ORICON NEWS

元WEAVER杉本雄治、ソロ活動「ONCE」のビジョン「いろんなチャレンジができる場所に」

元WEAVER杉本雄治

 今年2月に東京、兵庫でのライブをもって活動を終え、解散した3ピースバンド・WEAVER。このバンドのボーカル/ピアノを担当していた杉本雄治がソロプロジェクト「ONCE」を立ち上げ、1stアルバム『ONLY LIVE ONCE』を9月13日に配信リリースした。ロック、ジャズ、クラシックなどを取り入れたサウンドメイク、自らのリアルな思いを反映した本作からは、ONCEの独創性と将来性が伝わってくる。

 9月から10月5日にかけ、初ツアー『ONCE 1st Tour 〜ONLY LIVE ONCE〜』を開催した杉本に、ONCEをスタートさせた経緯、アルバム『ONLY LIVE ONCE』の制作プロセス、来年2月のビルボードライブ東京・大阪公演など今後の活動ビジョンなどを聞いた。

「とにかく1人でがんばらなきゃ」という焦りもあった

――WEAVERの活動が終了したのが今年2月。その段階でONCEの構想はあったんですか?

杉本 明確なイメージはまだ固まってなかったんですけど、「ソロでやっていきたい」という思いはありました。WEAVERの解散を発表してからの1年間は、とにかくすべてをWEAVERに全力を注ぐことを決めていて。最後のライブをやり終えたときは、「これから新たな人生を送ることになるんだから、自分を見つめ直す時間が必要なのでは」と思ったんでよ。でも1週間、2週間と経つうちに「自分は音楽に生かされてきた。やっぱり音楽をやりたい」という思いがどんどん強くなって。

――自然にモチベーションが沸いてきたと。

杉本 はい。応援してくれるファンの方も「これからも歌声を聴きたい」というメッセージをたくさん送ってくれましたし、スタッフの方々も「お前はいい音楽を作るんだから、続けろ」と言ってくれて。そういう環境はなかなかあり得ないし、自分自身も「まだまだ音楽で恩返しできていない」という思いがあったんですよね。もちろん「表現したい」という気持ちもあったし、できるだけ早く活動を始めたいなと。
――ONCEとしての音楽性については?

杉本 自分自身と改めて向き合って、少しずつ探していた感じですね。今回のアルバム『ONLY LIVE ONCE』のなかで最初に出来たのが、「Amazing Grace」という曲で。この曲が出来るまでは迷いがあったというか、「どう表現していけばいいんだろう?」というのが定まっていなかったんです。

 ONCEとしての活動スタートを発表したのは今年5月で、そこからいろんな意見が聞こえてきました。いい反応だけではなくて、ちょっと不安を感じているファンの方もいらっしゃったし、「みなさんに納得してもらうために、とにかく1人でがんばらなきゃ」という焦りもあったんです。そういう数ヶ月を過ごすなかで出来た曲が「Amazing Grace」だったんですよね。“人生の恵み”という壮大なタイトルですけど、自分が音楽に生かされてきたこと、音楽のおかげで今の自分があることを、曲を通して表現できたんじゃないかなと。そこでようやく、気持ちの整理がついたんですよね。

これまでのイメージをリセットして、自分の音楽をフラットな形でファンの方、リスナーの人たちに届ける。ONCEをそういう場所にしたいんですよね。今、こうして音楽をやれているのはまちがいなくWEAVERのおかげ。そこに対してネガティブな思いはまったくないんですが、これまでのイメージを取っ払ったうえで自分の音楽を受け取ってもらいたいので。

最初の作品は「自分一人でどこまでできるか」の挑戦

――ONCEという名前は「You only live once」(人生一度きり)という言葉が由来だとか。

杉本 はい。「ONCE」というワードはこの2〜3年、自分のなかにずっと持っていたんです。バンドを終えるという人生のなかでもいちばん大きな決断をしたのもそうだし、3年前に新型コロナウイルスにかかったときの経験も大きくて。一時期は「表に立って歌うのはもうしんどいかも」と思ったこともあったし、それを乗り越えた今、「人生は1回きり。自分にできることを後悔なくやっていきたい」と思うようになったんですよね。

――音楽自体も、一回性の芸術と言われますよね。すべての演奏は1回限りで、同じものは2度と生まれないという。

杉本 そうですね。自分をいちばん伝えられるのはやっぱりライブだし、そこにすべてを注ぎ込みたいと思っていて。音楽が鳴る一度きりの瞬間を共有したいという思いもすごく強いので。
――楽曲の制作はすべて一人で?

杉本 はい。アルバムのテーマにもつながってくるんですが、最初の作品は「自分一人でどこまでできるか」という挑戦でもあったので。作詞、作曲はもちろん、アレンジ、録音まですべて自宅スタジオでやりました。アレンジに関しては、ライブもかなり意識してましたね。ステージでどういうプレイをすれば楽しんでもらえるかを想像しながら作っていたので。

大変だったのは歌詞ですね。最初はちょっと弱気になって、「1曲くらい誰かに書いてもらおうかな」って思ったりしたんですけど(笑)、「いやいや、一人やらないと」と言い聞かせて。

1人だからこそ伝えられるメッセージも

――アルバムの収録曲についても聞かせてください。1曲目はインスト曲「Crossroad」。

杉本 アルバムを出すからにはライブをやりたい。ONCEとして初めてステージに立ったとき、まずはどんな音を届けたいか?を強くイメージして作った曲ですね。そのなかで「Crossroad」、交差点というワードが浮かんできたんです。バンドが終わって、数ヶ月経って。もう一度みなさんが交差する場所がONCEのライブになったらいいなと思っていたし、そのことを表す楽曲になっていますね。

――続く「Stay With Me」は、<僕ら同じ場所で 今を生きてる>というフレーズで始まるポップナンバー。美しさと切なさ、力強さが共存するサウンドやメロディーも印象的でした。

杉本 これまでの自分の音楽を聴いてくれてた人のなかには、「ONCEの曲も好きになれるかな」と思っていた方もいたと思っていて。そういう方が笑顔になれる、「大丈夫。この曲、すごく好きだ」と思ってもらえるような楽曲を想像して作ったのが「Stay With Me」なんです。同じ場所で声を重ねられる喜びを感じたい、というイメージもありましたね。

テーマは“声”。Aメロは自分の声を6つくらい重ねているんですが、あのサウンドは北欧のアーティストのアウスゲイルの影響もありますね。あとはボン・イヴェールのボコーダーの使い方も参考にしていて。「Stay With Me」は自分の“好き”が詰まってますね。

ONCE「愛とか恋とか」MV

――「愛とか恋とか」はピアノのリフを軸にした楽曲。

杉本 ライブで“その場で音を重ねる”ということをやりたいと思っていて。まずピアノのリフをループさせて、そこに音を加えていくというイメージで作ったのが「愛とか恋とか」なんです。ピアノの音色選びもこだわりました。音色って“運”みたいなところもあって、いろいろ探したり、音をイジったりしてるうちに「あ、これだ」という音が見つかるんですよ。実はいちばん時間がかかる作業ですね(笑)。

――現代の社会に対する思いがストレートに表れた歌詞も、この曲のポイントですよね。

杉本 タイトルを見ると恋愛ソングみたいだけど、アルバムの中でいちばんメッセージ色が強い曲ですね。自分の中でずっとモヤモヤしている思いがあって、それを形にしてみたくて。<平等を愛するマジョリティ>という歌詞があるんですけど、今って、「ちゃんとわかり合えないとダメだよね」という意識がすごく強い気がしているんです。もちろんそれも大事なんだけど、まずは違いを認め合い、「僕たちは一緒じゃないよね」ということを前提として、それぞれの人生を生きていくべきじゃないかなって。こういう歌詞を書くときは、自分の思いをさらけ出すしかなくて。リスクがあるかもしれないけど、そういうことを気にしてたら何も書けない。1人だからこそ伝えられるメッセージかもしれないですね。
――6曲目の「Dusk」はオルタナティブな雰囲気の楽曲ですね。

杉本 アルバムの中ではいちばん異色というか、自分としても「新しいサウンドだな」と思っています。この曲、アルバム制作の最後に出来たんですよ。スケジュール的にタイトだったので、いろんな角度から考えるというよりも、やりたいことをダイレクトにアウトプットできたのかなと。

自分の頭の中にあったイメージをそのまま形にしようと思って、その日のうちにトラックを完成させて、夕方くらいから歌詞を書いて。たぶん、歌詞を読んでもあまり意味がわからないと思うんですよ(笑)。僕はもともと洋楽が好きで、歌詞の内容がわからなくても、勝手に情景を思い浮かべたりもしていて。しっかりメッセージを乗せる曲も大事ですけど、「そうじゃない曲もあるんだよ」と提示したいという気持ちもありました。
――聴き手に解釈を任せる、と。

杉本 そうですね。サウンドに関しては、やっぱり多重録音をイメージしていて。後半はインダストリアルというか、オルタナティブな感じもありますね。そこはレディオヘッドが好きだった自分が出てきてるのかも(笑)。

大きな決断をしたからこそ実感「音楽を作る喜び」

――アルバムの最後に収められている「記憶」は美しいメロディーが心に残るミディアムチューン。

杉本 制作の中で僕自身が感じていたことを込めた、アルバムを象徴する楽曲になったと思います。この2〜3年、過去を振り返る瞬間が多かったんです。さっきも少し言いましたけど、人生で一番と言えるくらいの大きな決断をして、新しい音楽人生が始まって……。もっと昔のことを思い出すと、後悔することが多かったんですよ。基本ネガティブだったというか、「あんなことを言わなければよかったな」みたいなことがずっと気になっていたり。

でも、このアルバムを作ってるときは「大きな決断をしたからこそ、こうやって音楽を作る喜びを感じられているんだな」と実感できて。今までの自分を肯定できたし、過去の自分、そのときどきの自分がこれから先の自分の背中を押してくれるのかなと。たくさんの人に支えられてきたと改めて実感できたこともすごく大きくて。ファンのみなさん、スタッフの方々、信頼できる仲間。これまで出会ってきた人たちのおかげで今の自分があるんだと思ったし、そういうメッセージを音楽として表現したかったんですよね。
――ネガティブな部分を含め、自分自身を肯定できたというか。

杉本 うん、そうですね。もう1曲「Squall」というインスト曲があって。その曲には、ネガティブな自分の気持ちの流れが出てるんですよ。夜、ちょっとしたことで悩み始めて、それがどんどん大きくなって。時間の経過とともに少しずつ鎮まるまでの感情の変化を表したかったんですよね。負の感情、ネガティブな思いから生まれる曲もあるし、それが自分の原点なのかもしれないですね。

――9月から10月にかけて行われた初のツアー『ONCE 1st Tour 〜ONLY LIVE ONCE〜』では、杉本さんが1人でステージ立ち、アルバム『ONLY LIVE ONCE』の楽曲を表現しました。来年2月のビルボードライブでの公演はどんな内容になりそうですか?

杉本 今回のツアーは、「ONCEはこういう音楽をやるんだよ」というショーケース的な意味合いもありました。ビルボードライブでは、アルバムの完成形をしっかり表現して、その先を提示できるようなステージにしたいと思ってます。準備もけっこう大変なんですけど(笑)、ライブに来てくださるみなさんはもちろん、スタッフの方々にも楽しんでもらえる現場にしたくて。自分の音楽に携わる人楽しんでほしい、幸せになってほしいという思いはさらに強くなってますね。
――アルバムのリリース、ライブとONCEとしての活動も徐々に本格化。この先のビジョンについてはどう考えていますか?

杉本 今回のアルバムは基本、自分1人で作りましたけど、今後は他のミュージシャンやクリエイターの方とも一緒にやってみたくて。例えば“ピアノとドラム”の編成でライブをやるのもいいだろうし、タップダンサーの方とコラボするのもいいなって。ONCEをいろんなチャレンジができる場所にしたいという気持ちが強いですね、今は。

そのうえで、少しでも多くの人と音楽を共有する喜びを感じたいし、それをどんどん大きくしたいと思っています。ONCEとしてだけでなく、“杉本雄治”としても音楽をやりたい気持ちがあって。例えばカフェとかジャズバーなどでライブをやったり、何ができるか考えていきたいですね。
インタビュー・文/森朋之
撮影/田中達晃(Pash)

杉本雄治/ONCEプロフィール

1988年12月3日生まれ、兵庫県神戸市出身。2004年から3ピースピアノバンド「WEAVER」のピアノ&ボーカルとして活動。2023年2月26日、地元・神戸国際会館でバンドのラストライブを行い、解散した。ソロプロジェクト「ONCE」は“You only live once”から名付けられ、新しい音楽、自分らしさを自由に表現し、新しい挑戦をしていく場所として始動。9月13日に、全7曲の作詞・作曲・編曲を手がけたデジタルアルバム『ONLY LIVE ONCE』をリリース、翌14日から初ツアー『ONCE 1st Tour 〜ONLY LIVE ONCE〜』をスタートさせた。来年2月3日には大阪、同11日には東京でのビルボードライブ単独公演も決定した。

あなたにおすすめの記事

メニューを閉じる

 を検索