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ローカル局発“柴犬×おじさん”ドラマ『柴公園』、企画・脚本家が語る“テレビの強さ”

 今、SNSで密かに話題になっているドラマ『柴公園』。ローカル局やU局、BSでの放送のみでキー局では放送されていないのだが、ハッシュタグ「#柴公園」にはいつも多くのファンが集っている。何と言ってもこの作品の特徴は、渋川清彦、大西信満、ドロンズ石本が演じる柴犬を飼う3人のおじさんが公園で“ダベる”だけというシンプルさ。そして、昨今“おじさん作品”が人気だが、以前からこの手の「動物×おじさん」作品で企画・脚本を手掛けてきたのが、AMGエンタテインメントの永森裕二氏だ。また、ローカル局発でありながら劇場版公開(映画『柴公園』6月14日公開)までのフォーマットも確立している。そんな「動物×おじさん」やローカルドラマの映画化の狙い、また映像作品の在り方、視聴者の変化について話を聞いた。

“動物×おじさん”作品シリーズ、「働き盛りの男性と小動物の違和感がドラマになる」

――『柴公園』の視聴者、SNSユーザーから「ずっと見てられる」「癒される」など多くの反響が届いているかと思います。どう受け止めていらっしゃいますか?
永森裕二氏 「柴犬がかわいい」っていうのは想定内だったんですけど、柴犬を連れたおじさんがかわいく見えたらいいなっていうのも狙いだったので、その声が多いのは嬉しいですね。

――今やおじさんブーム。『バイプレイヤーズ』や『おっさんずラブ』などが話題になりましたが、永森さんは以前からおじさんに注目していました。
永森氏 最初は『イヌゴエ』(06年)という作品を作ったんです。主演はブレイク前の綾野剛さんで犬の声が聞こえる男を演じていただきました。次に作ったのが『ネコナデ』(08年)。大杉連さんが主演で、そこから今の形になりました。

――そもそも何故、おじさん?
永森氏 動物と一番距離のある人間って実はおじさん。犬を若い子が連れているのは違和感ないじゃないですか。女の子でもおばさんでもそう。おじいちゃんが飼っていても違和感ないですよね。でも働き盛りの男性が小動物といるのはやや違和感がある。その上で強制的に一緒にいなければいけないという状況を作れば、ドラマが生まれそうだなと思いました。例えば『ネコナデ』。大杉漣さんには鬼の人事部長を演じてもらいました。そんな男が拾ってきた子猫を研修の部屋で飼う話。「なぜこうなった」と自問自答しながら日々過ごすような話で、その辺りの「かわいさ」は狙って。『幼獣マメシバ』(09年)は佐藤二朗さん主演で、中年ニートが犬を飼ってちょっとずつ外に出られるようになる話。その後の『ねこタクシー』(10年)はカンニング竹山さん主演で、猫を連れたタクシーの話。これらの小動物とおじさんのかわいさというテーマは『柴公園』まで引き継がれています。
――『柴公園』自体の企画はどのような経緯が…?
永森氏 『柴公園』は“僕”なんです(笑)。僕も柴犬を買っているんですが、散歩している時に実際、ドラマで描かれたようなことが起こる。それをそのままアウトプットしたのが『柴公園』ですね。犬を連れたおじさんたちが公園でダベっているのって面白いんですよ。名前も知らないし、何をやってるかも分からないけど毎日会う。とても謎が多い。おじさんって職場でも家庭でもポジションや利害関係がある方ばかりなので、基本ムダ話をしないんです。でもこの社交場ではムダ話をダベる。匿名性はあっても顔はバレている状態で。おじさんたちが犬を連れて来る公園という社交場は、いろいろ想像ができるし、そこにある人間関係自体を面白く感じています。

――それをどのように作品として構築したのでしょうか。
永森氏 ドラマが全10回と映画もあるんですけど、まずそれぞれにテーマを決めました。例えば犬に服を着せるとどうなるかとか、犬の名付けに関する「あるある」だとか。こだわったのはダベり。セリフって物語を進めるためにある場合が多い。そのストーリーテーリングの役割を外して、ただセリフを耳にしている状態にできないかと。以前、バカリズムさんの『架空OL日記』(日本テレビ系/18年)がありましたが、ダベる姿を見せるドラマって作るのが相当難しいんです。ダベりの中にほんのりとドラマを入れながら、テンポが良く見えるようにカッティングは細かく。そして何より犬がかわいく見えるよう心掛けました。

ローカル局やU局のドラマ放送、そして劇場版の公開「ドラマは“滑走路”」

──前述の動物シリーズ同様、ローカル局、U局放送と映画をセットにしたフォーマットで、今作も映画化が決まっております。キー局のドラマが映画化することはよくありますが、ローカル放送発で映画化するのは御社ならでは。ドラマ放送〜映画公開までどのような意図やプランがあるのでしょうか?
永森氏 実はローカル局やU局って観ている人は多い。大きな映画ってすごい物量と予算をかけて宣伝するじゃないですか。そういうことをできないので、僕はドラマを“滑走路”だと捉えました。全10話3カ月の猶予に『柴公園』を知ってもらい、映画も観に来てもらう。もちろん押さえる劇場は放送されている地域のもの。あとは僕だって視聴者の顔を見てみたい。劇場に足を運んで下さるお客さんを可視化するためという側面もあります。

──ローカル局やU局で制作する良さは?
永森氏 キー局と比べて比較的縛りがないですね。例えば冬クールNHKで放送されている『ゾンビが来たから人生を見つめ直した件』など、コンサバのイメージのあるNHKが今や一番先鋭的です。でも、その中でもローカル局やU局は、コンテンツを作る作り手の純度を保ちながら作らせてくれるという良さはあります。今の時代、そうした“不特定多数”に向けた作品の作りって、視聴者から飽きられているような気がするんです。逆に“特定少数”に向けて作った方がよい場合もある。普通にちゃんと出来ている作品でも、それならちょっと変わっているYouTuberのチャンネルを観た方が楽しい、と。今は”不特定多数”を相手にしたら負け確定なのかもしれません。
──あれだけ話題になったのに、実は視聴率が4%だった『おっさんずラブ』などがいい例ですね。
永森氏 ほか『カルテット』(TBS系/17年)も視聴率は低かったがDVDは相当売れたと聞いています。今の若い視聴者には“破綻”が欲しいみたいなところがありますよね。本当によく完成していればいいんだけど、それよりは変なことの方に興味をそそられるというか。これは想像なのですが、YouTubeとかテレビが“無料で見られるコンテンツ”だからかもしれません。小説や映画など有料コンテンツは完成されたものの方がよいのでしょうが、ドラマって観ようと思うのはちょっと変わったものだったりもしますよね。不思議な感覚です。そんな時代の中、最初思ったことをそのままの純度でやれるというのは、ローカル、U局の方とお仕事をしていて楽しいところ。あと宣伝協力に積極的なのもうれしいです。

SNSで発信者となった視聴者「“騙されてたまるか“と思いながら観ている」

──そうやって時代を見据えながら作品作りをされているんですね。
永森氏 そうですね。あとは、「テレビは思ったほど弱くない」。動画配信サービスのプラットフォームが隆盛ですが、アメリカだと“見放題”という文化が強くても、日本はそれほどでもないように見えます。テレビでも期限が一週間のレンタルビデオでもそうですが、ある程度の“束縛”があった方が日本人はコンテンツを観る。いつでも観られるとなったら意欲が減退してしまう。そういった意味で、日本は今も、文化の発信源としてテレビはまだまだ強いと感じています。

──そのほか今の時代に映像作品を作るにあたり感じられることはありますか?
永森氏 SNSの発展で、観る方も発信者となっている。一億総クリエイターと言いますか、観る方も「騙されてたまるか」と思いながらテレビやドラマを観ているフシがある。フォーマットに当てはめてしまう…作品の”丸め方”にすごく敏感になっており、そうした“同調圧力”的なものに屈せず、多角的にそれぞれが分析をされています。いろいろなものに疑心暗鬼という時代とも言えるのですが。ですがクリエイターの立場からそれを語るのならば、いい傾向だなと思います。だってそれって、“本物”を見極めようとしているわけじゃないですか。それは人間の“知りたい”という欲求から来るものでもあって、情報の真偽も分からなくなっているんですけど、そんな疑心暗鬼の中でホッとできる作品を“特定少数”向けに作ったつもりです。ぜひ『柴公園』で安らいだ時間を過ごしていただければ。

AMGエンタテインメント・アミューズメントメディア総合学院・学院長 産学共同事業統括 永森裕二氏

AMGエンタテインメント・アミューズメントメディア総合学院・学院長 産学共同事業統括 永森裕二氏

(文・取材/衣輪晋一)

『柴公園』Infomation

<ストーリー>
 都市開発が進む街の公園。柴犬を散歩するあたるパパ(渋川清彦)、じっちゃんパパ(大西信満)、さちこパパ(ドロンズ石本)は、朝夕決まった時間にやって来る顔見知りで、犬の名前しか知らないフラットな関係性。ベンチに座って話すのは、決まって他愛の無い世間話。ところが、やたらIQの高い3人の会話はいつもエスカレートし、柴犬たちは置いてけぼり。3人の壮大なる無駄話は終わることなく続くのだった…。
【出演者】渋川清彦/大西信満、ドロンズ石本、桜井ユキ、水野勝、松本若菜(映画のみ)、蕨野友也(ドラマのみ)、小倉一郎(ドラマのみ) 螢雪次朗(ドラマのみ)、山下真司、寺田農(映画のみ)佐藤二朗 ほか

【監督】綾部真弥(ドラマ&映画)/田口 桂(ドラマ)
【製作総指揮】吉田尚剛
【企画/脚本】永森裕二

【主題歌】「カンタンアイテラス」(AMG MUSIC/作詞・作曲:坂本英三 歌:岡部力也)
【制作プロダクション】メディアンド
【制作協力】ディープサイド 
【企画・配給】AMGエンタテインメント
【配給協力】イオンエンターテイメント
【製作】「柴公園」製作委員会
(C)2019「柴公園」製作委員会

◆ドラマ『柴公園』 
2019年1月よりテレビ神奈川ほか全国11局以上で放送中
◆映画『柴公園』
2019年6月14日(金)より全国のイオンシネマ・シネマート新宿ほか公開
公式サイト(外部サイト)

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