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「これが立体?」世界初(?)“水彩画風”ガンプラ完成 有名モデラーが切り開いた“イラスト風塗装”の新境地

 3次元のガンプラをまるで紙に描かれているように2次元的に見せる「イラスト風塗装」は、「箱絵風」「アニメ塗」なども含め、モデラーの間ではすっかり定着した手法となっている。そんな「イラスト風塗装」の第一人者として、多くの人々に影響を与えている人気モデラーの今日さん(@kyo512a)は、2次元に見える新たな手法として、おそらく世界初の「水彩画風」の作品を発表。まるで立体感のない作品に、多くの賞賛の声があがった。ガンプラを2次元に見せる新たな手法はどのようにして誕生したのか、話を聞いた。

相性の悪い“水とプラスチック”をどう合わせていくか「塗装の下地から見直した」

――ガンプラを水彩画風にカスタムした『水彩の魔女』を発表されたわけですが、本作はどのようにアイデアを着想したのですか?
今日以前から「イラスト風塗装」として、透明水彩絵具を使用した塗装を行ってみたいと思っていました。ガンダムキャリバーン自体が白を基調としたカラーリングでしたので、キャンバスの白地を生かして描く水彩画とは相性もぴったりだろうと、キット発売と同時に試してみようと決めていました。『水彩の魔女』というネタ名ありきで制作した作品だと思われるかもしれませんが、そういうわけではないです(笑)。

――ガンダムキャリバーンは、色味で選ばれたのですね。ちなみに、何か特別な思い入れがあるのですか?
今日『水星の魔女』本編の終盤に突如現れた主役機でしたので、正直なところ思い入れる間もあまりなかったです。ですが、ガンダムキャリバーンの機体のメイン武装である「バリアブル・ロッド・ライフル」は、タイトルにもある通りの「魔女の箒」がモチーフとされているようで、その点についてはとても興味深いものがありました。

――なるほど興味深い考察ですね。本作の大きな特徴であるガンプラ×水彩画という組み合わせは、数ある「イラスト風塗装」のなかでも見たことがありません。なぜ水彩画という技法を使った作品にしようと思ったのですか?
今日模型の「イラスト風塗装」というのは、そもそもイラストの技法を横展開したもの。なので、数あるイラストのジャンルはそれぞれ「イラスト風塗装」としても適用できると思っていました。ただイラストのいちジャンルである水彩画は、水を主に使っていく描き方なので、相性の悪いプラスチックに適用するのは難しく、やる人もほとんどいないだろうなとも思っていました。ですが水彩画独特の表現は非常に面白いのでどうしてもイラスト風塗装として使ってみたい…そこでなんとかプラモデルにも応用できないかと考え、塗装の下地から見直して実際に試してみたのが本作です。

アニメ塗のような“隠ぺい力”の強い塗り方ができない「下の色の透けを生かした塗り方を」

――素人質問で恐縮なのですが、手法としてイラスト風、アニメ塗、箱絵風などと同じように制作できるものなのでしょうか? 工程でどのような違いがあるのでしょうか?
今日昨今よく見られるイラスト風塗装(アニメ塗りや箱絵風塗装、マンガ風塗装など) は模型用塗料、またプラにも塗ることができるアクリル絵具でも行うことが可能です。一方、今回の水彩画風塗装は、透明水彩絵具がプラに弾かれるため、塗装前にプラに塗料を食いつかせるプライマー、水彩絵具が若干乗りやすい胡粉ジェッソを使用、と下地から考えねばなりません。また下の色の透けを生かした塗り方をするため、隠ぺい力(下の色を覆い隠す力)の強い塗料とは一味違った塗り方が必要になってきます。

――これま数々の作品を手掛けてきた今日さんだからこそ、挑戦できる技法ですね。本作を作る際に一番こだわったところ、一番苦労した部分をそれぞれお教えください?
今日水彩画特有の色のにじみや、重ね塗りによる色の深みが表現できないかと試行錯誤して、やや強引ではありますが背景にも水彩画を重ねてみました。プラモに透明水彩絵具を塗ってひとつの作品にするというのは未知の領域で思った通りにいかないことも多く、水彩紙に塗るのとも勝手が違い、修正が上手くいかず下地から塗り直した部分もありました。
 また全身各所のパーメット(『水星の魔女』に登場するモビルスーツのシステムに用いられている、鉱物から発見された元素)模様も手描きしています。虹色グラデーションの手描きがそこまで難しくなかったのは、下の色が生かせる透明水彩ならではだと実感しました。

――これまでの経験が生かせない未知の領域にも、試行錯誤を繰り返しながら答えを求める姿勢は本当に尊敬します。その苦労が実って、多くの方々から賞賛の声が上がりました。
今日今までにない「イラスト風模型」の可能性を提示できて良かったと思います。「実際の水彩画に見える」「この才能は世界に通用する」「個展を開いてほしい」「常に新しい作風に挑戦する姿勢が好き」といった励みになるコメントをいただき、とてもうれしかったです。

自身の発信をきっかけに、技術を昇華し、新たな作風が生まれるのがうれしい

――ご自身は、XやYouTubeなどでも積極的に自身の技法を発信し、多くのモデラーに影響を与えています。ガンプラの技術伝承にも大きな貢献をされているわけですが、ガンプラ40年で、こうした伝承が繰り返され、技術が受け継がれていくことについてどのように思いますか?
今日最初は「自分の作品を見てほしい」という思いで発信していましたが、技術が身につくにつれて、いろいろな方々から「自分にはマネできない」との声をいただくようになり、そういった方々との技術に隔たりを感じるようになりました。自分の技術を追求するのももちろん良いのですが、ガンプラ…というよりプラモデルの間口を広げるためには後に続く方のための発信も必要であると感じます。
 よく「過去の自分に向けて発信すると良い」といいますね。実際に以前、初心者に向けてアニメ塗り講座を発信したら、「今日さんに影響されてイラスト風で作ってみました」という方々が続々と現れて、自分の発信の影響力に驚きました。でも、これをきっかけに独自の技術に昇華された方もいらっしゃり、技術革新で新たな作風が生まれるのはとても喜ばしいことだと思います。

――すばらしいですね。では最後に、モデラーとして、またガンプラ技術の伝承者として、今後の目標をお聞かせください。
今日プラモ未経験の方で、僕の発信がきっかけとなって、作った作品がコンテスト受賞、オリコンさんのようなメディアへのニュース掲載、著名な方とのつながりができた、といったようなとてつもない成果を上げられている方もいらっしゃいます。技術継承といったらおこがましいかもしれませんが、それで他人の人生に影響を与えることもできる事を実感しました。今後は自分の作品を追求していくだけでなく、後に続く方を育てるというのもありかもしれないな、と新たな道を模索しているところですね。

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