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サカナクション『バンドの未来を切り拓く最新「SAKANATRIBE」ツアーレポート』

2014年1月〜3月にかけて行われたサカナクションの全国ツアー『SAKANAQUARIUM 2014“SAKANATRIBE”』は“新作アルバムを携えて”という形態ではなく、原点を確認しつつバンドの新境地を切り拓くステージとなった。その最終公演(この時点で延期となった仙台公演2本を残していたのだが)となる3月16日、TOKYO DOME CITY HALLの模様をレポート。

“0から100”をテーマに、音の奥深さを体感させるステージ

 静かな静かな始まり方だった。山口一郎(V&G)がステージ後方の江島啓一(Dr)の方を向き、ギターのアルペジオを弾き始めたのだが、なんとPAを通さない生音での始まりだった。さらに岩寺基晴(G)、草刈愛美(B)、岡崎英美(Key)、江島も加わって、シンフォニックかつ有機的なアンサンブルを展開していく。観る側も耳を澄まし、五感を研ぎ澄ませて、5人の演奏に集中している。やがてPAの音量が少しずつ大きくなり、ライブ空間に音楽が満ちていく。薄暗い夜明け前の空に朝日が昇り、まばゆい光が降り注ぐような高揚感のある始まり方だ。この自在な演奏を導入部としたオープニングナンバーは「サンプル」。エフェクターを駆使した幻想的な歌声とバンドの奏でる生のグルーブとが見事に融合している。「さあ踊ろう」という山口の言葉を合図に、会場内がダンスフロアと化したかと思うと、音量が絞られて0になっていく。そして、山口が指揮者のように身振りで音量をコントロールし、再び全開に。後半のMCで「今回のツアーは“0から100”がテーマ。1曲目は音量で表現した」と山口が語っていたが、そのギャップのダイナミズムを体感できるステージだった。

 「アルクアラウンド」、「セントレイ」、「表参道26時」など、観客もハンドクラップをしたり、飛び跳ねたりして参加。会場内の盛り上がりを数字で示すならば、序盤ですでに“100”状態に近い。ツアータイトルの中にある「SAKANATRIBE」という言葉どおり、“サカナ部族”による一体感のあふれる空間が出現。しかも閉鎖的なものではなくて、外に向かって開かれていて、一体感と開放感とが共存しているところが良い。サウンド面で特徴的だったのは彼らが人間味あふれる演奏を展開していたこと。正確に刻まれたリズムの中に“ゆれ”や“うねり”や“熱”を見事に導入している。その瞬間にしか生まれない予測不能のスリルが曲の世界観を損ねるのではなくて、さらなるリアリティーを付加していく。躍動するリズムからメンバーの高ぶりまでもが伝わってくるようだったのは「表参道26時」。ベース、ドラムだけじゃなくて、ボーカルもギターもキーボードもリズム楽器と言いたくなるようなキレ味抜群の強靱なリズムが気持ち良かったのは「Klee」。どの曲も実に肉体的だ。クールな質感とホットな熱気が混在する演奏には、唯一無二のオリジナリティーが宿っている。

 肉体のみならず、脳内をスリリングに刺激していったのは、「エンドレス」から始まるディープでイマジネイティブなナンバーが並ぶ中盤。抑制の効いた始まり方をしながら、後半に向かうほどにエモーションがほとばしっていく「エンドレス」ではフィニッシュの瞬間、鳥肌が立った。気泡のSE音で始まった「シーラカンスと僕」では、深海へと誘われていくようだった。「流線」はリアルタイムで展開されていく、オイルアートの映像が流れる中で。ブルージーかつディープな演奏が胸の奥深くに染みてくる。「ユリイカ」は夕暮れの木立、雲と空など、さまざまな風景のモノクロ写真が映し出される中での演奏。この日のTOKYO DOME CITY HALLの入り口前のスナップも映し出された。風が吹き抜けていくような穏やかな爽快感を備えた歌と演奏が、瞬間瞬間のかけがえのなさを浮き彫りにしていく。

「ロックから得られる感動の種類をもっと増やしたい」(山口)

 「さあ一緒に踊ろう!」という言葉から始まった、「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」からは後半へ突入。「インナーワールド」、「三日月サンセット」、「夜の踊り子」など、ダンスナンバーでたたみかけて、ラストまで一気。踊り、歌い、飛び跳ねて、盛り上がり指数は“100”を振り切っていたのではないだろうか。本編ラストの「ルーキー」では白熱した空気の中から儚さや切なさも滲む。こうした懐の深さ、味わい深さも彼らの音楽の魅力だ。

 アンコールでは一転して、ラップトップやサンプラーが並ぶクラブミュージック仕様で、メンバー全員が横一列に並び、「Ame(B) -SAKANATRIBE MIX-」での始まり。カラフルなレーザー光線が雨のように降りそそぐ。「ミュージック」の途中までこのスタイルで、後半から“お馴染み”のバンド形態へ。メカニカルなサウンドを挟んだことで、バンドサウンドの肉体性も際立っていた。さらにコーラスも含めてバンドが塊となって疾走していく「Aoi」へと続いた。アンコール最後の演奏前に長めのMCがあって、“0から100”がライブのテーマとなっていたこと、ツアーの中で曲が育ってきたこと、さらにはライブがバンドだけでなく、音響、照明、映像などが一体となって“チームサカナクション”によって作られているのだということも説明された。こんな言葉も印象に残った。

 「(『NHK紅白歌合戦』の出演などで)メディアで知ってくれた人をここに呼びたい。ここに足を運んでもらうために、僕らはどういうことをしたらいいのか考えていくのがこれからのバンドの未来だと思う。ロックから得られる感動の種類をもっと増やしたい」

 たくさんの“0から100”を体感した夜だった。耳を澄ませて聴きいる音から体で感じる大音量まで。深海や暗闇から光あふれる世界まで。無機質から有機物まで。クールな空気からホットな熱気まで。この日のステージから見えてきたのは“0から100”の間にあるのは限られた数ではなくて無限大であるということ、音楽というものの可能性の大きさだった。アンコールの最後に演奏された「グッドバイ」は未来へと旅立つ決意の歌のように響いてきた。予測がつかない“不確かな未来”だからこそ、大きな可能性が広がっている。音楽に対する真っ直ぐな想いと高い志を胸に、彼らは不確かな未来へと果敢に踏み出していた。
(文:長谷川誠/撮影:石阪大輔(hatos))

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