インターネットレーベルが取り組む、ブロックチェーンによる原盤権トークン化の実証実験

 楽曲ファイルとそれにまつわる権利情報をブロックチェーン上でトークン化し、どのように使用されるかをトレースする実証実験が行われている。原盤権の一部を付与されたトークン(NFT)としての音楽ファイルは、音楽コンテンツとして新たな価値を持つのか。それぞれの立場で実験に携わる3人に、その目的や意義を聞いた。

NFTの考え方を音楽に活用する実証実験

 NFTとは、Non-Fungible Tokenの略。互いに代替不可能な固有の情報を1つひとつのNFTが持つものであり、いわゆるサービス内通貨としてやりとりされるトークンとはまったく性質が異なる。ブロックチェーンの仕組みを活用した育成ゲーム『CryptoKitties』などでは、ユーザーが育成した千差万別のキャラクター自体がNFTであり、マーケットプレイスなどで暗号通貨を介して交換・売買されるアセット=独自性を備えたデジタル資産として認識される。

 このNFTという考え方を音楽コンテンツに活用できないか、という試みが、「ブロックチェーンによる原盤権のトークン化」という今回の実験。ブロックチェーン技術の導入コンサルティングなどを行うBlockBaseが技術面および法令面での核となりつつ、VJソフト開発やアート系パフォーマンス支援などを行うギーク×ナード集団・コバルト爆弾αΩがプロデュース、tofubeatsを輩出したことでも知られる無料MP3ダウンロード方式のインターネット・レーベルMaltine Recordsが場を提供するという座組みで行われている。

ブロックチェーンと相性がいいクラブミュージックカルチャー

  • 左から加々見翔太氏(コバルト爆弾αΩ)、tomad氏(Maltine Records 主宰)、山村賢太郎氏(BlockBase 取締役 COO)

    左から加々見翔太氏(コバルト爆弾αΩ)、tomad氏(Maltine Records 主宰)、山村賢太郎氏(BlockBase 取締役 COO)

 コバルト爆弾αΩの加々見翔太氏は、今回の取り組みの経緯について「手元に音源があって、それをMaltineさんでリリースしたいとなったとき、何かしらの技術的なネタを絡ませることが多くて。先日は『マインスイーパー』をクリアしたらダウンロードできる仕掛けとか(笑)。クラブミュージックの領域はブロックチェーンと相性がいいと以前から考えていて、何かやりたい、とBlockBaseさんに相談したのがきっかけです。単にオリジナル楽曲をトークンとして配布しても、あまり広がりが期待できないので、そこにリミックスできたり再配布できるような権利を付与しておけば、DJカルチャーとの親和性もより高まるのでは、というアイデアが生まれました」。

 打診を受けたBlockBaseとしては、ちょうど金融領域に触れないNFTの可能性を多方面から探りたいと考えているタイミングだったという。

 同社の山村賢太郎氏は「通貨性、証券性が低く、法令上の仮想通貨に当たらないという点がNFTの大きな特性のひとつ。現在、私たちが展開する『bazaaar』を含め、NFTがやりとりされるマッチングプラットフォーム上では、ほぼゲームのトークンばかりが扱われていて、本来はもっと多様なコンテンツに応用できる概念なのに、という思いがありました。音楽コンテンツも当然その対象として扱える。ではどのようなNFTとして設定すれば、より動きが活性化するのか、というところから、一部の原盤権そのものを記述してみようということになりました」と語る。
 Maltine Recordsのtomad氏も、今回の実験には積極的な意義を見出して関与するスタンス。

「たとえば仮想のレンタルレコード棚から借りたり戻したりを記録していくとか、ブロックチェーンには興味があって、いろいろアイデアはありました。原盤権については、一般の音楽ユーザーはあまり関係ない部分ですし、非商業系のトラックメイカーもよく知らなかったりする現実があります。今回の試みで、原盤権の認識が広がって、その流動性が高くなると、原盤権を持つトラックメイカーがそれを売りに出したりできる。それは、より音楽がアートっぽくなるというか、絵画とかにも近い、有限だから価値が高まるという方向性にも進むかもしれません。そうした変化の可能性が楽しみ」。

 好きなアーティストの新曲の原盤権を買い、自分の記念日など好きなタイミングでリリースするといった、より自由な音楽コンテンツ活用法が自然発生するための変数として期待するということだろう。

より幅広い権利込みの楽曲トークン化の可能性も視野

  • Mitaka Sound「ACID ACID」

    Mitaka Sound「ACID ACID」

 今回の実証実験は、具体的にはMitaka Sound「ACID ACID」という楽曲のリミックス含む4パターンを用意。応募・抽選を経て4人の当選者に1曲ずつの楽曲音源トークンとサンプリング用トラックデータが配布される。

 このトークンには原盤権の一部(複製権・譲渡権)と著作権の一部(翻案権・演奏権)が記述されており、保有者は、原著作者や管理団体にそれらの利用について許諾を得ず、利用することが可能になる。マスタリング済の原盤音源を使ったCDやリミックス盤をリリースしたり、譲渡権に基づいて所有者がどんどん移行することも考えられる。これらの行為が、その都度ブロックチェーン上に記録されていくというイメージだ。いったんトークン化された楽曲ファイルは、所有者が移転することはあっても、原理上はずっとブロックチェーン上で存在し続ける。

「音源がパブリックドメイン化する70年後まで、延々とリミックスされ続けたらおもしろいですね」と加々見氏。取材時点(6月上旬)では、今回配布された音源を用いたリミックス音源の発表その他、具体的な動きはまだ確認されなかったが、引き続きチェックしていくとのこと。より幅広い著作権込みの楽曲トークン化という可能性も視野に入れつつ、その行方を見守りたい。
(文/及川望)

提供元: コンフィデンス

あなたにおすすめの記事

メニューを閉じる

 を検索