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人気も“通常の3倍”?「シャア専用ザクII」はなぜ、モデラーに愛されるのか「暗躍するシャアからイメージを膨らませられる」
なぜこのシャア専用ザクIIは傷んでしまったのか? シャアの立場から考察
「近所の模型屋で見かけて魅力を感じ、思わず手に取りました。10年ぶりのガンプラ制作ということもあって、当初ストーリーや背景、情景までをイメージする余裕はありませんでした。ところが、制作を進めていき、塗装が出来る段階にもなるとこの『ザクII』に”考え”を付け加える余裕が出来ました」
仕上げの際、イメージしたのは「地球に降り立ち、左遷された後のシャア」。そこには、この「シャア専用ザク」にウェザリングを施した答えがあった。
「その後シャアは、ズゴックを使って、再びアムロの前に姿を現すわけですが、それまでの空白の間をイメージしました。これは僕の妄想ですが、ガルマの死に関わったシャアはきっと左遷先の部隊にて蔑まれていたのではないかと考えました。そうすると機体のメンテナンスや大切なバックアップもおざなりになり、どんどんと機体は傷んでいく。しかしそれでもシャアにはこれまで全てをかけて進めてきた目的(ザビ家への復讐)があります。シャアはその時何を思うか。おそらく復讐の行く末を見据えていたのではないでしょうか?そんなシャアの心情を聞いてみたいものです。もっとも、ガルマ謀殺〜ジャブロー復帰までの間のストーリーは諸説さまざまあるので、左遷後にザクを使用して地上戦を行っていたのかどうか分からないのですが、そこも含めて僕の妄想です」
傷みを表現したウェザリングは、ガンプラだけでなく戦車や飛行機の手法も調べて手掛けた。
「さまざまな塗装手法などを調べながら”おっかなびっくり”進めていたんです。でも綺麗目仕上げとはまた違った楽しさ、奥深さを感じられてとても楽しい工程だと思いました」
自身が想像した物語も含め、こだわりが詰まった“再デビュー作”となった。
「ザクIIには“重量感”と“力強さ”を組み合わせた雄々しさが必要不可欠と僕は考えていて、自身の思う理想的なバランスを実現することにこだわりました。ザクIIだけではありませんが、MSを作る際、最も重視しているのは完成した際に綺麗に立ち姿が決まるかどうか。重複しますが、そのバランスを実現させるために、この調整には最初から最後まで苦労しました」
ファーストガンダム第10話「ガルマ散る」からイメージしたワンシーン
「シャア専用ザクが活躍する場面は、ほとんどが初期の宇宙空間でのシーンです。私は、『キットを浮かすためのスタンドは極力使いたくない』『画像加工で消したくない』ということをこだわりにしてます。そのくせちゃんとしたジオラマもないですから、宇宙を飛んでるシーンなんて全然無理なので、地上にしてしまおうと。消去法でニューヤークになっただけなんですよ(笑)」
「消去法でこうなった」と言いながら、まるでジオン軍のPRポスターのように構図も見事に決まっている。
「奥行きを感じるようにザクをなめた撮影にして、シーンの一部を切り取ってトリミングしてしまえば、岩場もビルも少なすぎるのを誤魔化せるんじゃないかって思ったんです(笑)。今回、リバイブ版の量産型ザク(写真奥)とリバイブ版のシャア専用ザク(中央)、オリジン版の量産型ザク(手前)を使ったのですが、リバイブ版は立ち姿がとても美しいです。一方であくまで個人的な見解ですが、胴が短いからか、両手でマシンガンを構え腰を落としたポーズをさせるとちょっとカッコよく見えないと思うんですよ。オリジン版はどんなポーズをさせても絵になる秀逸な可動とフォルムを備えていると思っています。それぞれの特性を活かして、シャア専用ザクは真ん中でシュッとカッコよく決める主役に、オリジン版は手前で力強くマシンガンを構えるポーズで画面に緊張感を与えながらシャアに目線を誘導する役にしました。オリジン版は、ピントをボカしたことで巨大感、威圧感を演出できたのではないかと思います」
「厳密なことを言うと、劇中にこのような構図のシーンはない」と話すが、それよりも楽しむことに特化したという。
「『ガルマ散る』自体は、物語的に重要な回で非常にドラマチックです。シャアの暗躍、索敵される側の怖さなど…。そのイメージを膨らませてみました。劇中ではこの写真のようなポーズやシーンはないですし、シャアザクもバズーカで武装していてぜんぜん違うのですが、ムード、イメージを楽しむことを優先しています」
SNSでは「シンプルにカッコいい」「素晴らしい」といった声が多数寄せられ、今後もこういった作品を発表していきたいという。
「今回のように当時のファーストブームをともに過ごしたおっさんたちに刺さるような写真をまた撮っていきたいですね(笑)。また、仲良くなったモデラーの方々から『展示会に出さないか』と言うお誘いをいただいています。実際に3次元での見せ方というのは、今まで私のやっている事とは全く違いますので、勉強していきたいなと考えています」