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天津・向、“オタク愛”を仕事に繋げ年収1000万超え もはや副業とは呼べない熱量の源泉「芸人は何をやっても芸人」
「オタク芸人として表にいる以上は総力戦」“副業ではない”想い
さらにコロナ禍で急に先行きの見えなくなった2020年には、ニコニコチャンネルにて動画番組『ムカイワークス』を立ち上げ、様々なテーマで声優の出演・キャスティング・構成・総合プロデュースも手掛ける。いわば本業であるお笑いとは異なる「副業」的な活動で成功しているかと思いきや、まるで「すべてが本業」という強い意志が感じられた。
「現状、芸人って何をやっても芸人なんですよね。ビジネス本を書いても、小説を出しても、絵を描いても芸人。言い方がズルい職業ですよ(笑)。自分も、僕ができる“面白いエンタメ”を詰め込んだものを届けたい、という想いがあるんです。それで、動画もラノベ執筆も漫画原作も、表に出ている以上は総力戦でやっていかなければいけない。結局、持っている武器で戦うしかないわけですから。そういう意味でも、副業という捉え方はしていません。でも常に、おもしろくはありたいです。25年やっている芸人として、それを最上位に置いています」
初めて東京でアニメ系イベントのMCを任されたのが2012年。それから徐々に、MCとしてのテクニックや作品への向き合い方などが評価され、信頼を得ていったという。
「最初はブーイングの嵐でしたよ。声優ファンからのアンチコメントも多くて…まあ当たり前です。当時、『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)なんかで“キモオタ”扱いされていた奴が、いきなりMCなんてできるわけない。でも、そういうポジションを目標にして、自分ならこんなことができますということを多方面でアピールしました。それで少しずつ、MCなどに起用してもらえる存在になれたんだと思います」
アニメ系イベントに関わってから約10年で、ファンの反応も大きく変わった。少しずつ受け入れられるようになり、今では「なれるものなら向の立ち位置になりたい」という声も。仕事とプライベートをわきまえ、MCという立場でマウントを取らない。そんな、向と“推し”との距離感が絶妙という点も、声優ファンから信頼を得ている要因だろう。
「仕事をする上で、『声優ファンの俺がやられて嫌なことは絶対にしない』と決めています。MCという立場を利用して、イキッた感じで憧れの声優に対して『○○ちゃんてさー』などと言ってのける奴を、当時の僕は一生許さなかった(笑)。ファンとしての自分を基準にして、作品やアーティストの魅力を伝えるための仕事をしているつもりです」
憧れの“漫画原作”も実現、「本気でアニメ化を狙ってます」
「実は、ずっと“漫画原作”ってかっこいいなって思ってたんです。それこそ、『金田一少年の事件簿』(講談社)などは、原案と作画が別々ですよね。このペンネームは、実はこの人だった…というパターンに、今でも憧れているんです。もともと、影の立役者的な存在が好きで、たとえば『NARUTO』なら奈良シカマルとか。ど真ん中ではない立ち位置に惹かれるんですよね」
同作の主人公は、アイドルオタクの大学生。ある日突然、異世界に転生してしまい、そこで“推し”のアイドルそっくりのエルフと出会う。癒しを提供する“メンタルヒーラー”の特性を持つ彼女の夢を叶えるために、主人公が異世界を舞台に、アイドルとしてプロデュースしていくという物語だ。ファンがアイドルを求める心理や、それに応えるプロの覚悟、アイドルシーンで起こってしまうトラブルなど、絶妙な表現も読みごたえがある。アニメや声優を想う向の“推し”の気持ちが、リアルに表現されている。
「僕自身、アイドルにすごく詳しいわけではないんですけど、“推し”に対するファンの気持ちは、対象がアイドルでも声優でも俳優でも、コアな部分は全員に重なっているように思うんです。僕自身も気持ちが乗るので、面白くできると思いました」
連載は現在15話目で、登場人物たちは、推しのライブ動員数アップを目指して奮闘中。異世界が舞台だが、武道館を目指すというタイトルも気になるところで、「異世界に武道館があるのか」「現代に戻ってくるのか」といった読者の考察も飛び交っている。
「武道館って、アイドルがステップアップする中で必ず目標とされる場所です。もちろん簡単なことではありませんが、絶対に無理というイメージもないと思います。僕は、“(階段の)踊り場の夢”というイメージを持っていて…。つまり、階段を登り始めた時に、踊り場は見える位置にあって、必ず通過する場所です。その“見える位置にある夢”というのが、とても大事だと思うんです」
向いわく、本作は「本気でアニメ化を狙っている」とのこと。まだまだ物語が続く中で、自身のアイデアをどうかたちにすべきか、奮闘中という。
相方との“遠距離”が「お互いに認め合える関係になっている」
「自分自身が発したり、表現したりするものが、先輩や後輩などの言葉でできたパッチワークみたいなものだと思っているんです。それは自分の表現活動にも投影されています。例えば、以前執筆したライトノベル『芸人ディスティネーション』(2014年、小学館刊)には、ブラマヨ(ブラックマヨネーズ)の吉田(敬)さんから教えていただいた『お笑いは人との関係で成り立つ仕事』というエピソードを盛り込んでいますし、大吉さん(博多華丸・大吉)をモデルとさせていただいたキャラクターも登場します。人との関係の連鎖を大切にしながら、トレーディングカードゲームでいう“デッキ”をひたすら強化しているような感覚です」
一方で気になるのは、天津としてのコンビ活動だ。相方である天津・木村は現在、岩手県に移住して“地元芸人”として活躍中。遠距離コンビを続けて約2年が経ち、お笑いに対しては原点回帰の心境だと語る。
「今は、相方と物理的な距離があることで、よりお互いに認め合える関係になっていると思います。例えば、僕がピンで活動することが増えた時、自分ひとりでボケとツッコミをやるようになって初めて、『エロ詩吟ってものすごいことやってたんだ』と実感しました。逆に、僕が年に何百本も番組やイベントでMCをこなすことについて、相方は今、朝の情報番組のMCを務めているので理解してくれているはずです。そういう意味でも、今の距離感はとても役に立っています。月1でリモートライブを配信しているんですけど、なんぼでも相手をいじりようがあるし、キャラクターをぶつけ合える。他のコンビにはマネできないようなネタが、どんどん生まれてくるんです」
1999年に結成した天津は、今年24年目。異なる分野で活躍する2人だが、コンビとしての結束力は増しているようだ。おそらく賞レースの実績だけが、お笑い芸人の目指す道ではない。人々を楽しませたいという精神こそが、芸人としての本懐であり、進むべき道を作るのだろう。2人の活躍が今後、天津としての活動にどう還元されるのか。その化学変化も楽しみだ。
1980年2月27日生まれ。1999年2月、木村卓寛とともに天津を結成。現在、5つのラジオレギュラーを抱えている。自身が手掛けるニコニコチャンネルも好評で、様々なイベントのMCとしても活躍中。お笑いコンビ「天津」として活動しながら、アニメ系番組のパーソナリティ、アニメ関連イベントのMCを行う。また、自らの配信チャンネル『ムカイワークス』では、声優の番組を構成・プロデュースするほか、ライトノベルの執筆や、ラジオの構成作家と、マルチな活躍をするオタク芸人。
『推しの彼女の成り上がり〜不遇なヒーラーをアイドルにして、異世界で武道館ライブを目指します〜』(外部サイト)
原作:天津 向/作画:幸原ゆゆ
(ライブコミックス)
推しを救ったら異世界転生して、まさかのアイドルプロデュース!? ドルオタ大学生・幸太郎は、推しのアイドル・のんたんをかばって刺されてしまう。「推しを救って死ねるなんて本望だ」――死んだと思ったら見知らぬ森で目が覚める幸太郎。綺麗な歌声に導かれると、そこには推しそっくりの金髪エルフがいて…?お笑いコンビ「天津」の向が綴るオリジナル原作を、イラストレーターとしても活躍する幸原ゆゆが美麗に作画!
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