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『D.LEAGUE』発足からパリ五輪正式種目で注目される“生業としてのダンサー” 国内シーンの現在地と課題
かつてのサポート的位置づけからダンス&ボーカル人気で主役のポジションへ
そんな流れのなか、ダンスがメディアで取り上げられる機会が増えると同時に、それまでの“アーティストの後ろで踊る”というサポート的なポジションから変化が生じる。ZOOやDA PUMPといったボーカルとダンサーがともにメインアクトになるグループが登場。TRFやEXILE、AAAなど人気グループが台頭し、ダンス&ボーカルがジャンルとして確立されていく。
次のポイントになるのが、2012年の中学校学習指導要領の改訂。中学校の保健体育の一環としてダンスが必修化され、一般層のダンスに対する意識改革につながるとともに、若年層への裾野が一気に広がった。現在では、高校や大学ではダンス部やダンスサークルが運動部のひとつとして並び、特に女性に人気のクラブ活動になっている。
SNSの台頭で若い世代の新人にも日の目が当たるようになった
そうした状況とともに大きく変わったのが、ダンサーを取り巻く社会環境。かつてはダンスだけで生活をしていけるのはひと握りだったが、現在ではプロになる道も多様になり、ダンスを生業とする環境が広がっている。ダンスで食べていくのが特別なことではなくなったことで、ダンサーを目指す人が増える好循環に入った。
その環境変化の裏側を鎌田氏は「20年ほど前のダンス市場は、スタジオも数える程度しかなかったので、指導するダンサーの枠も少ない。また、アーティストのバックダンサーや振り付けを担当するのは、限られたひと握りのダンサーだけで、そのダンサーのレッスンを受けて認められると仕事がもらえる属人的な縦社会でした。そのため一部のダンサーしか食べていけなかった状況です」と振り返る。
「それが、ここ10年くらいでかなりフラットに変わりました。新たなクリエイティブを求めて若い世代の新人を起用する流れが生まれ、徐々にダンサー個々の能力が認められるようになりました。いまではアーティストやプロデューサーが、SNSで気になるダンサーを見つけて抜擢することも増えています」
プロリーグ発足で“生業としてのダンサー”への期待と関心…活躍の場が世界に
実際、エイベックス所属の人気グループのライブ演出をTRFのSAMが手がけていたり、有名アーティストの総合演出をダンサーが担っている。鎌田氏は「ダンサーが長けている総合的なクリエーションやクリエイティブワークが認知されてきて、弊社アーティストでもダンサーと共創するクリエイティブも増えています」と語る。
そうしたなか、日本ダンスシーンを次なるステージへと誘う動きが生まれたのが2021年。世界初のダンスのプロリーグとなる『D.LEAGUE(D.LEAGUE)』がスタートした。2週間に1回の試合が約半年間続く同リーグでは、毎試合オリジナルの新曲でダンスの勝敗を競う。それまでは既存の曲に振り付けをするのがストリートダンスのオリジナリティだったが、ダンサーが振付はもちろん、楽曲まで毎試合オリジナルを創作するという新たなステージを作るとともに、彼らの潜在的なクリエイティブ能力を世に示した。
その初代チャンピオンに輝いたのは、BTSのコリオグラファーとしても知られる世界的に活躍するダンサーアーティスト・RIEHATAをディレクターに迎えた『avex ROYALBRATS』。初代優勝メンバーのReiNaは、NCTやStray Kidsなど人気K-POPアーティストのコリオグラフを手がけるなど、海外でも活動している。もともと海外で活躍していたトップダンサーを呼び込んだ『D.LEAGUE』は、ダンスシーンのレベルアップ&活性化とともに、さらに日本人ダンサーの活動の場を世界へ広げる可能性がある。
『D.LEAGUE』の課題はマスへの認知度 SNSではなく地上波放送がカギに
「ダンスは多様なジャンルやカルチャーがあり、ダンスの価値を端的に伝えることは非常に難しい。パフォーマンスもクリエーションもすばらしいが、その才能や凄さが一般的に広く認知されにくいのが現状です。特に現在の『avex ROYALBRATS』ディレクター・Yuta Nakamuraの創作力はダンス界にとどまることなく、もっと幅広いシーンで活躍ができると思います。人をハッピーにするクリエイティブは活用の場をもっと創造していきたい。それがD.LEAGUEのブランディングになり、目指す世界になると思う。『D.LEAGUE』には、本当に優秀で才能あふれる人材が集まっている。そこを一般層に伝え、なんとしてもメインストリームを目指したい。そのためにも、地上波放送が重要だと考えています」
『D.LEAGUE』に参戦した当初の初代ディレクター・RIEHATAについて鎌田氏は「ダンサーとして国内トップクラスの人気や知名度であったが、『情熱大陸』(TBS系)や『スッキリ』(日本テレビ系)など、地上波で放送されたことが、彼女の生き様や魅力を一般層に広く伝えた要因だと思う。『D.LEAGUE』やダンサーの“価値”を一般層へ認知拡大させるためには、地上波の放送は不可欠です」と言う。
先ごろ、3大会ぶりの優勝で日本中に歓喜をもたらしたWBC(ワールド・ベースボール・クシック)。連日に渡る熱戦の模様、「侍ジャパン」の内情や新たに生まれた深い絆などが地上波放送によって多くの視聴者に届けられた。“テレビ離れ”が叫ばれる状況においても、より幅広い世代に周知・認知させる装置として、いまだ機能していることを立証。鎌田氏が地上波放送をキーとして捉えているのも合点がいく。
パリ五輪を経て世界的スター輩出とダンス文化の一般化に期待
現状は、30年にわたって脈々と続いてきたムーブメントが大きく実を結ぶブレイク前夜という状況だ。では、日本のダンスシーンはこれからどのような歩みを進めていくべきなのか。ダンサーの地名度は上がり、職業としても確立されてきたものの、鎌田氏は「もっとダンスがもたらす社会的価値が認知され、ダンス人口が増え、ダンサーが生み出すクリエーションで社会全体を彩る機会が増えてほしい」と未来を見据える。
キッズからインストラクターや講師、プロまでを一貫して育成するエイベックスのスクールシステムは業界随一。そこからダンサーを育てるとともに、人気ダンス&ボーカルグループを数多く輩出し、『D.LEAGUE』でも初代チャンピオンに輝くなど、シーンをけん引。それはダンス人口の裾野を広げ、シーンの発展につながる。
「エイベックスにはキッズからプロまで歌やダンスを学ぶ環境があり、そこからスターを生み出すことが、また夢見る子どもたちを増やして、次世代を育てていく“人材エコシステム”があります。それを作り続けることが、我々のミッションです。また、ダンスシーンにおいては、ひと昔前のバッグダンサーや振付師といった限られた職業枠から、幅広く活躍できる時代になりました。さらに、『D.LEAGUE』とともにダンサーがあらゆるシーンで活躍できる夢のある仕事を共創していくことが重要であり、そこを期待していきたいです」
(文/武井保之 写真/片山よしお)
『第一生命 D.LEAGUE 22-23』について
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