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くるり『新生くるりが“放電”した瞬間――熱を帯びた圧巻パフォーマンスをレポート』

 くるりの『くるりワンマンライブツアー2012〜国民の性欲が第一〜』が、11月29日の渋谷公会堂でファイナルを迎えた。ベテランの貫禄。新メンバーがもたらすフレッシュネス。両方が混在した圧巻のライブをレポートする。

ベテランの腕と新鮮さが混在する魅惑のステージ

 New Orderの「Bizarre Love Triangle」とか。Sloanの「Everything You’ve Done Wrong」とか。開演前の場内に流れる、そんな80年代から90年代にかけての懐かしいナンバー(実は、この選曲はボーカル&ギターの岸田繁自身が手掛けていて、そこには深い想いが込められている。オフィシャルサイトの“岸田日記”に記されているので、ぜひチェックして下さい)に耳を傾けていると、ゆっくり客電が落ち、そして舞台にメンバーが現れる。拍手。歓声。次の瞬間、いきなり電源がオンになるような感じでガツンと演奏が始まる。

 オープニングを飾ったのは「white out(heavy metal)」だ。岸田とベースの佐藤征史、そして2011年に加入したギター&チェロの吉田省念とトランペット&キーボードのファンファン。横一列に4人が並ぶ。それをサポートのドラマー、あらきゆうこが背後から支える。心地よい緊張感を漂わせながら、どんどん開放的になっていく演奏。その音に触発されて自分のココロとカラダが熱を帯びていくのがわかる。そして、けたたましいトランペットに導かれ、くるり史上最もテンポが速い「chili pepper japones」へ。ハンドマイクでステージを駆けまわる岸田。観客席は一気に沸点を突破する。

 「ええ感じ?ええ感じですか?ええ感じやな?やるよ。やってええか?」という岸田の問い掛けに大歓声で答えるオーディエンス。それを「everybody feels the same」のイントロの鋭利なギターが切り裂く。躍動感に満ちたサウンドが炸裂。ステップを踏むファンファンのキュートな姿が印象的だ。曲の後半、世界中の都市名を連呼する部分と、そのあとにくる<背中に虹を感じて 進め 走れ 泳げ もがけ 進め 進め>という一節が感動的に響く。

 そんなふうに最新アルバム『坩堝の電圧』の冒頭とまったく同じ3曲によって幕を開けた、この夜のステージ。以降も前半は最新作からのナンバーが立て続けに繰り出された。その中でも特に圧倒的だったのが、シリアスかつシニカルなメッセージを内包した「crab,reactor,future」。デビュー14年を突破したベテラン・バンドならではの貫禄。新メンバーが加わったことによるフレッシュネス。両方が交錯する、どっしりしていながらも瑞々しい演奏を聴かせてくれた。

 中盤以降は、くるりの歴史を彩ってきた数々の名曲を惜しみなく披露。途中、岸田がMCで「渋谷公会堂でのワンマンは、2000年に『図鑑』というアルバムを出したあとのツアーぶり」という話をしたのだが、その『図鑑』に収められているインスト・ナンバー「惑星づくり」ではステージ奥にミラーボールが出現した。美しい光。現在の編成でアップ・デートしたかのような、さらにスケール感を増したアレンジ。会場全体が幻想的なムードに包み込まれた。

 柔らかなメロディーで聴き手の郷愁感をくすぐった「春風」。完璧なアンサンブルを見せつけた「ブレーメン」。「じゃあ爽やかな汗をかきましょう」と言って歌われた「ワンダーフォーゲル」では客席が大きく揺れた。そして本編ラストは、やはり最新アルバム『坩堝の電圧』の締めくくりでもある「glory days」だ。力強い演奏。凛とした歌声。希望に満ちたメッセージが会場の隅々まで届けられた。

 アンコールは5曲。美しくて切なくて温かい「soma」。一転して壮絶な「すけべな女の子」。佐藤がボーカルを務めるダンサブルなアップ・チューン「jumbo」。長く熱いエンディングが印象的だった「ロックンロール」。最後は「ありがとう。武道館で来年やるんで、よかったら遊びに来て下さい。また元気でお会いしましょう。ごきげんよう」という岸田の言葉に続いて「東京」。分厚くて太くて重い。そんな鉄壁のグルーブが、くるりというバンドの現在の充実っぷりを象徴しているように感じられた。

 約2時間15分。全22曲。毎日の生活の中で心の底から湧き上がってくる喜び、悲しみ、怒り、そして、その先にある希望。それらをロックという形態で見事に表現しきったステージだった。
(文:大野貴史)

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