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曲名のような長いバンド名 なぜ増加?

  • セカオワの愛称で親しまれる“SEKAI NO OWARI” (C)oricon ME inc.

    セカオワの愛称で親しまれる“SEKAI NO OWARI” (C)oricon ME inc.

 「水中、それは苦しい」「死んだ僕の彼女」「それでも世界が続くなら」「忘れらんねえよ」…まるで歌のフレーズのような、ポエムのような、長いバンド名を付けるバンドが年々増えてきている。ファンたちの間では、そういった長い名前を「SEKAI NO OWARI」=“セカオワ”、「ゲスの極み乙女。」=“ゲス乙女”などと略称で呼ぶこともすっかり定着し、流行に疎い中高年には、いささか理解しづらい現状になってきているようだ。ポエム調&略前提の長い珍名バンドはなぜ増加しているのだろうか?

“曲名のようなバンド”の先がけはスピッツ!?

 “珍名”のバンドということだけであれば、過去にも多くあった。『三宅裕司のいかすバンド天国』(TBS系)に代表される1980年代後半〜90年代前半のバンドブーム時には、差別化のためか「カブキロックス」「人間椅子」「宮尾すすむと日本の社長」「たま」などといった変わった名のバンドが競い合った。これらの珍名バンドは実力派も多かったが、インパクト狙いのコミックバンド扱いにもされ、実際そういうバンドも多かったのである。

 また、今回の“曲名のようなバンド名”ブームの流れは、1995年に大ヒットしたスピッツの「ロビンソン」が、当時“どっちがバンド名かわからない”と物議を醸したことに端を発していると言えるかもしれない。実際、スピッツのシングルタイトルは「君が思い出になる前に」や「空も飛べるはず」などといった、どことなく現代のバンド名にも通じるような、名詞や体言止めではない“センテンス”重視の世界観を打ち出している感がある。

一速の“ラノベブーム”からの影響も

 長文かつ詩的となれば、2000年代の『涼宮ハルヒの憂鬱』『とある魔術の禁書目録』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などに代表される、ラノベ(ライトノベル)ブームによる“作品タイトルの長文化・状況説明化”の影響もあるかもしれない。その影響はテレビドラマのタイトルなどにも広がり、同時にそれを略することも当たり前となった。『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)=“いつ恋”、『ダメな私に恋してください』(TBS系)=“ダメ恋”、そして昨年の大ヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(同)=“逃げ恥”もそうである。こうした略名を前提に長いタイトルをつけることが、今はエンタメ界全体に拡がっているトレンドなのであろう。

 こうしたバンド名はインパクト重視であろうが、自分たちの好みやノリであろうが、何となくそのバンドの世界観を表わしていたり、あるいはまったく音楽性が逆だったりもして、面白いと言えば面白い。

 実際、「このバンド名には僕の高校時代の恋愛が関係してるんです。当時、僕には10回くらい告白するぐらい好きだった女の子がいたんですけど、そのころの『なんで俺のことをわかってくれねーんだよ!』っていう感情が、ずっと残ってて忘れられないんですよ。そういう誰もが経験したことがある“中2病”的な感情を音楽にも込めたいと思った時に頭に浮かんだのが『忘れらんねえよ』というバンド名だったのです」(忘れらんねえよのギター&ボーカル・柴田隆浩)、「僕はバンド名を考える時に『〜〜ズ』とか『〜〜バンド』とかのバンド名っぽい名前を付けるのがカッコ悪いと思ってたんです。だから、何か意味ありげで、聞いた人が思わずツッコミたくなるような名前にしたいと思って、『鉄分たっぷり教室』『全裸ドライブ』など300個以上のツッコミたくなる候補を出しました。その中でメンバーが一番大爆笑してくれたのが、『水中、それは苦しい』だったんです」(水中、それは苦しいのギター&ボーカル・ジョニー大蔵大臣/以上、『R25』2012年10月10日インタビューより)などの発言を見てもわかるように、実に自由気ままなノリで命名しているのがわかる。

略名増加が影響? バンド名は“最重要課題”から“自由気ままな命名に”

 「カラスは真っ白」「コンテンポラリーな生活」「ヤバイTシャツ屋さん」「0.8秒と衝撃。」「テスラは泣かない。」「溺れたえびの検死報告書」等々…こうした珍名バンドは、羅列しただけでも相当なインパクトがあることは確かだが、先の「水中、それは苦しい」にしても一見、“青春期の葛藤にもがき苦しむ若手パンクバンド”といったイメージがあるが、実は1992年に名づけられたベテラン脱力系バンドだ。最近話題の「水曜日のカンパネラ」も、“オシャレなカフェでかかりそうなピチカート・ファイヴ系の音楽か?”と思ってしまうが、ラップを駆使したヒップホップというかパンクというか、とにかく前衛的なバンドである。デビュー当初は「コレがバンド名なの?」と言われていたものが、大人気バンドとなった今では、どことなく“名は体を表わす”になっているのだ。

 「SEKAI NO OWARI」や「ゲスの極み乙女。」にしても(さまざまな要因があるにせよ)、今ではバンド名もしっかりと定着し、一般層にも浸透した。以前であれば、バンド名はそのバンドにとっての“最重要課題”であって、レコード会社や所属事務所が相当に吟味する案件であり、おそらくこういったバンド名は許されなかっただろう。時代は変わったということだろうが、略名で呼ばれることのほうが多くなった今、意味を持ったバンド名を付ける、と言うよりはバンド名に意味を持たせると表現した方が良いのかもしれない。
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