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サザンオールスターズ、10年ぶりのオリジナルアルバムが初登場1位! “葡萄”の房のようにたわわに実った新作を徹底解剖

 2013年6月25日に活動再開を発表してから約1年9ヶ月、待ちに待ったサザンオールスターズのニューアルバム『葡萄』がついに発売された。前作『キラーストリート』から、実に10年ぶりとなるオリジナル・アルバムで、ここ約2年の精力的な活動も手伝って、まさに全国民待望の作品だ。4/13付のアルバムランキングでは、初動売上30.0万枚という圧倒的な強さで1位に初登場。収録曲から、その根強い人気について探っていきたいと思う。

これぞサザン! バラエティに富んだ収録曲

  • サザンオールスターズ『葡萄』(通常盤)ジャケット写真

    サザンオールスターズ『葡萄』(通常盤)ジャケット写真

 この『葡萄』には、2013年8月に発売されたシングル「ピースとハイライト」から、タイトル曲の「ピースとハイライト」、「蛍」、「栄光の男」の3曲、昨年9月発売のシングル「東京VICTORY」から、タイトル曲の「東京VICTORY」と「天国オン・ザ・ビーチ」を収録。さらに、テレビCM曲としてお馴染みの「アロエ」や「はっぴいえんど」、TBS系日曜劇場『流星ワゴン』主題歌「イヤな事だらけの世の中で」など、耳馴染みのある楽曲がずらりと並ぶ。

 そこで、新曲を中心に、収録曲をひも解いていきたいと思う。まずはサザンの持ち味のひとつである、酒と女を題材にした曲や、夏の海と恋をかけた楽曲。例えば「青春番外地」は、ブルージーでホーンも入ったナンバー。酔いどれ感と哀愁がたっぷりだ。「天井棧敷の怪人」は、ムーディーなキューバン・ラテン調。どこか『ステレオ太陽族』とか『NUDE MAN』のころのサザンをほうふつとさせる。これは、往年のファンならば、これぞサザンだ! と口をそろえるだろう。

 美しいハモを聴かせるミディアムバラードの「彼氏になりたくて」などは、まるで静かな浜辺で聴いているような雰囲気だ。武井咲が出演したテレビCM曲「はっぴいえんど」もまた、心地よい海風を感じさせてくれるナンバー。そして原由子のメイン・ボーカル曲「ワイングラスに消えた恋」は、昭和歌謡のムードたっぷり。まさしく原坊節といった感じで、聴くものを思わずホロリとさせる。

感情が高ぶるロックナンバーも多数収録

  • 『葡萄』(完全生産限定盤A)

    『葡萄』(完全生産限定盤A)

 また、これぞサザン!といえば、激しいロックサウンドに乗せた感情が高ぶるナンバーだろう。たとえば「ピースとハイライト」は、平和への願いが込められた楽曲として2013年に発表されるや否や、ミュージックビデオも話題を集めた。新曲の「Missing Persons」のオルガンの音色から始まる70年代ハードロック調のバンドサウンドからは、いつになく激しい怒りの感情も感じる。さらに、ストレートに「平和の鐘が鳴る」と題し、ジョン・レノンの「マザー」や「イマジン」をほうふつとさせるピアノとストリングスをメインにしたサウンドのバラードナンバーも収録。また、「バラ色の人生」では、<架空の広場」という歌詞に「SNS」とルビが振られており、軽快なサウンドに乗せて現代のネット社会に一言もの申している。

 しかし、どの曲もあくまでもエンタテインメントの一貫としての表現に徹しているところはさすが。例えば「道」という曲では、自分自身のことを卑下しながら、<これが僕のやり方だ>と歌う。「道」はジャカジャカとかき鳴らされるアコギと、浮遊感あふれるシンセが絶妙に絡み合うナンバーで、しっとりとしながら実に熱い歌声を聴かせている。実はこの前には「天国オン・ザ・ビーチ」が収録されており、「天国〜」からの流れで「道」を聴くと、2010年に桑田が食道がんで手術を受けたときに桑田が感じたであろう、死生観のようなものが伝わってくる気がする。<人生なんて〜儚い物語>という歌詞もあり、改めて聴くと乾いたサウンドと相まって、非常に刹那的なものを感じた。

読めば読むほど深みにハマる“物語”

  • 完全生産限定盤Aは、CDとオフィシャルブック『葡萄白書』、Tシャツ、ボーナスDVDがセットとなった特製BOX入り

    完全生産限定盤Aは、CDとオフィシャルブック『葡萄白書』、Tシャツ、ボーナスDVDがセットとなった特製BOX入り

 今作について、アルバム先行試聴会にビデオでコメントを寄せた桑田は、「どこかで読み物のように楽しめる作品だと話したことがあるが、それは聴いたみなさんの耳で確かめてほしい」とコメントした。実際、16曲の歌詞からは様々な意味や想いが感じられ、読めば読むほど深みにハマり、言葉の裏の裏の裏側まで知りたくなる物語のようだ。

 この10年という年月の間には、日本にとって実に様々なことが起きた。それは、サザンにとっても他人事ではなく、その都度、様々な行動を起こしてきた。たとえば震災もそのひとつ。一昨年、約8年ぶりに開催されたサザンのスタジアムツアー『灼熱のマンピー!! G★スポット解禁!!』では、2011年の桑田のソロツアーで使われた、宮城復興の願いを込めた提灯にふたたび火を灯し、最終日の宮城まで各地で灯された。『葡萄』からは桑田やサザンはもちろん、この10年間に起こったさまざまな出来事への想いが感じられる。

 また、桑田は「葡萄の花言葉に『陶酔』という意味がある」ともコメントしていたが、アルバムは最新でありながら、様々な時期のサザンをほうふつとさせるサウンドやメロディーが絶妙に忍ばせられており、リスナーとしてサザンとともに歩んできた37年の月日が、まるで走馬燈のように頭の中を駆け巡る感覚もあった。その瞬間の心地よさは、まさしく「陶酔」と言っていいだろう。10年ぶりのアルバムではあるが、10年と言わず37年分の、サザンと聴き手が共有してきた経験と想いが、葡萄の房のようにたわわに実った16曲だ。

(文/榑林史章)

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