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「日中映画共同製作協定」による日本映画界のメリット、中国市場進出へ広がるチャンス

 近年、映画市場は拡大の一途を辿り、いまやスクリーン数は世界一とされる中国。しかし、日本映画の中国上映は、年間の本数が制限されるなど簡単な道のりではない。そうしたなか、日中映画共同製作協定の発効により、新たな中国進出の道が開かれようとしている。

上映数制限外、分配割合など共同製作のメリット

 今年5月9日に日本と中国との間で締結された「日本国政府と中華人民共和国政府との間の映画共同製作協定(日中映画共同製作協定)」。本協定発効によって、日本映画界はどのように変わっていくのだろうか。

 スクリーンクオーター制(自国映画以外の作品の上映を制限する制度)を採用する中国。日本で歴史的な大ヒットを遂げたアニメーション映画『君の名は。』は、中国でも100億円近い興行成績を残すなど、中国国内の日本映画への関心は集まっている。しかし、それでも中国で外国映画に与えられたスクリーン数は少ない。ハリウッド大作などと枠を争う状況のなか、日中映画共同製作協定の発効は「大きな意味がある」と、海外との共同製作認定を行うユニジャパンの椎名保副理事長は語る。

「いまや中国映画市場は、アメリカをしのぐ勢いがあり、世界中から注目が集まっています。日本映画界にとってもそれは同じ。しかし、スクリーンクオーター制の壁がある。そこで本協定は非常に意義があります。なぜなら、この協定によって認定された映画は、中国では自国映画としてカウントされ、スクリーンクオーター制が適用されないんです」

 しかも中国では、外国映画と自国映画では配給サイドの分配パーセンテージも大きく異なり、共同製作によって中国映画として上映できることは、中国市場進出を目指す日本映画界にとって大きなメリットがある。

 本協定の発効は、日本映画関係者からも大きな反応があった。毎年9月、ユニジャパンでは国際共同製作についての説明会を行っているが、例年40〜50社の参加者数だったところが、今年は200社近くから問い合わせがあり、157人が参加した。

「19年度の国際共同製作認定への申請数は19本だったのですが、そのうち5本が日中合作の企画でした。18年の申請はゼロでしたし、過去5年をみても、合計で3本しかありません。それなのに19年は5本ですから、大いに反響があったと思います。説明会での各社の熱量からは、来年以降さらに日中合作への申請は増えると思われます」

中国と日本の政情不安によるリスクは変わらず内在する

 本協定の第1回目となるユニジャパンの審査は継続中であり、現時点では詳細は公表されないが、認定された場合、文化庁が11年に設立した「国際共同製作映画への支援」への補助金申請を行い、採択されれば、翌年3月までの1年間で映画製作を行うフローになる。本協定による第1作目の公開は、20年以降になる見込みだ。

 これまで日中映画共同製作協定のメリットを述べてきたが、一方で日本と中国という二国間ならではのリスクもあるという。

「仕組みとして大きなメリットがありますが、国同士の政情によるリスクはあります。過去にも尖閣諸島問題が浮上した時期がありましたが、そういった場合、本協定があっても製作や上映に影響がおよぶことはありえます」

 本協定により、両国の優遇を受けられることで製作自体はスムーズに進行するはずだが、政府が映画製作および公開を保証するということではない。そこには、映画に限らずだが、中国という国とのビジネスにおけるリスクは変わらず残ることになる。それでも椎名氏は、日本映画界にとってのチャンスが広がったという。

「現在、中国市場において、日本映画の評価は非常に高くなっています。それに伴い、日本映画界もここ1〜2年、かなり中国市場を意識した動きが見られます。そうしたなか本協定が結ばれたことで、ハリウッドや韓国は先行していますが、中国市場の流れに日本もやっとたどり着いた感があります」

 第1回で動き出した企画は5本だが、この先こうした試みがより大きく広がっていくためにも、そこからのヒットが待たれるところだ。
「たとえば『万引き家族』はカンヌでパルムドールを受賞したことで、日本の興行はもちろん、海外にも売ることができた。やはり映画祭というのは大きいんです。そこに出品するためにも合作は大きなアドバンテージがあります。映画祭開催国が製作や配給に関わっていると、上映される可能性も高くなります。そこで評価を得て、興行的にも大ヒットすれば、さらに合作映画製作への気運は高まっていくと思います」
(文/磯部正和)

提供元: コンフィデンス

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