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髭男爵ひぐち君、“お笑いの仕事1割、ワインの仕事9割”も「いいことだと今は思っています」
ボジョレー・ヌーボー解禁イベントで失態「勉強したほうがいいんじゃないか」
「ワイングラスを掲げるギャグのおかげで、毎年、ボジョレー・ヌーボーの解禁イベントに呼ばれるようになっていました。たいていスーパーマーケットやショッピングモールで、乾杯を盛り上げて終了だったのですが、あるとき、品川プリンスホテルで行われたちょっと格式の高い解禁イベントに招かれて、フランス大使館の方やワインに詳しい方々の前で『今年のボジョレーはいかがですか?』と初めて味のコメントを求められたんです」
「何かそれっぽいことを言わなきゃ」と焦ったひぐち君は、聞いたことがあった表現を使って『今年のは重たいですね』と発言。しかし、その途端、会場には失笑とともにとてつもなく重たい空気が流れたという。
「ボジョレー・ヌーボーは、フレッシュ&フルーティーな味わいを楽しむ新酒なので、重たいわけがないんです。真逆のコメントでスベッてしまった僕は、ひと口しか飲んでないのに、顔が真っ赤になってしまって。これはちょっと勉強したほうがいいんじゃないかと考えたんです」
当時は、人気に陰りが見え始め、仕事が徐々に減り始めていた頃。相方の山田ルイ53世がラジオのパーソナリティにテレビのコメンテーター、文筆業と単独で仕事の幅を広げる一方で、ひぐち君は時間を持て余すように。事務所から「何か見つけろ」と発破をかけられながらも「たまに働きながら、旅行に行けて楽しいと思っていた」と、いたってのんびりしていたという。
「僕はネタも書けませんし、コンビを組んで事務所に入った時から、男爵さん(山田ルイ53世)との実力差もあって、事務所から『何か見つけろ』とずーっと言われ続けていたので、慣れっこになってしまっていたんです。でも、いつまでもこのままではいけないよなという気持ちもあったので、当時、後輩の小島よしおと飲んでは、どうしたらいいのかを相談していました。『俺、利きイチゴやるわ!』と小島に宣言したときもありました。翌日のお昼頃、小島から電話がかかってきて、『笑っていいとも』に出演している女優さんが利きイチゴやっているからもうダメですと言われてしまったんですけどね(笑)」
そんな中で出会ったのがワインだったのだ。恥をかいた経験を糧に一念発起、ワインスクールに見学に行ったところ、スタッフから「うちの生徒さんにはキャビンアテンダントの方が多い」と言われ、その場で申し込みの書類にサイン。知識ゼロの状態から、ワインエキスパートの資格を取るために「人生で一番勉強した」と振り返る。ちなみに、ワインエキスパートはソムリエと同等の資格。飲食店で働いている人がとるのがソムリエで、働いていない一般人がとるのがワインエキスパートだ。
自分に何ができるのか…いまの立ち位置に納得できたソムリエからの言葉
「あまりお酒を飲めるほうではなかった」というひぐち君だが、冷蔵庫に20〜30本のワインを常備して、朝は香りだけ、夜は口に含んで香りと味わいの違いを猛勉強。「仕事で移動中のときも、フランスとニュージーランドのソーヴィニヨンブランのワインをそれぞれ小瓶に入れて、東京から大阪までの新幹線の中でずっと嗅いでいた」という。
そんなひぐち君に対して、相方の山田ルイ53世はというと……。
「『ワインよりももっとお笑いの勉強をしたら?』と言われてました(笑)。でも、ワインエキスパートの資格を取った後、ありがたいことに、自分がパーソナリティを務める山梨のラジオ番組に呼んでくれました。名誉ソムリエに任命されたときには、事務所の先輩のカンニング竹山さんに『あいつのワイン熱は本物だ!』と各所で言っていただいて。それがキッカケで、ワイン関係の仕事が増えたので、『たまには奢れよ』と言われてます(笑)。ずっとお世話になりっぱなしです」
辰巳琢郎はじめワイン通のタレントは多くいるが、ワインの専門家としての自身の立ち位置をどう分析しているのか。
「正直、ワインに出会えたことは良かったのですが、これという物が見つかってホッとした感覚はまったくありません。 ネタをしている時も、僕は『ルネッサンス』を言わないほうですし。ワインに詳しいタレントさんは他にもたくさんいらっしゃいますし、僕はまだまだ勉強中の身ですね。でも、とあるソムリエの方に、ある日言われてハッとしたことがあるんです。ワインに対して、格式高そうとか、飲むのにルールがあるんじゃないかとか、難しいイメージがあって手を出せない方ってけっこういらっしゃいますよね。でも『ひぐち君がワインを語ることで、親しみやすさをもってもらえるよね』と。芸人としての僕のイメージがワインの敷居を下げて、ワインを飲む人を増やすことにつながるなら、それはいいことだなと今は思っています」
芸人だからこそできる、新しい仕事のかたちを模索「日本ワインの裾野が拡がったらいいなと考えています」
「きっかけは、北海道余市町にある『ドメーヌ・タカヒコ』の『ナナツモリ』というワインとの出会い。資格を取って初めて呼ばれた『LIFE with WINE』という日本ワインのイベントでのことでした。造り手の曽我貴彦さんから日本のワインは海外に比べて繊細な味わいと言われるけれど、だからこそ、うま味や出汁感が表現できて、京料理をはじめとする和食にとても合うと教えていただいたんです。ほかにも、山梨で有名な甲州種のワインは、ポン酢を使って食べるような鍋にめっちゃ合います。白ワインには、レモンやグレープフルーツなど柑橘系の香りが特徴のものがあるのですが、甲州に感じるのは、カボスやすだち、柚子といった和の柑橘の香り。これが、湯豆腐鍋や秋刀魚の塩焼きなんかにベストマッチするんです」
そのことを知ってから、営業などで地方に出るたびに、様々なワイナリーを訪問。その土地の土壌や気候によってワインの味わいが変わることを体感し、「どんどんハマっていった」「50年近く生きてきて、こんなにハマったものはない」と顔をほころばせる。
「近年、日本ではワイナリーが増え続け、現在、500軒以上あるといわれています。ワイン用のブドウ栽培や醸造の技術も上がっていて、美味しい日本ワインが本当に増えています。ありがたいことに、芸人という立場で、そういった日本のワイナリーのロケに行かせてもらったり、テレビ番組で僕がおすすめして紹介されたワインが1週間で3000本も完売したりと、うれしい展開が起きています。最近はスーパーやコンビニ、オンラインショップで手軽に買えるコスパのいいワインを教えてほしいと言われることも多くなってきたので、微力ながら、一人でも多くの人がそのワインを飲んでくれて、日本ワインの裾野が拡がったらいいなと考えています」
現在は、オンラインサロンにて、リモートワイン会を156回、リアルワイン会を21回開催しており、来年2月にはメンバーたちと余市町にてワインツアーを行う。その翌週には、一般参加できる九州ワイナリーツアーも計画。今後は全国でのワイン会やワイナリーツアーを実現し、ゆくゆくは、海外ツアーも組みたいと目を輝かす。
「おかげさまでワイナリーやブドウ農家さんとつながることができたので、僕だからやれることを考えて、実現させたいと思っています」
では、芸人として、ネタで再ブレイクを狙うという構想はないのだろうか?
「僕は、ネタを一切作れないので、そんな大それた野望はありません(笑)。正直、うちの事務所でワインの活動をしているのが僕だけなので、いまも試行錯誤していて、手探り状態なんです。芸能事務所のスタッフにとって、ワイン業界は未知の世界なので、当たり前ですよね。だからこそ、オンラインサロンを始めたのもそうですが、自分で考えて、僕だからこそできる、新たな仕事のかたちを作っていければと。僕の芸人としてのネームバリューがもっとあればいいのですが(笑)」
テレビ関係者の皆様、ここはいっそ、"ワイン芸人"として起用してみるのはいかがでしょうか。
取材・文/河上いつ子