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『TVer』効果で“地域格差”に変化…ローカル番組がネットで躍進、「本当に面白いものが選ばれる」テレビマンの覚悟

 地方局・TSKさんいん中央テレビが2020年にスタートした『かまいたちの掟』が、ローカル番組に留まらない勢いを見せている。放送開始から1年で、『TVer』の「ローカルバラエティ番組」のカテゴリで「年間総再生数」1位を記録。現在も放送後にランキング上位に食い込むなど、全国区と肩を並べる人気ぶりだ。ローカル番組もネットで簡単に楽しめるようになった今、もはやキー局とローカル局は横並び状態。話題や拡散力という点では、地方格差は縮まっている印象だ。一方で、“ユルさ”を味わうローカルならではの武器が、キー局にも浸透してしまった傾向も伺える。純粋な面白さが試される中、着実に成果を上げている『かまいたちの掟』を例に、ローカル局の挑戦の姿を探った。

開局50年の歴史で初のオリジナルバラエティ、新たな“番組ファン”獲得のために「地上波放送は重要」

 数多くの冠番組を持つかまいたちだが、中でも『かまいたちの掟』を推したいと評価する声は多い。2020年10月に放送開始した同番組を制作するのは、島根県のフジテレビ系列の地方局・TSKさんいん中央テレビ。かまいたちの2人と同局のスタッフが、山陰地方をはじめとするさまざまなスポットを巡るロケバラエティだ。

 スタートから2年が経ち、現在は関西テレビなど全国7局でもレギュラー放送中。『Tver』ほか『BSよしもと』、『MONDO TV』で配信もされており、人気は全国区だ。今年8月、ローカル局制作番組のDVD発売イベントが、東京・渋谷のタワーレコードで行われたのも異例のことで、番組の立ち上げから関わるコンテンツプロデュース局の川中優さんは、番組ファンの反響に驚いたという。

「多くの女性が発売イベントに足を運んでくださったのは予想外でした。僕らとしては、自分たち(=30代〜40代男性)に面白がられる番組として作っている意識があったんです。もちろん、かまいたちさんの人気は大いにあると思いますが、いちローカル局制作の番組がこれほどまでに注目していただけて、配信の拡散力を改めて実感しています」

 さんいん中央テレビの開局50周年を記念して企画された同番組。自社制作番組で他局へのレギュラー番組販売が実現したのは、開局50年の歴史でも初めてのことだという。

 「他局に買っていただいて、レギュラーで放送してもらえること自体、僕ら的にはすごいことなんです。番販は、当初からの一番の目標だったと言っても過言ではありません。いくら配信で、全国で観てもらえる状況になったとは言え、ネットコンテンツは基本的に目的視聴。新規の視聴者を獲得するのは、なかなか難しいんです」

 もちろん、かまいたちのファンによる目的視聴もあるだろう。しかし目指しているのは“番組ファン”を獲得することだった。川中さんは、「そのためにも、偶然目に止めてもらえる可能性のある地上波放送は、とても重要なんです」と説明する。

視聴率は「地方の15%より全国の0.5%」、ローカルテレビ局の危機感

 これまで同局の自社制作で、地域の情報を発信する「情報バラエティ」的な実績はあったものの、お笑い要素の強いバラエティ番組は初とのこと。背景には、ローカルテレビ局としての危機感があったという。

「テレビ局の収益モデルは広告(CM)ですが、地上波の視聴は周知の通り右肩下がり。当社でも、番組そのもので収益を上げる例は、これまでになかったんです。一方で、配信は広告もさることながら、再生数に応じた収益が大きい。自分たちがいい番組を作って、それを楽しんでくれた方から対価を得て、それで番組が継続されていくという姿は、視聴者との関係性において実はとても健全なんですよね。そんな仕組みが作りたいと思っていたんです」

 『かまいたちの掟』の立ち上げは30代以下の若手メンバーが中心。制作、営業、編成など様々な部署の社員が集まり、やりたい企画を練ってから上層部に提案して採用されたという。深夜のロケバラエティで育った世代が多く、一方で、テレビを配信で楽しむことも経験しており、SNSも含め「熱量の高いファンが番組を盛り上げる」という構造を自らも体験していたことが、企画の実現に繋がったようだ。

「通常、自社制作番組は視聴率15%目標が目安となります。ただ『かまいたちの掟』に関しては、企画段階から上層部に『15%は目指しません』と宣言していました。当初から配信を視野に入れて『島根と鳥取の15%よりも全国の0.5%を目標にします』と。もともとキー局と比べて視聴率に厳しくないこともあって、意外とすんなり通りました」

 立ち上げの当初から、配信のほかにグッズやイベントなど、ファンが楽しめるリアルな場を作ることも想定していた。自身の体験から男性を意識して制作していたが、前述のタワレコでのイベントでの女性からの反響を見て、「女性は活動的で、拡散力もある印象。うれしい誤算だった」と語る。

ご当地ネタはNG、「どっかの田舎だな…」くらいの地域性の“薄さ”で全国向けに

 全国視聴を可能とする配信だが、それはキー局も含む他局の番組、さらにはネットに無数に上がっているコンテンツとの横並びの勝負も意味する。とくに番組がスタートした2年前は、かまいたちが一気にブレイクし、キー局での冠番組も含め、複数のレギュラー番組が同時スタートしたタイミングでもあった。

「キー局に比べて制作費も潤沢ではないなか、僕らだけの味を出さないといけない。そこで、全国で観られることを意識しつつ、あえて、かまいたちさんの自由度を大事にして、スタッフの味も出すことを心がけました。ロケ地は鳥取や島根ですが、全国から観て『どっかの田舎だな』くらいの感覚で見られるようにしているので、ご当地ものや観光地といった地域性の濃いものは、あまりピックアップしません。それよりも、かまいたちのお2人や、2人にツッコまれるスタッフ、ロケ先で出会った個性的なキャラの方々を重視しています」

 キー局のバラエティでよく観られる、ナレーションやBGMの効果がほとんど無いことも、番組の特徴だ。

「地方局はキー局のような編集に憧れますが、それはしません。結果的に、それがかまいたちさんのロケを邪魔しないことにも繋がっていると思います。また、一応2人がボケやすかったり、ツッコミやすかったりするステージを用意しますが、そこで2人が想定外の方向に行っても、キー局だったら軌道修正するところを僕らはしません。その分、編集でツッコミ風のテロップを打ち出すなど、かなりの緊張感を持って取り組んでいます。かまいたちさんの面白さを最大限引き出す編集ができたときには、再生数も顕著に伸びるので、気は抜けないですね」

 ロケの達人で知られる2人の自由な振る舞いが肝となっており、「まだまだ、かまいたちさんに頼りすぎている」としつつも、それだけに素材に頼りきらない編集姿勢が番組の魅力を増幅させる。出演者と制作者の歯車が絶妙に合致して回っているのが、『かまいたちの掟』という番組の面白さに繋がっているようだ。

「手ごたえのあった企画が続くと、『TVer』の視聴数が短期間で2割増えることも。もちろん逆もあります。コンテンツ数が無数にある中で、本当に面白いものが選ばれて、そうじゃなければ選ばれない。改めて厳しい世界だと感じます」

 放送にはしばしばスタッフも映り込み、かまいたちからイジられることも。タワレコでのDVD発売イベントでは、たびたび番組に登場する若手スタッフに、来場者から歓声が上がる場面もあった。すでに『かまいたちの掟』はかまいたちファンだけでなく、確実に番組ファンを拡大しつつある。視聴者は移ろいやすいが、番組ファンは根強い応援をするものだ。
「番組グッズのTシャツやDVDの収益を、製作費に還元する形も少しずつ実現しています。今後の目標は、ファンが集合できるリアルイベントをやること。かまいたちさんの人気に頼っている側面はまだまだ大きいので、さらに番組ファンを増やす努力をするのが今後の課題です」

 テレビの人気が視聴率だけでは測りにくくなった中、試行錯誤を続けている『かまいたちの掟』。なおイベント開催のイメージは番組内でも語られており、その経費は、『Tverアワード2021特別賞』の賞金30万円をギャンブルで増やして賄うことを目論んでおり、すでに12月14日放送分で119万円に増額を達成。こちらの放送も、『TVer』でランキング上位に上がるなど注目を集めた。番組ファンとしては、この企画の行方にも目が離せないところだ。
『かまいたちの掟』(C)さんいん中央テレビ(外部サイト)
毎週水曜24時25分放送
Twitter/かまいたちの掟【TSK公式】(@kamaokite_tsk)

 天才的なロケ技術を持つ「ロケの達人」かまいたちが、ありとあらゆるスポットを巡るロケバラエティ!グルメあり、ファッションあり、危険な体当たりロケもあり?番組の最後には行く先々で感じた事をもとにかまいたち独自の“掟”を発表!達人ならではの鋭い切り口でその日のロケをぶった切る!?
※12月31日、2022年総集編(『TVer』でも視聴可能)

■全国での放送
BSよしもと、北海道文化放送、サガテレビ、テレビ新広島、関西テレビ、さくらんぼテレビ、東海テレビ、テレビ熊本

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