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AIにはできない“細かすぎる考証”…ガンプラモデラーを陰で支える“絵師”「切磋琢磨し高めあう理想的な“共犯関係”」

シチュエーションなどをテキストで入力すると、AIがやってくれる便利なツールとして昨今話題となっている「AIイラスト生成」。一方で、「AI」にはできない“細かすぎる考証”から、ガンダムに登場するモビルスーツ(MS)を描き上げ、SNSで発表している人がいる。とさしん。さん(@tosashin1028)は、自身の解釈で、ガンダム登場MSのカラーなどをさまざまな仕様にアレンジしたイラストを発表。特にガンプラモデラーから圧倒的な信頼を得ており、イラストをもとに作られた作品が次々と発表されている。ガンプラモデラーを陰で支える職人“絵師”の矜持とは?

メンタルやられて引きこもったことが、“絵師”への第一歩

 幼いころから絵を描くことが得意だったというとさしん。さんだが、本格的に作品を描き始めたのは、社会人になってから。そのきっかけは、仕事でメンタルをやられて引きこもったことだったという。

「引きこもっていた時期があまりにヒマだったので、中高時代に描き溜めたオリジナルのメカを、タブレット端末で描き直し、ツイッターに投稿を始めました。そこで軽いノリで大好きなジオングを描いてみたら予想以上の『いいね』をいただいたので、これはオリジナルメカを見てもらう“客寄せパンダ”になると思って、描き続けていくうちに楽しくなって現在に至っております。正直に言うと今でも、見て欲しいのはモビルスーツではなくてオリメカの方なんです(笑)」

 作品を描く際に意識しているのは、「リアリティ(現実性)を出来るだけ表現すること」「今そこにある兵器としてのMSを出来るだけ表現すること」「形が大きく変わってもメカのイメージは逸脱しないこと」「自分が買いたいと思えるものを描くこと」。これだけで、すでに十分なこだわりを感じるのだが、もうひとつ、大切にしていることがあるという。

「MS・MAをデザインされた方々のことは意識しています。大河原邦男先生、出渕裕先生、永野護先生、カトキハジメ先生、藤田一己先生、明貴美加先生…。先生がたのデザインはどれも魅力的でシンプルにまとまっていらっしゃいます。自分ごときがゴチャゴチャ手を加えてしまい、ファンの方からの批判コメントが来るのではないかと、ビクビクする毎日です」

ガンプラモデラーが次々とモチーフにする現状「うれし恥ずかし状態で、恐縮」

 そんな同氏の作品が高く評価されているのは、その画力だけでなく、イラストの脇に添えられる“細かすぎる解説”。

「今は、調べ物が簡単にできるスマホは便利です。公式設定やWikipedia、ピクシブ百科事典ほか、個人の分析・見解まで出来るだけ検索して、それらを参考にしつつ、イラスト作業中に思いつきで描きこんだアイデア設定を矛盾のないように組み込んでまとめます。「とさしん妄想設定」の完成です。だから設定の作成は、イラスト完成の後になります。イラストアレンジの説明(言い訳)ができるので楽しい作業ですね。
 自分の描いた、または設定したMS・MAが立体化されたり、アニメで動いてどういう戦闘をするのか、妄想してニヤニヤしています」

 そんなとさしん。さんが考証・設定し、描いたイラストは、ガンプラモデラーからも一目置かれ、モデラー作品のモチーフにされている。例えば、レゴでモビルスーツを制作するモデラー(レゴビルダー)のYOGOさんは、『リックドムII』や『タコザク』などの“とさしん。作品”を立体化。“とさしん。作品”の魅力を以下のように語る。

「まず全体のプロポーションが抜群に格好いいです。力強さと美しさを兼ね備えた素晴らしいイラストだと思います。また各部の造形もとても工夫されていて、レゴで再現しようとひとつひとつをじっくり見ていくと、それぞれの形に意味を持たせていることが見えてきてさらに楽しめます。もうひとつは、繊細なディテールです。プラモデルに細かなディテールを入れることが流行っているので、レゴにもそれを取り入れたいと思うのですが、ただ単にごちゃごちゃさせれば良いというものでもないので、とさしん。さんのイラストは大変参考になります」(YOGO氏)

 また、グフ・フライトタイプなどの作品を発表しているモデラーのblackさんも、「とさしん。さんのイラストのズゴックを立体化するという無謀な挑戦で『世界』が変わりました」と、“とさしん。作品”との出会いが、モデラーとしての分岐点になったと語っている。これ以外にも、さまざまなガンプラモデラーに影響を与えていることについて、とさしん。さんはどのように思っているのだろうか?

「たかがシロウトの落書きに、ガンプラモデラーの皆様が刺激を受けてくれて制作の手助けになっていく。まさにうれし恥ずかし状態で、恐縮です。また、それが逆に、こちらの制作意欲、モチベーション向上の源になっております。これからもモデラー皆様の琴線に触れるような作品が投稿できるよう精進していこうと思っています」

 ガンダムという人気コンテンツを通じて、モデラーと“絵師”が互いに刺激し合い、切磋琢磨して素晴らしい作品を残し合う理想的な“共犯関係”。AIには決してできない作品を今後も期待したい。

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