは別の新たな指標は必要だと思いますよ。
藤田 幸い『会社は学校〜』のキャストは、みんなノッてますよね。
鈴木 ネットでも評判が良いですからね。それと俳優さんって結構、友だちから「観たよ」「面白かったよ」という知らせが来るのが嬉しいらしいんですよ。本当に観た人からしか来ないですからね。『会社は学校〜』の放送後は、かなりたくさんメッセージが来ていたみたいですよ。
藤田 当初、ウィークリーのアクティブユーザーが1000万を超えたらマスメディアであると定義していましたが、現時点で600万くらいまで来ているので順調ですね。マネタイズの仕組みについてはコンテンツに制限を受けたくないので、広告に依存するつもりはありません。ただ、それ以外ならなんでも良くて、最初からほかのあらゆる事業と連動してどこかで収益をあげればいいという発想でやっています。とにかく良いコンテンツを作って、ネット上に人を集めるのがAbemaTVの役割。その先のビジネスの広げ方は、いくらでも方法があると考えています。
鈴木 ユーザーに満足してもらえる良いモノを作っていれば、企業の価値は上がる。その先にいろんなビジネスが派生できる。経営者としては当然の発想ですよね。
鈴木 僕みたいな民放テレビのイメージがある人間が「こっちでも面白いものを作ってるぞ」という空気を出すことの意味は、多少意識しましたね。ドラマ制作者の中にも、『会社は学校〜』の主人公みたいに「俺も面白いもので当てたい!」とギラギラしている人はたくさんいますから。
(『コンフィデンス』 18年6月18日号掲載)
藤田晋(ふじた すすむ)
1973年5月16日生まれ、福井出身。大学卒業後、インテリジェンス(現パーソルキャリア)での1年のサラリーマン経験を経て98年にサイバーエージェントを設立、00年に当時史上最年少の26歳で東証マザーズに上場。「21世紀を代表する会社を創る」をビジョンに掲げ、07年から「アメーバ」をはじめとするメディア事業立ち上げを統括、現在も「アメーバ総合プロデューサー」として陣頭指揮する。現在は、サイバーエージェントのほか、AWA(14年12月就任)、AbemaTV、AbemaNews(ともに15年4月就任)の代表取締役を務める。著書に『渋谷ではたらく社長の告白』、『藤田晋の仕事学』『藤田晋の成長論』など多数。
1973年5月16日生まれ、福井出身。大学卒業後、インテリジェンス(現パーソルキャリア)での1年のサラリーマン経験を経て98年にサイバーエージェントを設立、00年に当時史上最年少の26歳で東証マザーズに上場。「21世紀を代表する会社を創る」をビジョンに掲げ、07年から「アメーバ」をはじめとするメディア事業立ち上げを統括、現在も「アメーバ総合プロデューサー」として陣頭指揮する。現在は、サイバーエージェントのほか、AWA(14年12月就任)、AbemaTV、AbemaNews(ともに15年4月就任)の代表取締役を務める。著書に『渋谷ではたらく社長の告白』、『藤田晋の仕事学』『藤田晋の成長論』など多数。
鈴木おさむ(すずき おさむ)
1972年4月25日生まれ、千葉出身。高校時代に放送作家を志し、19歳で放送作家デビュー。バラエティー番組を中心に多くのヒット番組の構成を担当。映画・ドラマの脚本や舞台の作演出、小説の執筆、楽曲への歌詞提供など、さまざまなシーンで活躍している。最近では、AbemaTV開局2周年記念オリジナル連続ドラマ『会社は学校じゃねぇんだよ』の脚本をつとめたほか、初監督を努めた映画『ラブ×ドック』が5月11日に公開となった。プライベートでは、02年10月に、交際期間0日で森三中の大島美幸と結婚。著書に『ブスの瞳に恋してる』、『美幸』、『名刺ゲーム』など。
1972年4月25日生まれ、千葉出身。高校時代に放送作家を志し、19歳で放送作家デビュー。バラエティー番組を中心に多くのヒット番組の構成を担当。映画・ドラマの脚本や舞台の作演出、小説の執筆、楽曲への歌詞提供など、さまざまなシーンで活躍している。最近では、AbemaTV開局2周年記念オリジナル連続ドラマ『会社は学校じゃねぇんだよ』の脚本をつとめたほか、初監督を努めた映画『ラブ×ドック』が5月11日に公開となった。プライベートでは、02年10月に、交際期間0日で森三中の大島美幸と結婚。著書に『ブスの瞳に恋してる』、『美幸』、『名刺ゲーム』など。