ポップさを追求した気鋭のバンド・King Gnu、2018年ブレイクの兆し
老若男女を巻き込んで活動して行きたい
常田 Srv.Vinciの時はもっと個人的な音楽を志向していたんですね。でも、今のメンバーでやっているうちに、ちょっとスタンスが変わってきて。アークティック・モンキーズやレディオヘッドとか、フェスのデカい会場でみんなが歌ってるアーティストを観て、すごく感動した。俺らも、もっと開いて行きたい、ポップを突き詰めたいなという思いからバンド名を変えたんです。群れがどんどんデカくなっていく動物のヌーをイメージしてつけた名前なので、それこそ、老若男女を巻き込んで活動して行きたいなって思います。
常田は10代の頃にクラシック指揮者である小澤征爾のアカデミーに参加したほか、バンド活動とは別に、自身のソロプロジェクト・Daiki Tsuneta Millennium Paradeとして昨年の夏にデビューアルバム『http://』を発表。芸大の同期で、現在の日本のジャズシーンでNo.1ドラマーと称される石若俊とサイケデリックでアブストラクトなビートミュージックを追求。また、ネオソウルバンド、WONKが所属するレーベルが手がけたセロニアス・モンクの生誕100周年記念アルバムにソロ名義で参加するなど、<ジャズ・ザ・ニュー・チャプター>界隈で活躍する一方、大ヒットした米津玄師の最新アルバム『BOOTLEG』にもプロデューサー兼アレンジャーとして参加している。
常田 いろんな界隈から声をかけてもらうんですけど、どこにも属していないというか……。米津さんの場合は、多分、カッティングエッジなものがアルバムに欲しかったんだと思いますね。彼は、聴き手に響くJ-POPのメロディーというものを的確に捉えている人だと思うので、日本で売れたいならすごく参考になるし、勉強にもなりました。
彼らは自身のサウンドを“トーキョー・ニュー・ミクスチャー・スタイル”と表している。ミクスチャーというと、Dragon AshやRIZEなどのラウドロックとHIP HOPをミックスしたバンドが思い浮かぶが、彼らは、クラシックからジャズ、オペラ、ロック、パンク、HIP HOP、テクノ、現代音楽、オルタナティヴR&Bなど、多様な音楽を混ぜ合わせ、聴いたことがあるようで聴いたことがない、独自ブレンドの“歌もの”を作り上げている。
常田 今、一番意識しているのは“人が歌える”ということですね。高校の時に、当時の彼女が文化祭に来たことがあって。オリジナルをやってたんですけど、「全然、訳がわからない」って言われて。その傷が今もあるかもしれない(笑)。自然とやるとどうしてもコアな方に行きがちなので、King Gnuの場合は、エクスペリメンタル(実験性)な要素は意図的に排除していて。だからといって、歌詞の内容をわかりやすくするとか、説教くさくすればいいっていうことではないと思っていて。何かしらのキャッチーさは必要だと思うけど、俺の中ではKing Gnuでも変わらずに、新しいことや挑戦的なことはやっていますね。
あくまでも日本語で、日本の大衆歌を作りたい
常田 ちょっとフォーキーというか、演歌みたいな歌詞ですね。俺、井上陽水さんが好きなんですよ。文章で見た時にあまり意味はないとしても耳につく。その抽象性とキャッチーさのバランスがいいなと思っています。『FUJI ROCK FESTIVAL ’12』で、井上陽水、ジャック・ホワイト、レディオヘッドという並びで見たんですけど、あの人の歌は全然負けてなくて。世界基準だと思ったし、桑田佳祐さんを含め、あの時代の人たちの強固さや色気には憧れますね。
幼馴染で、同じく芸大の声楽科出身の井口理をバンドに迎え入れたのもバランスを考えてのこと。彼らが目指すのは、あくまでもみんなが歌えるポップスである。
常田 理は嫌われない声なんです。俺の声はオルタナ系だから不快に思う人もいるかもしれない。でも、理はいろんな人に届きうる声質を持った、良いシンガーなんです。ダーティーだったり、エッジになったりする方がいいときは俺が出るけど、理の声の方が自信を持って届けられる。これからも攻めるラインとキャッチーなラインのバランスはずっと探っていくと思うけど、King Gnuは、あくまでも日本語で、日本の大衆歌を作りたい。そして、どんどん群れを大きくして、東京日本武道館や『FUJI ROCK』のGREEN STAGEでライブをしたいですね。
(文:永堀アツオ)