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八代亜紀、若い才能が集結したブルースアルバム「今は哀しみを知らない人が多い」

助け合いがなくなると日本はダメになっちゃう

――たしかに中村 中さんが書かれた「命のブルース」のような出来事は、今の時代では壮絶すぎる内容で。
八代 中さんには「うんと苦しい曲を作ってね」とお願いしてしまったから、制作にはずいぶん苦労をかけてしまいました。実はこの曲が、できるまでにいちばん時間がかかったんです。正直に申し上げますとね、「もう間に合わないかも」と思うくらいだったの。でも「山に籠もって一生懸命作ってる」と伝え聞いて待ちました。そうしたらメンフィスから帰国するときの空港で、ディレクターのスマホに曲が届いたんですよ。私もすぐにその場で聴いて、「うん、いいね」ってお返事しました。

――歌の内容が内容だけに、産みの苦しみがあったと聞くと余計にグッときてしまいすね。
八代 昔はこういう親も結構いましたよ。親たちに見捨てられてひとり残されてしまった子どもは私の家の近所にもいました。でもね、私たちはそれを笑わない。笑わないの。みんなで助けてあげたの。家を建ててあげて、見合いさせて、結婚させて。そして子どもも生まれたんです。昔の日本には助け合う心があった。けど今だとこういう境遇の子は死んでしまう。隣近所や学校の子供たちのことを、周りの大人たちはもっと見てほしい。助け合うってことがなくなると、日本はダメになっちゃうと思う。いまは他人の不幸を見ない時代なの。だから私はそれを歌にして、みんなに聴いてもらいたいんです。

――横山 剣さんとの制作はいかがでしたか?
八代 あの方は世代的にも昭和も知ってらっしゃる方なので、やっぱり「ネオンテトラ」にもどこか昭和の匂いがするんですね。でも歌詞をよく読んでみると、現在の女性の歌なんです。彼が死んでしまって、夜の仕事をしなくちゃいけないとある女性。今のわたしキラキラして綺麗なのよ。もうアンタはいないね。見られなくて残念だね。っていう情景がすごく伝わってくるの。どうして死んだの? と、めそめそしてないところが切なくていいのよね。

――そしてTHE BAWDIESの参加には驚きました。
八代 スタジオで一緒になったときに、彼らが私に「今回はありがとうございます!」と挨拶してくれたの。私からも「こちらこそ」と改めてお礼を言ったら、「やべぇ」とか言ってね。可愛かったですよ、あの子たち。

音楽はもともと自由なもの

――八代さんは最近、学園祭や音楽フェスへの出演も積極的ですが、こうした若い世代との交流はいかがですか?
八代 音楽フェスに出演すると若者が何万人もいて、「亜紀ちゃんかわいいー」「生八代だ」「八代亜紀かっけぇ」とか言ってくれるんですよ。やっぱりこんなふうに扱ってもらえるとうれしいですよね。私のステージに帰ったらファンのみなさんに報告するんです。私のファンは40〜70代が大半ですから、「かっけぇ」って「カッコいい」って意味なんだよと若者語を教えてあげるとすごく盛り上がるのね(笑)。

――歌謡やポップスなどの音楽ジャンルを飛び越えて、純粋に音楽を聴く若者が増えてきたのでしょうか?
八代 音楽はもともと自由ですからね。ついさっきまで「イエーイ」と言っていた何万人の若者たちが、「舟唄」が始まったとたんにシーンとひと言も口をきかなくなるのは、すごく素敵なことだと思いますね。私の場合って、なぜ昭和歌謡が涙出るかっていうと、父なんですよ。親がギター弾いて歌ってくれたりしたものが、よみがえってくるわけですよ。懐かしさと、愛しさと、愛が。そういうものが今あるかなって。それがないと、不幸かなっていう気がするんです。私が音楽について懸念しているところはそこなの。親から受け継いで、自分が年をとったときによみがえる――それが薄れてきていて心配しちゃう。ジャンルわけしすぎちゃってるからね。でもそれは時代だから。

――11月17日には、ブルーノート東京でのセッションがありますね。
八代 ライブは一発勝負ですからね。超カッコいい姿をお見せしたいと思います。バードランドではニューヨーカーが泣き、メンフィスでもB.B.キングを超満員にしてきた八代ですから、期待していてください。

――歌手生活45年。こうして目を輝かせて新しいことに挑戦されている八代さんに、失礼ながら感動させていただいています。
八代 やっぱり歌が好き。みんなに喜んでもらって、そのテンションの上がった顔を見るのが好きなんですよ。いつまでも元気を出させてあげようっていう立場の側にいたいのね(笑)。そういう明るいリアクションを見ると、生きてる実感がするし、ああ、私はシンガーなんだなって感じます。

(文/西原史顕 写真/草刈雅之)

八代亜紀 動画インタビュー

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