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Luupはなぜ「キックボード」を選んだのか? シェアサイクル後発ながら3年で5000ポート拡大の背景

 昨今、都市部を中心に多く見られるようになったシェアサイクルサービス。中でも、21年に日本で初めて電動キックボードの展開を始めた「Luup」は、現在8都市でポート数は5100ヵ所に拡大。渋谷区・目黒区などでは、コンビニの数を超えるほどだ。一方で、「見ていて危なっかしい」「高速で歩道を走っている」などの安全面を危惧する声も上がっている。リスクや高いハードルもある中、前例のない乗り物を導入し、急速にシェアを伸ばした背景を同社に聞いた。

シェアサイクル事業は「高齢者のために」 すでに大手が広く展開、差別化いかに?

 Luupがシェアサイクルサービスをスタートしたのは、2020年の5月。当時は電動アシスト自転車のみの提供だった。同社代表の岡井大輝氏の祖母が認知症を患ったことがきっかけで高齢化問題に直面し、見えてきたのが交通の課題だ。

「日本の多くの街は、駅間移動は電車で容易にできますが、駅やバス停まではやや遠く、徒歩10~15分かかる住宅も多い。まずはこの移動の問題を解決しないと、これからの時代、介護サービスなどのCtoC事業も普及しないと考えたのが始まりです」(Luup広報・村本萌氏/以下同)

 そこで同社は、「電動」「小型」「1人乗り」の乗り物が新たに必要だと考えた。

「『電動』は世界的に環境に配慮した移動手段が求められているためです。『小型』は日本の道路事情を鑑みた時に、狭い道が多く存在するためで、最後の『1人乗り』は、地方では特に顕著ですが、バスが廃止されてしまうような状況が増え、運転手に頼らず1人でも利用できる移動手段が求められていると考えたからです」
 これら3項目を満たし、公道走行が認められ、世界的に普及していた唯一の乗り物が、『電動キックボード』だった。だが、日本ではあまり馴染みがなかったため、まずは電動アシスト自転車のシェアサービスから手を付けた。既に10年ほど前から、ドコモなどの大手が全国で広く展開していたが、どのような戦略を持って挑んだのだろうか。

「大きなラックを設置する形では、場所の制約があると考えていました。そこで弊社では、小さなスペースにテープだけ貼ってポートに。マンションや店舗の一角、駐車場の空きスペースでも設置できることから、拡大させていきました」

 既存の大きなスペースだと置ける場所が限られるため、利用時に結局歩く必要があるなどの難点があった。これら制約を払拭し、まずは50ポートから小さくスタートした。会社やサービスの知名度ゼロの所からの滑り出しだったが、2020年のコロナ禍真っ只中にサービス開始したことが功を奏した。

 密を避けられる移動が強く求められていた局面だった。また、飲食店が苦境を迎えていた中、渋谷近辺の飲食店に置いてもらうところから始めた。これが当たった。急増するテイクアウト需要を支える存在としてメディアにも注目され、着実にポート数と利用数を伸ばしていった。

ポートは“小さく密に”増設、女性も支持で急拡大 いまや不動産の宣伝文句にも

 満を持して、2021年4月に電動キックボードを導入。わずか2年ほどで全国5100ポート以上の設置に至り、アプリのダウンロード数は100万を突破した。

「立ったまま進むという乗り物自体の目新しさに加えて、街でポートや乗っている人を見かけること自体に宣伝効果があり、自然に知っていただけたのではないかと思います」

 ポートの増設には、車体に搭載したGPSも活用。移動データを見ながら、必要な場所を模索していった。また、Web上のフォームで「うちのマンションに置いてほしい」などのリクエストを受け付けており、利用者からの声に応える形で設置する場合もあるという。
「LUUPは短距離でご利用いただくことが多いため、近くにポートがないといけないと考えました。そのため、むやみにエリアを広げず、密度を担保しながら徐々に外に広げる形でポートを増やしていきました。東京だけで3000ヵ所以上ありますが、特に渋谷区や目黒区は需要が高く、結果としてコンビニエンスストアの数よりも多くなっています」

 現在は、都内20区、ほか三鷹市などにも拡大。最近では、「LUUPのポートあります」が不動産のアピールポイントとして活用されており、駅遠物件でも入居率が上がると、マンションでもポートを設置するところが増えている。

 利用者年齢は20〜50代と幅広く、通勤や通学、ちょっとした移動などの1〜2駅程度の利用が多い。また、自転車だと長いスカートが巻き込まれたりする懸念があるが、キックボードはしわになる心配もなく、服装不問のためか、女性の利用率も高いという。

無免許、ヘルメット未着用に「危ない」「怖い」の声 一部のルール違反者に運営も苦悩

 きちんと交通ルールが定まっていなかった中、政府による法整備のための実証実験も開始された。実証実験下ではあるものの大規模なシェアサービスとしては日本初の展開で、LUUPを含むマイクロモビリティ推進協議会が収集・提出した利用データの一部は、法整備の参考にされた。

 そして今年7月、ようやく改正法が施行。16歳以上であれば運転免許なし、外国人も利用可能になると、LUUPユーザーはさらに急増した。またしてもインバウンドが回復した好機に恵まれ、オーバーツーリズムで京都などではバスが足りない状況の中、これをサポートする形でも活躍をしている。
 それと引き換えに、一部マナーやルールを破る人も目立つようになった。アプリ上で交通ルールテストを受けて全問正解しないと乗れないシステムを設けているが、通行可能の標識や表示がない歩道での違反走行も見受けられ、周囲から「危ない」「怖い」との声が数多く上がっている。

警察や自治体と議論を重ねながら、これまで80回以上に渡って継続的に対面での安全講習会を開催しているものの、「法律が改正された=ルールが隅々まで周知されるわけではありません。情報を届ける難しさを感じています」と、運営も頭を悩ませているようだ。
 ヘルメット着用が罰則のない「努力義務」であることに対しても、疑問の声が相次いでいる。Luupとしても積極的に着用を呼び掛けているが、着用率は極めて低い。以前、ヘルメットのシェアリングも併せて実験的に実施したこともあったが、衛生面での抵抗や、盗難といった課題から定着しなかった。

 とはいえ、個人で持つには持ち運びが大変で、そもそもかばんに入らない。ゆえに今度は、折り畳み可能で、さらにデザイン性も重視したオリジナルヘルメットを開発。今後、展開を検討中だ。

ほか、現状のGPS(アメリカによって運用される衛星測位システム)では、正確な位置が測位しきれず多少のズレが生じており、歩道と車道が判別できない問題がある。そこで、準天頂衛星システム「みちびき」を利用した実証事業(外部サイト)にも参加した。
「一部の人たちのルール違反で、正しく使っている人たちが肩身の狭い想いをすることは避けたい。最近では、地方からのお問い合わせも増えています。観光のタクシーがない、集客しても移動手段がないなど、都市部以上に移動課題があるエリアの一助となれればと。そのためにも、交通ルールの普及は徹底していきたい」

 これだけ事業が成長した今も、若者だけでなく高齢者も対象としたサービスを充実させたいというLuupの理念は変わっていない。「弊社は車両の形にこだわってサービスを開始したわけではなく、より安定した乗り物を出来るだけ早く、安全に導入したい。それができれば、電動キックボードからは撤退しても構わないと考えている」と村本氏は語る。

 少子高齢化、街の価値向上、活性化のための移動課題の解決。電動キックボードは、そのきっかけ作りに過ぎない。『LUUP』のポートが発着点となり、駅前以外にも街の賑わいが生まれるのが理想形だ。新たな移動手段の定着は容易ではないが、これが叶えば、日本の駅集中ビジネス構造にも一石を投じることができるかもしれない。

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