椎名林檎がアルバム『三毒史』を発売、6人の男たちとのデュエット曲に見る音楽性のルーツ
「私はリスナーとしても、デュエット曲がとにかく大好きなのです」
全13曲収録の『三毒史』は、2曲目の「獣ゆく細道」から、1曲置きに豪華なゲストボーカリストたちが参加している。つまり本作はデュエットアルバムとしての側面も備えている。その顔ぶれは、宮本浩次(エレファントカシマシ)、櫻井敦司(BUCK-TICK)、向井秀徳(NUMBER GIRL/ZAZEN BOYS)、浮雲、ヒイズミマサユ機、トータス松本(ウルフルズ)という個性豊かな面々である。
「『目抜き通り』のボーカルはモータウンのマナーに則ったつもりです。松本さんがマーヴィン・ゲイ、私はタミー・テレルになる覚悟で2声を書きました。彼特有の泣き笑い声には、毎度感じ入ってしまいます。一方、宮本さんといつかご一緒できる日が来るなら、レナード・バーンスタインの壮絶さを目指そうと長年イメージしていました。元来、宮本さんが持つラテンフィールが解き放たれたらどうなるのかを聴いてみたかった。『獣ゆく細道』でそれが叶い、やはり感激です」(椎名)
「櫻井さんの低音からは、デヴィッド・ボウイをはじとするブリティッシュなグラム・ロックの耽美が香り立ちます。「駆け落ち者」は、あのお声の魅力を凝縮することを目指し書きました。スタジオでの櫻井さんの歌入れの際、「あんなに幅のあるビブラートの波形、初めて見た」と、井上雨迩(エンジニア)さんが驚いていらっしゃいました」(椎名)
「ZAZEN BOYSの「自問自答」(2004年)で歌われていた「行方知れずのアイツ」の模様を、初めて私なりに描こうと試みたアンサートラックです。やっぱりリスナーが聴き慣れたご本人の語りは絶対にいただきたかったんです。初めに「声素材ください」とお願いしたのはかれこれ15年程前。ずっと書いてみたかった、悲願叶っての一曲です」
向井秀徳以外のゲストはすべて午年生まれ、およそ5年越しで“干支縛り”を完遂
そしてヒイズミマサユ機だ。椎名は彼の今回のボーカルを「初めて彼の発声が、かつてのジョン・ライドンみたいだと気付いたのです。やっぱり上品な不良がいい」と評している。そんなヒイズミマサユ機のレアかつ新たな魅力を放つ歌声は、本作収録の「急がば回れ」で確かめてほしい。
加えて、『三毒史』で彼らゲストが選ばれたもうひとつの理由が“干支”だ。向井秀徳以外のゲストはすべて午年生まれ。午年生まれの椎名は、36歳となった2014年のアリーナツアーを『(生)林檎博’14 年女の逆襲』と銘打ち、今回、『三毒史』のアルバムジャケットでは自らペガサスになった姿を披露している。昨年迎えたデビュー20周年と不惑(40歳)を挟んで、およそ5年越しで“干支縛り”を完遂させたことになる。
(文/内田正樹)