ノンストップ・ミックスCD『Love Story』が異例のロングヒット その理由をデータで検証

  • 『Love Story 〜ドラマティック・ミックス〜』ジャケット写真

    『Love Story 〜ドラマティック・ミックス〜』ジャケット写真

 史上初の全曲テレビドラマ主題歌ノンストップ・ミックスCD『Love Story 〜ドラマティック・ミックス〜』が8月29日の発売以来、11週にわたりランキングTOP50以内に滞在し、異例のロングヒットを記録している。従来のセールスランキングは初動型で週を追うごとに収束していくのが常だが、同作品はアップダウンを繰り返しながらもランクインを続けている。そのロングヒットの理由や傾向をデータを元に分析していくと、音楽体験が多様化する現代において“ヒットの作り方”の新しい形であることが分かった。

■初動型からロングテール型へ CDならではの“ヒットの形”も変化か

『Love Story 〜ドラマティック・ミックス〜』は、登場初週に週間アルバムランキングで21位につけた翌週は15位までランクアップ。最高13位を記録し、第8週は32位につけたと思えば、翌第9週はセールスを伸ばし24位にアップするという珍しい動きを見せて、11週にわたってランキングTOP50に入るというロングテールとなっている。

「ノンストップ・リミックスもの、いわゆるコンピCDは10年前ほどが最も盛り上がっていたものです。最近はDJ和さんの『ラブとポップ ~好きだった人を思い出す歌がある~ mixed by DJ和』や『俺のラブソング mixed by DJ和』などミックスCDはまた盛り上がりの兆しがあります」とユニバーサルミュージック担当の古田亮氏は語る。『Love Story』はじめ、このノンストップリミックスCDのロングヒットは、ヒットの新しい形として音楽メーカーも注目。発売週からだんだんと収束していく“初動セールス型”が定石だが、同作はロングテール型。

携帯音楽プレイヤー等で既に持っているユーザーにも、従来とは異なる音楽体験を提供する。シャッフル再生では味わえない、DJの“つなぎ”のカッコよさも体験でき、デジタル音楽では体験できない“CDならではの魅力”を持ったアルバムといえる。

ドラマ・J-POPの黄金期を回顧する、“潜在意識”に訴えるヒット曲集としての「商品力」

  • 収録曲ラインナップ※詳細はクリック

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 収録曲はいずれも発売当時はオリコンCDランキングでは上位を占めており(※表2)、全32曲のCD総売り上げは2250万枚以上と当時大ヒットした名曲がそろう。さらに現在もカラオケや音楽配信でヒットしている楽曲も多く、ドラマのイメージと共に“時代の写し鏡”となった名曲がそろっている。現在はデジタルDLや聞き放題のサブスプリクションサービスなど音楽体験の多様化が注目されるが、最もCDメディアが盛り上がった“CD一強”時代に、強力な浸透率をもって広まった時代を彩った名曲たちだ。古田氏が「一度聴いてもらえれば、良いものと思っていただける“商品力”があります」と自信をのぞかせる通り、潜在意識に訴えかける“音楽の力”がヒットのベースにある。

 近年のドラマは視聴率低迷時代と言われて久しいが、現在はターゲットを40代以上に設定した『相棒』『ドクターX』(テレビ朝日系)などヒットドラマも生まれており、視聴率も回復傾向にある。この夏も、織田裕二、鈴木保奈美主演ドラマ『SUIT』(フジテレビ系)スタート直前に再放送された『東京ラブストーリー』が女子高生の注目を集めたことがネットニュースを賑わせたことも記憶に新しい。小田和正の“主題歌の力”に着目する記事も見受けられた。このように、近年は多方面から“40代世代”のドラマへの注目度が上がっている背景もある。

「40代が音楽を何かと重ねて楽しめた時代には、必ずテレビドラマがありました。そして、40代はCDに触れる文化が根付いている世代です。だから、史上初となるテレビドラマ黄金期の全曲テレビドラマ主題歌を作りたかった」と古田氏。そのほかにも、音楽業界ではMr.Children、松任谷由実、宇多田ヒカルといった大物アーティストがサブスプリクションサービスに楽曲を開放していく動きを見せており、そのなかで過去のヒット曲が再生ランキング上位に入ることも珍しくない。名曲の力が掘り起こされる土壌も醸成されている中で商品力が最大化された結果だ。

ノンストップミックスは“車社会”の郊外エリアと好相性

(表4)主要12都道府県別ランキング ※東京は平均98位

(表4)主要12都道府県別ランキング ※東京は平均98位

 『Love Story』の動向で注目すべき点は販売エリア。オリコンのセールス動向データでは、「東京よりも郊外エリアで売れている」という分かりやすい結果が見て取れる。

 販売のエリア別構成比(表3)をみてみると、従来の音楽ソフトでは最も大きい市場である東京は全体の約6%と最も低いという驚きの結果が出た。一方、最も売れているのが、南関東エリアの20%、次いで中部エリアの15%、北関東14%だ。さらに都道府県別でみると、最も販売が好調なのは3207枚の茨城(9%)、3002枚の名古屋(8.5%)、2532枚の埼玉(7%)だった。『Love Story』12地区別のランキング順位の平均値(表4)で、東京では平均93.5位に対して、最も順位が高い北関では平均9.1位。北関東では最高4位という実績も出ている。

 これら郊外型のヒットにおいて、生活スタイルにおける音楽体験の違いが挙げられそうだ。北陸エリアの地方出版社で13年間情報誌の音楽担当をしているM氏に話を聞いてみたところ、“車社会”と音楽の親和性を語った。車社会の地方エリアは、「音楽へたどり着く過程が短い」ことにより、「音楽が身近」でかつ「興味関心は高い傾向にある」という。高校を卒業したら1人1台車を持つような社会であり、車に乗ればボタン一つでラジオがかかり、ドライブに音楽は欠かせないものであるという。「家にはCDプレイヤーがないが、車には搭載されているというケースも珍しくなくなってきている」とユーザー側の機材面も指摘する。

 デジタル音楽の再生では、プレイリストやシャッフル再生でスマホやデジタル音楽プレイヤーで視聴するスタイルも定着するが、そこで、郊外型ヒットの理由に“ノンストップ”が挙げられる。ノンストップでつなぎのカッコよさもありながら、再生するだけで上質な音楽がかかり続ける(=こまごまとした操作がいらない)BGM要素があるミックスCDは、車社会で生活するユーザーニーズにマッチしているのだろう。

新しい音楽の窓口“を作った販売戦略、音楽接触の場が多様化

  • (表5)販売チャンネル別売上比率 

    (表5)販売チャンネル別売上比率 

 もう一つの特徴が、CDの販売チャンネルにある。チャンネル別販売構成比(表5)を見てみると音楽ソフトを扱うメディアショップは約32%、その倍近い約60%が書店で売れている。同作を展開する売り場は、ヴィレッジヴァンガード、WonderGOO、新星堂、TSUTAYA、ドンキホーテ、オートバックスなど。その中でも大きいのがヴィレッジヴァンガードだという。

 お気に入りのアーティストの楽曲を狙ってレコードショップに行くのではなく、暮らしを彩るものとして書店で購入する動向が読み取れる。もちろん、書店で販売する際には、売り場づくりが必須。店員がレコメンドしたい、売りたいという気持ちがあってセールスにつながっていくものだが、それも先述の“商品力”があって実現するもの。

 また、オートバックスなど、従来音楽ソフト販売の場ではなかった店舗に展開しているのが、今作の販売戦略のユニークさを象徴している。音楽に接する場がリアル・デジタル共に多様化する現代において、“新しい音楽体験”を提供していくべく展開した販売戦略によってつくられたヒットであることがわかる。『Love Story 〜ドラマティック・ミックス〜』のロングヒットは、「商品力」「地方エリアとの親和性」「販売チャンネル・販売戦略」などの要素で売れるべくして売れた作品であると言えそうだ。

提供元: コンフィデンス

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