『おそ松さん』『ユーリ』を生み出した社長が語る 「ヒットを生む要因」

 2017年5月にエイベックスはグループを再編、「avexgroup 成長戦略2020」を推進していく中で、音楽・アニメ・デジタル領域に注力することを発表した。『おそ松さん』や『ユーリ!!! on ICE』などのヒットTVアニメを送り出し、実写映画や劇場アニメーションなど、アニメでの360度ビジネスを展開するエイベックス・ピクチャーズ代表取締役社長に就任した勝股英夫氏に、今後の展開について話を聞いた。

ヒット作品を生み出す「2つの要因」

  • 勝股英夫氏(エイベックス・ピクチャーズ 代表取締役社長)

    勝股英夫氏(エイベックス・ピクチャーズ 代表取締役社長)

――近年のグループ内におけるアニメコンテンツの影響力の拡大について、どのように感じていらっしゃいますか?
勝股 エイベックス・グループは音楽をベースにした企業ですが、そこから総合エンタメ企業へと進んでいく土壌は僕が就任した頃(2012年)からありました。実際に、弊社の「2020年までの成長戦略」においても、3つに集約した事業ドメインの1つとなっており、アニメコンテンツのビジネスをさらに拡大させていくことについては、自然の流れなのかなと受け止めています。ですが当然ヒットを出したことによって、その存在感を増すことができたという実感はあります。『おそ松さん』(15 年)のときは、「まぐれかな?」という声もあったのですが(笑)、そこから『KING OF PRISM』(2016年)、『ユーリ!!! on ICE』(同)と続いたのは大きかったですね。

――ここ数年のエイベックス作品には、たしかに勢いを感じます。
勝股 私が入ってから進めてきた取り組みとして、強いプロデューサー集団を作ることと企画会議体の改革というものがあるのですが、それがようやく機能してきたのだと思います。

――強いプロデューサー集団とは?
勝股 マーケットに迎合しないもの。ひと捻りした企画を生み出すことが、今のアニメ界には求められている傾向にあります。5、6年前は、ある程度計算して勝率の高いコンテンツを作り出すことができていましたが、近年のアニメファンは“意外性”を求めている。他社ですが、今年ヒットした『けものフレンズ』も、誰も予想できていなかったのではないでしょうか。『おそ松さん』や『KING OF PRISM』、『ユーリ!!! on ICE』もダークホースだったという点では共通しています。

――アニメ市場のギャンブル化が進んでいるということですか?
勝股 勇気のある企画の方が大ヒットする可能性が高いという現状は、僕個人としては逆に面白いと感じています。新作でヒットを出し続ける。そしてそのヒットを360 度ビジネスでどう最大化させるか。この2 点について、我々は絶えず考えていかなくてはなりません。

――守りに入ってはいけない?
勝股 優秀なプロデューサー集団という意味では、属人的であってはならないと思っています。継続的にヒットを生み出すためには、つねに新しいスキルを身につけていかなくてはならない。そこで今は、制作のセクションを第1 と第2 の2 チームに分けているのですが、第1 制作が『おそ松くん』原作の『おそ松さん』を生み出せば、第2 制作がオリジナルの『ユーリ!!! on ICE』を生み出す好循環が生まれています。つまり隣の席の同僚が、一番の好敵手になっているという状況です。ライバルが外にいるよりは、グループ内にいたほうがいいなと僕は思っていて、悔しいなと思いながらも社内だと相手のや
り方をよく学べる。ライバルが近くに
いればいるほど個人は成長します。

―― 一方の会議体の改革とは、どのようなものだったのでしょうか?
勝股 エイベックスのアニメ部門は今お話しした制作と、関連商品の開発を含む二次利用の事業、マーケティングの3部門に大きく分かれるのですが、今はそれぞれのセクションを通して行われた会議がすべて透明化されています。つまり、「知らない間に(別部署の)企画が進んでいた」というケースをなくしたわけです。これはチームとしてうまく機能させることを目的とした取り組みでした。実際、それ以降コンテンツを360 度展開していくなかで、「元々うまくいかないと思っていた」なんて不満を漏らす人はいなくなった。このことも、今の勢いを生み出す原動力になったと手応えを感じています。

デジタル映像配信とプラットフォームの重要性

――すでにパッケージ販売を主体としたビジネスモデルが崩れてきたといわれて久しいこの業界ですが、今の収益の中心地はどこになるのでしょう?
勝股 各種グッズや音楽、2.5 次元といったライブ分野が引き続き重要になることは前提のもと、やはりデジタル配信の可能性は大きいです。アニメコンテンツの映像配信は外資も積極的に参入してきたことで、ますますマーケットが活性化してきています。つまりそれだけ競争が激しくなっているということなのですが。

――日本のアニメは、すべてサブスクリプションのサービスに流れていくのでしょうか?
勝股 今はその過渡期なのかなと。日本のマーケットは世界に比べてパッケージの影響力が大きく残っていて、まだまだヒットが出れば大きな利益を生み出すことができます。ただそれも、10 年後にはなくなっているんだろうなという想像は必要です。我々もそれを予想しているからこそアニメタイムズを設立し、ANiUTAへの出資を決めたわけです。

――プラットフォームを自ら持つことが、どのような強みに繋がるのでしょうか?
勝股 少し言い方が悪いかもしれませんが、他社作品のヒットの恩恵も受けられるということですね。すべてのコンテンツを自社で賄うのが理想ですが、現実はそうもいかない。アニメ業界では、過去のヒット作品や出版社の周年行事など、いろいろなお祭りがその都度行われています。プラットフォームがあれば、そこに容易に参加することができますし、そのお祭りに合わせて独自のコンテンツを作り出すこともできる。エンタテインメント企業が垂直統合していくなかで、メディアを持つことはかなり重要だと思います。

――アニメ業界には横のつながりが強いという特色もありますしね。
勝股 それはありますね。ライバルなんですが、この業界はお互いの足を引っ張り合うようなことはせず、協業するときはするという雰囲気があるように思います。先日、米・ロサンゼルスのアニメコンベンション『Anime Expo』で『Anisong WorldMatsuri 2017』を開催したのですが、これもANiUTA と関連したフライングドッグさん、ランティスさんとの共同事業。プラットフォームを通じてアニメコンテンツを世界に発信していくこうした動きは、この先も拡大していくと思っています。

ますます拡がる市場と求められる競争力

――海外市場では、どの点に注目していますか?
勝股 いま日本のアニメ市場は広い意味で1.5兆円といわれていますが、北米とアジアのアニメファンには、大きな可能性を感じています。すでに出資も入ってきており、中国制作のTVアニメも増えてきている。作品数が増えることで、よりクオリティが高く映像価値の高いものが評価される。この競争力の向上は、これからのエイベックスに限らず日本のアニメ業界の課題になると思っています。

――“日本らしい”アニメ作品を打ち出していかなくてはならないと。
勝股 今、アニメーションには2Dあるいは3DCG という表現方法がありますが、完全な3DCG アニメは日本のファンには響かない。ただ、2Dだけで作る時代でもありません。その融合の加減については、2、3年前から状況が変わってきている感触はあります。こういう日本独自の感覚を作っていきながら、なおかつ世界で勝負ができる表現方法を、我々は早く確立しなければなりません。

――企画力とテクノロジーの進化による新しい表現法の確立。それが今後のアニメ界のポイントになると。
勝股 テクノロジーはVRなど日々進化していますからね。そこは他社の技術でも、積極的に活用していきたいと思っています。

――最後に、グループとして掲げる成長戦略に向けて、勝股さんご自身が取り組みたいことはありますか?
勝股 アニメコンテンツの拡大に加え、ソーシャルゲーム分野の開発が僕の新たなミッションなのかなと思っています。現状、弊社にはアニメIPを使ったアプリゲームはありますが、ゲームIP から360度ビジネスに展開していくケースはまだ作れていません。アプリ業界はアニメ業界よりも参入がオープンなため、より強い競争力が求められるのですが、ここに真剣に取り組んでいくことで、より大きな成長戦略を描けたらなと思っていますね。

(文:西原史顕/写真:西岡義弘)
勝股英夫氏(エイベックス・ピクチャーズ 代表取締役社長)
1964年1月17日生まれ。同志社大学経済学部卒業後、1988年ソニーに入社。2010年6月、ソニー・ミュージックエンタテインメントアニプレックス代表取締役に就任。12年10月、エイベックス・エンタテインメントに入社後、映像制作・アニメ制作に携わる。2015年3月にアニメタイムズ社を設立し、代表取締役社長に就任。17年4月、エイベックス・ピクチャーズ代表取締役社長に就任。

提供元: コンフィデンス

あなたにおすすめの記事

メニューを閉じる

 を検索