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個性派バンド目立つ中で愚直な“王道路線”のback number ポスト・ミスチルとしての存在感

 back numberの5thアルバム『シャンデリア』が自己最高の初動売上17.3万枚を記録し、初の首位を獲得した。これは2014年3月にリリースされた前作アルバム『ラブストーリー』(2位/累積売上9.6万枚)の初動3.9万枚の4倍以上という記録で、この1年半で大幅に数字を伸ばしたことになる。SEKAI NO OWARI、ゲスの極み乙女。などの個性的なバンドの活躍が目立つ中で、王道の“歌モノ”ロックバンドとしては異例のヒットでもあり、若手バンドの中ではむしろ異色な立ち位置を獲得したと言ってもいいだろう。ここにきて大きく飛躍した理由はどこにあるのだろうか?

地道な口コミ&大型タイアップで押し上げたバンドのポピュラリティ

 2011年4月にシングル「はなびら」でデビューしたback numberは、清水依与吏(Vo&Gt)、小島和也(Ba)、栗原寿(Dr)の3人組。ドラマティックなメロディと切ない歌詞を軸にした“ちょっと情けない男子の失恋ソング”によって、バンドのイメージを固めてきた。特に初期の頃はビジュアル面での統一性をもたせることでイメージ付けを図っており、CDのジャケットには必ず女性が登場し、同じバンドロゴを使用。また、MVはフィルムの質感にこだわり、わざと画質を荒くして“彼氏目線”で撮影する、といったことを継続して行っていた。

 ソングライターの清水依与吏がMr.Children、槇原敬之、コブクロなどをフェイバリットに挙げていることからもわかるように、back numberはフェスやライブハウスシーンで支持を得るよりも、一般的なJ-POPユーザーに広く受け入れられる素養を当初から持っていたのだと思う。そのスタンスをさらに徹底させたのが、2015年のシングルにおけるタイアップ路線。雪の情景をバックにした切ないラブソング「ヒロイン」(1月発売)は『JR SKISKI』のCMソング、夏の甘酸っぱい恋愛をテーマにした「SISTER」(5月発売)は『大塚製薬ポカリスエット イオンウォーター』CMソング、両親への感謝を綴った「手紙」(8月発売)は『NTT ドコモCMソング』、そして、彼らが得意とする“男目線の片想いソング”を改めて提示した「クリスマスソング」(11月発売)はフジテレビ系月曜9時ドラマ『5→9〜私に恋したお坊さん〜』主題歌に起用され、バンドの知名度をさらに上げることに成功した。

 こうしたタイアップ路線の前哨戦としてあったのが、“口コミ”での地道なプロモーションだ。デビュー初期の頃には「すべては口コミから始まった」というキャッチコピーがつけられていたが、以前、所属レーベルの担当者に話を聞いた時、「今の一番の媒体は口コミ」と話しており、back numberにおいてもラジオやライブなどで堅実に活動を重ねていくことで若者を中心にバズを起こしていった。そうした下地があった上でのテレビメディアでの展開は、最大限に効果を発揮する。清水はこれらの大型タイアップに関して、たびたび「期待に応えられるのか、かなりプレッシャーを感じていた」という趣旨のコメントをしているが、CM、ドラマのイメージを汲み取りながら楽曲を制作することで、バンドのポピュラリティをしっかりと押し上げたと言っていい。特に中高生に対するタイアップの訴求力は抜群で、Twitterなどを通して大きな話題となった。

バンドの“ポップス”の要素を引き出した音楽プロデューサー・小林武史の存在

 また、「ヒロイン」「手紙」「クリスマスソング」のサウンドプロデュースを担当した小林武史との出会いもメンバーにとっては大きな転機となったはず。「手紙」のリリース時のインタビューで清水は「少しスパイスを加えて欲しいと思って小林さんにお願いしたら、しっかり“ダシ”から取ってくれた」と話していたが、小林の緻密なアレンジメントはback numberのなかにあるポップスの要素をさらに際立たせることにつながった。Mr.Childrenがセルフプロデュースに移行した現在、back numberはロックバンドによる王道のJ-POPをもっとも分かりやすく体現している存在になったと言えるだろう。

 小林、蔦谷好位置といった日本を代表するヒットメイカーと仕事を重ねていく一方で、決してオーバープロデュース(≒“売れ線”に行き過ぎているイメージ)にならず、骨太なロックバンドとしての存在感をキープできているところもback numberの強みだ。実際、アルバム『シャンデリア』の収録曲は12曲中7曲がセルフプロデュース。生々しいバンド感が伝わるロックチューン「サイレン」、ディスコミュージックのテイストを取り入れたダンスナンバー「ミラーボールとシンデレラ」、フォークソングの手法を取り入れたノスタルジックなナンバー「東京の夕焼け」などの多彩な楽曲が収録されていて、メンバー自身の幅広い音楽性が存分に発揮されている。大型タイアップを軸にした派手な展開とロックバンドとしての魅力がバランスよく共存していることが、いまのback numberの幅広い人気につながっているのだ。

 個性的なバンドが目立つ今のシーンにおいて、ブレのない戦略を貫いてきたback number。彼らの本格的なブレイクは、地道なプロモーションとイメージ戦略の大切さ、大型タイアップの有効性を示したという意味も大きな意味を持っている。『シャンデリア』のヒットによりback numberは王道の“歌モノ”バンドとしてさらに幅広い世代に受け入られることになるはず。それがバンドシーンの潮流を変えることになるのか、今後も注視していきたいと思う。

(文/森朋之)

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