LOVE PSYCHEDELICO、4年ぶりアルバム『LOVE YOUR LOVE』で「新しい扉開くことできた」

4年の沈黙を破り、ニューアルバム『LOVE YOUR LOVE』を発表したLOVE PSYCHEDELICO(17年7月5日発売)。新たな試みにあふれたその内容は、まさにアップデートされた“デリコサウンド”と言うべき仕上がり。プライベートスタジオでほぼ自力で完成させたというアルバムの制作プロセスや、大ヒットした映画『昼顔』主題歌の背景、そして安定した支持に甘んじずに新たな表現を求める姿勢に、彼らのミュージシャンとしての純正を感じてもらいたい。

かなり顕著に新しい扉を開くことができた

──最初にジャケットの話をするのもナンですが、ちょっと驚きだったんです。LOVE PSYCHEDELICOのアートワークと言えば、イラストレーションやタイポグラフィのイメージがあったので。
KUMI たしかにそうですね。別にこれまでも、絶対にジャケットに顔出ししないとか決めていたわけじゃないんだけど。ただ今回は、今までやってなかったことという意味で、本人が出るのも面白いかもしれないね、ということでこのジャケットになったところは大きかったかもしれないです。
NAOKI アートワークもそうなんだけど、特にサウンド面で自分たちの流儀みたいなものが1つできると、どうしても壊したくなるところがあるんです。自分たちとしては同じようなアルバムは2枚と作らないつもりで、常に変化を求めてやってきて。そのつもりでアルバム制作に挑んでも、“デリコサウンド”って言われちゃうのが悔しかったりもするんですけど(笑)
KUMI そういう意味では、今回はかなり顕著に新しい扉を開くことができたなという気がしていて。それもやっぱり、アルバムの中でも一番最初に完成していた「Good Times,Bad Times」ができたことが大きかったかな。
  • LOVE PSYCHEDELICOアルバム『LOVE YOUR LOVE』(17年7月5日発売)のジャケット写真

    LOVE PSYCHEDELICOアルバム『LOVE YOUR LOVE』(17年7月5日発売)のジャケット写真

──錦織圭選手が出演されていた、14年のJACCSのCMソングですね。サビのエモーショナルなボーカルが印象的で。
KUMI わかりやすい歌メロですよね。シンボリックなフレーズが入っていて、とても歌中心の楽曲。それに伴ってコードも豊かで。だけど実はとてもシンプルで、オーセンティックな作りの曲なんです。
NAOKI 平たく言うと歌モノですね。たぶんみなさんがイメージされる“デリコサウンド”って、「LADY MADONNA 〜憂鬱なるスパイダー〜」や「Everybody needs somebody」あたりに代表されると思うんですよ。リフと歌が呼応するロックンロール的な流儀の曲というか。だけどこの曲は、もっと歌のメロディー自体が持っている曲の色気というか、そういうロックの面白さってあるじゃないですか。70年代のシンガー・ソングライターの時代のポップスにあったような。それってなかなかマネできないんだけど、それに近い何かを「Good Times,Bad Times」で触れることができたような気がして、すごく嬉しかったんです。

──追いかけてきたものの1つが、ようやくつかめた、というような感覚ですか?
NAOKI 追いかけてきたというよりは、今までも自分たちの身の回りにあったんだけど、なかなか出会わなかったタイプの曲といったほうが近いかもしれない。僕らってもちろん自分たちで曲を作ってはいるんだけど、良くも悪くもエゴイズムを吐き出して曲を作るというよりは、むしろ「曲と出会う」んですね。
KUMI うん、そうだね。歌も「こう歌ってやろう」じゃなくて、曲に寄り添ってその表現になっていく。曲が呼ぶというか。
NAOKI 1曲目の「Might Fall In Love」なんかも、ラテンロックという僕らとしては新しいタイプの曲なんですけど、あれは(世界的なパーカッショニストの)レニー・カストロと久しぶりにセッションした時に原型ができたんですね。彼のラテンのグルーヴがすごくかっこ良くて、かといって僕らはラテンミュージシャンじゃないから本物のラテンはできない。それでも出会ったこの曲を仕上げたいと、なんとか自分たちの器を広げながら表現していく。楽しみながらね。それを13回繰り返したのが(※通常盤は13曲収録)、このアルバムなのかなという気がしています。

──新しい表現に挑戦していながらも、たしかにこれはLOVE PSYCHEDELICOのアルバムだと拝聴して感じました。いわゆる“デリコサウンド”も、アルバムとともに確実にアップデートされているんじゃないでしょうか。
NAOKI それはたぶん、リスナーのみなさんの許容が広がっているからじゃないですかね。例えば前に「Freedom」という曲を発表した時、一部ではギョッとされたんですよ。でもそんな曲もそのうち気が付くと、LOVE PSYCHEDELICOの曲として受け入れられていて。だからこそ、毎回少しずつでもみなさんが思っていたのと違うことをやりたいんですよね。そこに賛否両論は必ずあると思うけど、賛否両論こそが音楽を豊かに面白くすると思う。だからそこは恐れず迷わず、新しいやり方にトライしていきたいですね。

自分たちにない発想をもらうタイアップの楽曲作り

──アルバム収録13曲の中でも、特に驚きが大きかったのが映画『昼顔』主題歌の「Place Of Love」。壮大で厚みのあるストリングスはまさにデリコの「新しい扉」だったんじゃないでしょうか。
NAOKI 一番初めに監督の西谷弘さんとディスカッションした段階では、優しい感じの曲をイメージされていたようなんですが、僕も「そうですよね、わかります」とか言いながら、ぜんぜん違うタイプの曲を提示してしまいました(笑)

──でも、最終的にその“タイプの違う曲”が採用されたということは、監督のイメージを超えるものになっていたんですね。
NAOKI 曲作りに入る段階で、すでに映画は完成していたんです。そのパイロット版を観せていただいて、僕らはこう思うのでこういう曲はどうですか?と、監督の出してきた札に対して、僕らの札を返すというトランプのような曲の作り方だったなと思います。ただ主題歌って、映画館で観た人だけではなく、映画を観ていない人にもいろんな形で届くんですよね。その時に主人公だけの立場を肯定したら、極めて限定的な曲になってしまう。特にこの映画は「不倫」を題材にしているだけに、そういった倫理観も含めて、一方的な曲にはならないように、というのは表現者として考えたし、監督とも討論を交わしましたね。最終的には監督も僕らの考えにも納得してくれて、お互い同じベクトルでモノ作りができたと思います。
KUMI 完成した本編を観させていただいたんですが、エンドロールに流れる映像がパイロット版とは変わっていました。どうやら出来上がった曲を受けて、再度映像を編集し直してくださったみたいで。

映画『昼顔』より (C)フジテレビジョン 東宝 FNS27社

映画『昼顔』より (C)フジテレビジョン 東宝 FNS27社

──監督が「LOVE PSYCHEDELICOは映画作家として存在した」とコメントされていましたが、まさに音楽の力が映像に良い相乗効果を生んだということだと思います。
NAOKI 身にあまる言葉です。

──もともとLOVE PSYCHEDELICOは15年発売のベストアルバムの収録32曲中、22曲にタイアップが付いていたなど、映像作品に楽曲提供をすることが多いですが、楽曲提供の際に心がけていることはありますか?
NAOKI 曲を作る際、タイアップという感覚はないんですよね。
KUMI うん、コラボレーションという感覚だと思う。
NAOKI 例えばCMソングなんかも、CMのクリエイターの方の「こんな映像を作りたいんだよね」という思いを共有するというか。
KUMI そこを共有できたら、あとは音楽を作るといういつもの作業。自分たちだけでは生まれない発想やエッセンスをもらって、一緒にモノ作りを楽しませてもらっている感じですね。
NAOKI 余計な力は働かないので、変なストレスは一切ないです。

世の中全体的に、音が平均化してきてしまっている

──「余計な力が働かない」というのは、自分たちでレコーディングをハンドルできる環境があるからでしょうか? 本作もレコーディングのエンジニアリングからミックスまですべて2人で完成させたとか。
NAOKI そうなんです。もちろんレコード会社に手伝ってもらうこともあるけど、例えばスタジオにない機材をレンタルするのも自分たちでやるし。
KUMI あと今回は、けっこう鍵盤も買ったんですよ。「クラビネットの音入れたいよね、じゃあ買っちゃおうか」とか、「オルガンを使うなら、レスリースピーカーが欲しいよね」とか。
NAOKI 今回、初めてKUMIがいろんな曲で鍵盤を弾いているんです。
KUMI 曲作りの段階で「こんなフレーズが合うかなぁ」とかいろいろ試し弾きをしていたんですが、レコーディング中にも触っていたら、NAOKIが「それ録っちゃおうよ!」みたいになって。
NAOKI すごい“生っぽい”レコーディングで面白かったですね。
KUMI ずっとそういうスタイルで制作すると決めたわけじゃないんですが、あくまでトライという意味で。
NAOKI うん、トライだね。なんでそういうことをやってみたくなったかというと、今って世の中全体的に音が平均化しているなと思うんです。それはやはり、ミックスという作業がすごく洗練されて、極端なことを言うとどんな音でもキレイにまとまってしまうからであって。

──“音のデコボコ”のようなものが、ならされてしまっているということですか?
NAOKI そう。でも、音楽の愛おしさって、そういう味のある肌触りにこそあると思うんですよ。それこそ、今また50周年で話題になっている、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』も、あっちからドラムが聴こえてきたり、こっちで小さな音が鳴っていたり、そのデコボコがカッコ良いいんですよね。

──『サージェント・ペパーズ〜』もですが、本作もハイレゾ音源を出されています。最新技術ではあるけど、ハイレゾって実はそういう生っぽいデコボコを楽しむものなのかもしれないですね。
NAOKI みんなで音を鳴らしたら小さな音も生まれるし、大きな音はよく聴こえるって自然なことだからね。そういう意味では、「レコーディングでちゃんと録っているんだから、過度なミックスはやめよう」というトライをしたのが、このアルバムなんです。

──初回盤には4曲のデモアコースティックバージョンも収録されています。
KUMI うん、すっごく未完成のもの。「Place Of Love」もストリングスが入っていないし、だからこそより曲の核を感じてもらえるんじゃないかなと思います。
NAOKI 全体として、いい意味でのプリミティブさが残ったアルバムになったと思うんですね。作業工程を想像させるような。だから今回は思い切って、さらに完成されていないテイクも聴いてもらいたいなと。人によっては、「俺だったら、もっとこういうギターを弾くぜ」みたいな楽しみ方もできるんじゃないかと思います(笑)

(文:児玉澄子)

提供元: コンフィデンス

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