【新年特集 BORDERLESS ASIA】中国ビジネス、売上規模拡大のカギは「非純血主義化」
中国マーケットでのビジネスチャンスが拡大
さらに2018年には、長く課題とされてきた中国においても、ビジネスチャンスが見えてきた。果敢に中国展開を行ってきた大手企業の関係者は、「2015年から、中国政府は音楽著作権保護法の頒布と楽曲版権市場の保護の標準化を推し進めており、本年も周近平総書記が“知的財産権の違法行為に対し、処罰を増大化し、権利侵害者には重い代償を科す”とも発言している」と説明する。
このように中国において、知財保護に向けた法整備および管理プラットフォームの構築が進んだことで、これまでライブ興行ばかりが目立っていた音楽ビジネスにおいても、新たな可能性が広がっている。実際に、中国の楽曲版権管理およびイベント制作を行うHi Fiveでは、楽曲版権の管理ツールを開発し、2017年から音楽配信プラットフォームなどでの楽曲使用の管理をスタート。音楽配信やイベント制作のほか、携わったイベントのライブストリーミング配信など、多方面から音楽IPの流通を促進させている。
Zeppがアジア展開を本格化、アジア全体が地続きに
例えば、Zeppライブホールネットワークはライブホール・Zeppのアジア進出を本格化。2017年6月にシンガポールに「Zepp@BIGBOX Singapore」をオープンし、さらに、2020年にはマレーシアと台湾にホールを開設する計画が正式に発表された。Zepp は現在、国内4都市6ヶ所(札幌、東京2ヶ所、名古屋、大阪2ヶ所)で展開しており、2018年には福岡、2020年には横浜(コーエーテクモゲームスより運営受託)にも開設予定。
また、2017年に発表された上記3ヶ所のほかにも、アジア数ヶ国・地域での開設も検討していることが明かされており、今後、アジア各都市へと仕様を統一したZeppが展開されれば、これまで国内で行われていた“Zeppツアー”は、機材や演出もほぼそのままにアジアへと広げることが可能になる。
サブスクリプションサービスがマーケットを世界へ広げる
同誌インタビュー(17年8月28日号)で彼らは「Spotifyの国別バイラルチャートから、その国で人気があるジャンルやスタイルを分析し、今後の音楽トレンドなどを予測します」とコメント。さらに「Spotifyが提供するデータを分析することで、自分たちの楽曲がよく聴かれている国や都市を把握できるので、ターゲティング広告やSNS広告の配信先を絞るなど、プロモーションの費用対効果の最大化も狙える」と語っている。アーティスト自身が戦略的にマーケティングし、世界へと展開していく事例はかなり稀ではあるが、彼らの登場は、サブスクリプションサービスによって、メジャー、インディーズを問わず、マーケットが世界へと広がったことを示した。
始めから“海外向け”を視野に、コンテンツ制作していくことも必要
ただし、2017年12月に実施された「知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会 コンテンツ分野会合(第2回)」に提出された、内閣府知的財産戦略推進事務局の資料によると、2015年のコンテンツの世界市場規模が5550億ドルだったのに対し、日本由来コンテンツの売上は約141億ドルで、世界市場規模全体でのシェアはわずかに2.5%。内訳では、放送が0.4%、音楽に至っては0.2%に留まっている(出典:経済産業省「コンテンツ産業政策について」(2017年))。
同会合では、2018年以降の海外展開の推進に向けて、「クールジャパンという名称自体やコンセプトの見直し」や「省庁横割りのプロジェクト編成の必要性」などが新たな議論として加わっているが、なかでも編集部が注目しているのが、「非純血主義化」という指摘である。
日本コンテンツの海外輸出だからといって、なにもすべてが“日本由来”であり、“100%日本製”である必要はない。ところが、音楽であれば、日本独自の文化であるアニソンが、日本語の歌詞のまま受け入れられていることを成功事例とするあまり、アプローチがやや単色化しているきらいもある。
先に挙げたAmPmのように海外のニーズを取り込み、必要とあれば、海外のクリエイターとも組みながら、最初から“海外向け”を視野にコンテンツを制作していくことも必要だろう。以前、アメリカのアニメ配信プラットフォームの関係者が日本のコンテンツホルダーについて「1人でやろうとする」「ゼロからやろうとする」「すべてやろうとする」と指摘していたが、海外展開においては、海外の技術・ニーズ・エッセンス・人材を柔軟に取り入れ、日本独自のアレンジを加えていくことも求められるだろう。
(『コンフィデンス』 18年1月1日号掲載)