ミッツ・マングローブ「人生は、ごっこ遊び」 本気の遊びから生まれる新時代の歌謡曲
私って、こんなに下手だった!?
ミッツ・マングローブ ソロはたまにしかやりませんけど(「東京タワー」はソロとして6年ぶり3作目のシングル)、その時は「まな板の上に載ろう」という意識で、ユニットの方は「自分で舵を取ろう」と思って活動しています。星屑スキャットは、自分を含めた3人のメンバーをプロデュースするという感覚でやっていますね。
――「東京タワー」を歌おうと思ったのは?
ミッツ それはせっかく声をかけていただけたことですし、私としてはやらないと決めていたわけではなくて、単に6年間そういうお話がなかっただけのことですから(笑)
ミッツ 私自身のスタイルなんてわからないと言うか、無いので、いろいろな方の歌い方をマネて試してみた結果です。でも、それではすんなりと答えが見つからないような難しい曲で、仮のボーカルレコーディングの後に自分の歌を聴いたら、あまりに歌えていないので愕然として、「私って、こんなに下手だった!?」って挫折に近いものを感じたんです。でも、そうも言っていられないし「やらなきゃ!」と思っていたら、五木先生がいろいろ言葉をかけてくださったので、それに沿うように努めた結果ですね。でも、ソロはあまりやっていないってこともありますけど、苦手です。恥ずかしくて、緊張しちゃいます。進んで前に出て行くっていうタイプではなくて、2番手、3番手にいて、ほかのメンバーの補足をするみたいなのが得意で、自分に適した役割だと思っているんです。そういう意味でも、星屑スキャットでは真ん中にいないから、若干逃げ場があるぶんやりやすいんです。
歌謡曲という先入観を超えた『化粧室』
ミッツ 編集作業も割と好きで、もう時間がないからそろそろ切り上げないと駄目ですよって怒られるまで、ずっと音の調整なんかをやっていましたから、中身はそれなりに濃くなっていると思います。
作品に注ぎ込まれた、ごっこ遊びへの情熱
ミッツ 私、人生はすべてが「ごっこ遊び」なんです。ごっこ遊びが大好きなの、妄想も含めて。素を出すとか生身を晒すなんてことは絶対できなくて、基本的に化粧や衣装でフィルターをかけていないと生きていけないんです。だから、歌っているのも「歌手ごっこ」なんです。自分が大好きなあの人みたいに歌いたいとか、こういうステージをやってみたいとか、そういうことを少しずつ形にしてきたんです。
10代の頃には自分で歌を作って、将来はそれで生きていけたらなんて思ったこともありましたけど、社会に出たら基本は水商売で、この仕事って、次はいつ来るかわからない。その日、その日のお客さんが相手だから連続性が無いんです。そのせいか、そういう性格だからこの仕事に就いたのかわかりませんけど、基本的に編集しない生が好きなんです。だから、これまで星屑スキャットで10年以上活動してきながら、ここまでアルバムを出していなかったんですけど、作ってみたら、まとめることって大事だなっていうことに気付きましたね。
ミッツ それはあると思いますけど、私だけじゃなくて、このアルバムの中では3人がそれぞれにごっこ遊びをしてるわけですから、見方によってはかなりとっ散らかっていて、それを面白いと思ってくださる方もいるでしょうけど、散漫と感じる方だっているでしょうね。
ちなみに、ミッツがプロモーションのために『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)に出演した際に語っていたが、この曲のMVが完成したのはアルバムの発売後。MCのマツコ・デラックスによれば、「(時間もかけて)それを全部この人の私財で作ってるのよ」(その言葉をミッツは「全部ではないけどね」と否定していたが)とのことで、そこには前述で「怒られるまで、ずっと音の調整なんかやってました」と話していたミッツの、歌や作品への情熱を感じることができる。例え「ごっこ」でも、ここまで本気でやれば、こんなにも素晴らしいのだと思わせられるMVは、リリー・フランキーが総指揮を務め、白石和彌氏が監督、女優の蒼井優が出演している。未見の方はYouTubeで公開されているので、ぜひ。
求められるものに応えながら、ちょっとだけ期待を裏切って
ミッツ ありますけど、好きなアーティストがたくさんいて、それが日々替わるので、その日その時で、ごっこ遊びを続けていくんでしょうね。大好きなのは、V6と(中森)明菜ちゃん。ベン・フォールズ・ファイヴもジョ−ジ・マイケルもやっぱりいいなぁと思いますけど、そういう好きな気持ちが次の活動につながっているんですよね。持っているものより無いものの方が多いから、好きなアーティストに近付くために、欠けたピースをなんとか埋めるように頑張って、それでやりたいことをやってっていうのを続けてきたので、これからもそうやって続いていくんだと思います。
――頭の中にはやりたいことがまだまだ詰まっていそうですね。
ミッツ ありますねー。でも、私たちを好きで期待してくださっている方たちがいらっしゃるので、独りよがりにならないように、求められるものに応えながら、時代性も加味しつつ、そしてちょっとだけ期待を裏切るという感じでやっていきたいと思いますね。でも、続けていくには、より多くの方に私たちのことや作品を知っていただくことが必要なので、まずはヒットを出したいって思います。
――そのヒット作品は、きっとその時代の歌謡曲の象徴的なものになると思います。それがどんなものか楽しみにしながら、ますますの活躍に期待したいと思います。ありがとうございました。
ミッツ こちらこそ、ありがとうございました。
文:寧樂小夜
(『コンフィデンス』 18年6月25日号記事を加筆して掲載)