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元宝塚花組トップスター・蘭寿とむ、“男役”から一人の女性へ 表現者としての進化

 元宝塚の花組トップスターとして、芸能界にも多くのファンを持つ蘭寿とむが、アルバム『L’Ange』でソロ歌手デビューを果たした。宝塚音楽学校時代から首席をキープし、トップをひた走ってきた彼女が惜しまれながらの退団から1年半。今語る、宝塚時代、恋愛観、自然体の自分、そしてこれから羽ばたく新しい世界への期待とは?

生け花や紅茶が好き 日常の中で心を動かすことの大切さ

──宝塚を退団して1年半、舞台などで女優として活躍されてきた中でのソロ歌手デビューとなりました。今回のアルバム『L’Ange』はセルフプロデュースということで、もともと歌手志向はあったんですか?
蘭寿とむ もちろん歌は大好きですから、これからも機会があればと思っていましたが、まさかアルバムのお話をいただくとは思ってなかったので、最初は驚きましたね。それと同時にとても光栄なことだと思いましたし、オリジナル曲がいくつか上がってくる中で、これはぜひ自分で歌詞を書いてみたいというものもあり、挑戦させていただきました。

──自作詞のオリジナル曲は、ピアノバラード曲の「会えない時間」と、ポップス曲の「Blooming」の2曲。それぞれどんな思いを込めたのか教えてください。
蘭寿 「会えない時間」のほうは、ただ切なさよりも前向きなストーリーに落とし込みたかったので、“会えない時間こそ言葉というものが輝く”ということを軸に書いていきました。

──そのストーリーは自身のご経験から?
蘭寿 いえ、完全に創作です(笑)。どちらの歌詞も海辺で書いたんですけど、昔から自然の中にいるとイマジネーションが湧くという自分の中でのジンクスがありまして、今回も故郷の海で風に吹かれていたら、すんなりと言葉やストーリーが浮かんできたんです。「Blooming」のほうは弾む曲調に合わせて応援ソングになりました。キラキラと光る海を見ていたら、<あの光の彼方まで>という言葉が浮かんできたので、そこから歌詞が広がっていきましたね。

──海辺で歌詞を書いている蘭寿さん、想像するだけで絵になります! そのほかにも創作や表現の糧になったものはありますか?
蘭寿 もともとお花を生けたり紅茶を入れたりするのが好きなんですが、そういった日常の中でも心を動かすことの大切さを改めて感じています。慌ただしくしてるとどうしても見逃してしまいがちなことの中にも感動はあるし、そういう時間こそが心を豊かにしてくれている気がしますね。

もしかしたら自分自身の理想を演じてきたのかもしれない

──お花や紅茶など、元宝塚の男役トップスターというご経歴からは意外なほどフェミニンな趣味をお持ちなんだなと思いました。
蘭寿 男役というのはあくまで作り込んできたものですから、それはもう素顔とは当然別物ですよ(笑)。

──しかし宝塚音楽学校時代から退団するまで約20年培ってきたものから切り替えるのはなかなか大変だったのではないですか?
蘭寿 いろんなタイプの方がいらっしゃると思うんですが、私自身はより自然体になれましたね。退団して最初の作品もストンと役に入れた感覚があって、男役というフィルターを通さずに表現するってこんなにも開放感があるんだと思ったんです。今回のアルバムでも声を低く作り込むのではなく、自分自身の発声でいこうと。それは新しい挑戦ではあったし、改めてボイストレーニングもしていますが、よりシンプルな気持ちになれたというのが正直なところです。

──やはり男役トップスターを張るというのは、背負うものも大きかったのでしょうか。
蘭寿 大変なのは当たり前で、だからこそ何倍もの最高の思いもさせていただけるんだと思います。みなさんの愛をいただけるのもそうですし、何よりも男役トップというのは私にとっての大きな夢でしたから、辛いから辞めたいと思ったことは一度もなかったですね。

──ちなみに宝塚時代のクセみたいなものは残ってないですか?
蘭寿 歩き方は意識して気をつけてますね。やはり徹底して習得してしまったものなので、何も考えずにいると男っぽい歩き方になってしまうんですよ。

──そんな佇まいも含めて多くの女性を虜にしてきた蘭寿さんですが、演じてきた男役はご自身の好みも反映されていたんですか?
蘭寿 どうなんでしょうね(笑)。私は自分自身の特徴を活かしながら、その役に合わせて演じてきました。まあ、そうですねえ。包容力のある男性というのはひとつ目指してきたイメージですけど、もしかしたら自分自身の理想だったのかもしれないです。器の大きい男、というんでしょうか。

新しい蘭寿とむを楽しんでいただけたら嬉しいです

──ところで宝塚では最新のコンテンツを題材にした公演も目立っていますが、蘭寿さんは『戦国BASARA』や『逆転裁判』といった最近のゲーム原作のものも演じてこられましたよね。演じる側としてはどのような違いがありますか?
蘭寿 そうですね。実は『戦国BASARA』や『逆転裁判』で初めて経験したことがありまして、幕が上がった瞬間、キャストが扮装して並んで立っているだけで大歓声があがったんですよ。いつもの宝塚ファンの反応とは違っていたので、原作ファンの方がいらっしゃってるんだなとわかりました。

──ではコミックやゲームのキャラクターを演じる上で大切にしていたことはありますか?
蘭寿 もちろん原作と宝塚の魅力を盛り込んだ演出がされているので、基本的にはそこに沿いつつなんですが、演じる側として一番大切なのは原作を好きになることだと思って、それこそゲームはクリアするまでやり込みましたね。その上でこの作品のどこが心をつかんでいるのか、いわば作品やキャラクターのツボどころですよね。そこを捉える客観的な視点の両方を持つことが大切だと思っていました。

──今後は女優として、そういった作品と出合う機会もあるかもしれないですね。様々な分野での活躍に期待したいところです。
蘭寿 そうですね。本当に今は自分に制限を設けないでいきたいと思っているので、ご縁があったらぜひ挑戦させていただきたいです。宝塚時代から応援してくださってる方にも新しい蘭寿とむを楽しんでいただきたいですし、今回のアルバムもカバー曲がたくさん入っているので、お好きな楽曲を通して私を知っていただく方がいたら本当にうれしいですね。

(文/児玉澄子 写真/鈴木かずなり)

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